「万事上手くいかない青年A→ある日、航空機のパイロットを偶然見かけて何か閃いたようだ→しかしその内容は明かされない」というシーンを通じて、「Aは何を閃いたんだ!?」「何をするつもりだ!?」と読者・鑑賞者の好奇心を刺激する ~映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」の場合
◆概要
【「万事上手くいかない青年A→ある日、航空機のパイロットを偶然見かけて何か閃いたようだ→しかしその内容は明かされない」というシーンを通じて、「Aは何を閃いたんだ!?」「何をするつもりだ!?」と読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】は「読者・鑑賞者の心を掴んで離さない語り口」のアイデア。
◆事例研究
◇事例:映画「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」
▶1
本作の主人公は、フランク(16歳の少年)。
いろいろあって、
・Step1:実家を飛び出したフランク。彼は大都会マンハッタンにやってきた。
・Step2:生きるためにはカネが必要だ。しかしフランクはほとんど無一文である。そこで、小切手詐欺を働こうと考えた。
・Step3:だが、まったく上手くいかない。何しろフランクは未成年だし、これまで銀行と取引した経験がない。ゆえに彼には信用というものがないのだ。したがって、相手が小切手による取引に応じてくれない……。詐欺以前の問題である。
・Step4:途方に暮れるフランク。
そんなある日のことだ。
・Step5:街角、1台のタクシーが停まった。車から降りてきたのは……おおっ!航空機のパイロットである。制服をパリッと着こなし、大変に格好いい。
・Step6:パイロットに続いて、美しいスチュワーデスが4人降りてきた。
・Step7:彼らは立派なホテルに入っていった。支配人らしき人物が恭しく応対する。傍にいた子供がパイロットに駆け寄って「サインして!」「私にも!」。
・Step8:そんなパイロットの様子を、フランクはじっと見つめていた。目が釘づけだ。「そうか……そういうことか……」といった感じの表情である。
▶2
ご注目いただきたいのは、Step8だ。
このシーンを見た鑑賞者は、「おっ!フランクは何か閃いたようだぞ」とピンと来たに違いない。
だが、彼が何を閃いたのかはわからない。このシーンには描かれていない。ゆえに気になるのだ「何を閃いたんだ!?」「何をするつもりなんだ!?」と。かくして物語から目を離せなくなる……!
つまり、【「万事上手くいかない青年A→ある日、航空機のパイロットを偶然見かけて何か閃いたようだ→しかしその内容は明かされない」というシーンを通じて、「Aは何を閃いたんだ!?」「何をするつもりだ!?」と読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】というテクニックである。
▶3
なお、Step8の次のシーンでフランクは手紙を書く。曰く「愛するパパ、僕はパイロットになります」。
つまりフランクは、Step8で「よーし、一所懸命に勉強してパイロットになろう」と決意したのだろうか。
いや、違う。
彼はパイロットを見て、「パイロットは社会的ステータスの高い職業だ→つまり、パイロットの制服を着れば信用を得られるのでは?→信用さえ得られれば小切手詐欺なんてちょろいぞ」と閃いたのである。かくして彼の詐欺師人生が幕を開ける……!