私たちは、「そこに友がいる。私は孤独ではない」とわかるだけで生きていける!!|「女囚701号 さそり」に学ぶテクニック(5)
※引き続き、「女囚701号 さそり」を分析します。本記事の前に、以下の記事をご覧になることをお勧めします。
主人公が登場してから「主人公のキャラ紹介」を始めるのでは、遅すぎる!
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「女囚701号 さそり」には、ユニークなシーンや演出がたくさんあります。
本記事では、その中でも特に私が好きなものをいくつかご紹介しましょう。
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まずご紹介するのは、「ナミが初登場する直前のシーン」です(第1幕)。
・Step 1:刑務所にサイレンが響き渡る
・Step 2:看守たちが慌てて駆け出す
・Step 3:牢(雑居房)の中の囚人たちもざわつく
・Step 4:で、場面替わって刑務所の外。ナミと由起子が河原を走る(これがナミの初登場シーンです)。そう、先ほどのサイレンは2人の脱走を伝えるものだったのです
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ここでご注目いただきたいのは、【3:牢(雑居房)の中の囚人たちもざわつく】という場面。
この場面では、3人の囚人が以下のような会話をしているんですよ。
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囚人A「この騒ぎは普通じゃないよ!」
囚人B「フケだよ!脱走さ!」
囚人Cが驚いて「この真っ昼間にかい!?」
囚人B「ああ。真昼間だって脱走する奴はいるよ」。囚人Bはニヤリと笑って「1人だけねぇ」
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囚人Bの言う「真昼間だって脱走する奴」とは、もちろんナミのことです。
つまり私たち鑑賞者は、ナミが初登場するよりも前に、【ナミ = 囚人仲間から「あいつはただ者ではない」と認識されているとんでもない囚人】と知るのです。
「ジョジョ」風に言えば、「さすがナミ!あたしたちにできないことを平然とやってのけるッ!そこに痺れる!憧れるゥ!」というわけですね。
そしてこの結果として、私たちは「ナミはすごい奴らしいぞ!」「どうすごいのだろう!?」とワクワクしながらナミの初登場シーンを迎えることになります。
要するに、初登場シーンからして、既にナミに魅了されているのです。
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重要なのは、【鑑賞者がナミに魅了される→ナミが初登場する】という順番です。
【ナミが初登場する→鑑賞者がナミに魅了される】ではありません。
主人公が顔を出す前から主人公の紹介を始めて、鑑賞者に「早く登場しないかなー!」とワクワクしてもらう。そして満を持して主人公が登場する……この段取り!
これが物語を盛り上げるのです。
主人公が登場してから主人公の紹介を始め、そして鑑賞者に好きになってもらおうというのでは遅すぎる!
※参考:このテクニックは、「斉木楠雄のΨ難(第1期)」の【第4χ(第16話) 弟子にしてくだΨ】でも使われています。詳しくは以下の記事をご覧ください。
私たちは、「そこに友がいる。私は孤独ではない」とわかるだけで生きていける!
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続いて取り上げるのは、上述の脱走後のシーンです(第1幕)。
・Step 0:ナミと由起子が脱走した
・Step 1:しかし、すぐに看守が追跡開始。2人は間もなく捕まってしまう
・Step 2:2人は刑務所に連れ戻され、それぞれ独房に入れられます。「懲罰房」という奴です。そこは暗く、狭く、汚く、じめじめしており寒くて、刑務所というよりもまるで下水溝の中のような場所……2人は両手両足を拘束され、そんな地獄のような部屋の床に転がされるのです(いわゆる「イモムシ」と呼ばれるスタイル)
※2人がそれぞれ独房に入っているという点にご注意ください。2人は同じ部屋にいるのではありません。
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懲罰房の床に転がるナミ、そして由起子……この時、2人の気持ちはどのようなものだったでしょうか?
もちろん、絶望以外の何物でもないでしょう。
2人はわずかながらシャバの空気を吸った。「嗚呼、自由だ!」と心が躍ったに違いありません。ところが……いまや2人は懲罰房の中だ!
青い空の下から、この世の地獄へ真っ逆さまです。これが絶望でなくて何が絶望か!
2人は強い女です。ゆえに、めそめそ泣いたりはしません。嘆き悲しんだりもしない。
とはいえ、絶望していたことに間違いはないと思うんですよね。
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と、そんな時です。
「ごつ、ごつ」と壁を叩く音がかすかに聞こえてきた。
さらに続けて「ごつ、ごつ」。
ナミはハッとします。そして耳を澄ます。
「ごつ、ごつ」。
確かに聞こえる……!
そう、隣の独房に収監されている由起子が、床に転がったまま頭を壁に打ちつけているのです。
ナミも自身の頭を壁にぶつけてみる「ごつ、ごつ」。
すぐに返事が返ってくる「ごつ、ごつ」。
この時、2人の目に涙が浮かびます。
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このシーン、巧いなぁと思うんですよ!
2人は「ごつ、ごつ」という音でコミュニケーションを図っているわけですよね。
無理に意訳するなら、「私はここにいるよ!」「あなたはいる?」「私は大丈夫」「あなたはどう?」なんて具合でしょうか。
2人はいま、地獄にいます。
しかも、2人はお互いの顔を見ることもできない。言葉を交わすこともできない。
しかし……「私は孤独ではない。そこに友がいる」とわかるだけで励まされる!生きていける!
これ、「ナミにとっての由起子が、そして由起子にとってのナミがどれほど大きな存在かよくわかるシーン」です。
2人は、親兄弟よりも深い絆で結ばれていると言えるでしょう。互いが互いを支え合っているのです。
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ところで……これ、一見すると物語冒頭のごく些細なやりとりに見えるのですが、じつはメチャクチャ重要なシーンなんですよ。
というのもこのシーンがあるからこそ、本作後半の
・1:由起子がナミをかばって殺される
・2:ナミが由起子の死に強いショックを受ける。そしてこれをきっかけとして、完全なる化け物(復讐鬼)に化す
……というストーリー展開に説得力があるんだと思うんですよね。
だって、2人は地獄のような場所で支え合った仲。そりゃ、身を挺して相手をかばうのも自然なことでしょう。また、そんな友が殺されたら、化け物にだってなるでしょう。
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(担当:三葉)