引けねぇよ!だって、僕たちは無数の屍の上に立っているのだから!!|『シンデレラマン』(3)
テーマ発表!!
第1回、第2回に引き続き、映画「シンデレラマン」をベースに新しい物語を妄想します。
※「シンデレラマン」のストーリーなどについては、第1回の記事をご参照ください。
妄想開始!
嘉村 「シンデレラマン」は、貧困やケガに苦しみながらも、「家族」の生活費のために、そして「希望を失った人びと」を鼓舞するために戦い続けた男の物語ですが、「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……前回に引き続き、一体どんな物語にするといいかディスカッションしてまいりましょう!
三葉 承知しました。
嘉村 前回ご紹介したのは、「『シンデレラマン』 ~『異世界クソ野郎』編」でした。
案②
嘉村 それでは「案②」にまいりましょう!
三葉 はい。「案②」は、「『シンデレラマン』 ~『部活しようぜ!』編」です。
嘉村 部活!
三葉 詳細をご説明する前に、「シンデレラマン」風の物語を作る時に注意すべきポイントを振り返っておきましょう。
三葉 ……ですね(より詳しくは第1回の記事で)。
嘉村 ふむふむ。
三葉 さて、以上を踏まえて……「案②」!「シンデレラマン」と比較すると以下のようになります。
三葉 さて……マンガやアニメの「部活もの」では、「○○しなければ廃部」というエピソードをよく見かけますよね?
嘉村 あー、「部員を□人集めないと廃部」とか。
三葉 そうそう。例えば「けいおん」は、「部員を4人集めないと廃部」というところから物語が始まります。
嘉村 あるいは、「次の試合で勝たないと廃部」というのもありますね。
三葉 ええ、「ROOKIES」の最初の試合がそのパターンですね。
三葉 とまぁ、こうした「○○しなければ廃部」エピソードですが……これ、「シンデレラマン」風の物語に仕立て上げることができると思うんですよ。
嘉村 ほぉ。
三葉 すなわち……主人公は15歳の男子。物語は、彼が高校に入学するところから始まります。桜の花びらが舞う中、彼は浮かれていました。うわーい!高校だーい!
嘉村 じつに浮かれていますねぇ。
三葉 彼は、高校ではボクシング部に入ろうと決めていました。
嘉村 ほぉ。
三葉 家庭に経済的な余裕がなく、ボクシングの強い名門校に入ることはできなかったけれど……関係ないさ!結局は本人のやる気の問題だもんね!オレ、メッチャ頑張っちゃうもんね!
嘉村 なるほど。応援したくなる主人公ですね。
三葉 しかし……ボクシング部は、ここ数年不良のたまり場になっていました。まともにトレーニングをする者はおらず、部室にたむろってはダベったり、リングの上でプロレスごっこをしたり。……そして3月、見かねた教師らがいよいよ部室を閉鎖し、ボクシング部を廃部にしたのでした。
嘉村 ふむ。
三葉 それから1か月後、すなわち4月……入学したばかりの主人公が愕然とする「えっ……今年から廃部!?」。部室を覗くと……何だよ、このファンキーなカツラやら、手品道具やらは!教師が口ごもる「そりゃお前、去年の忘年会の余興で使った……いやいや!子どもはそんなこと知らんでよろしい!……あのなぁ、大人ってのは大変なんだぞ。ただでさえ期末テストだの、受験だのと忙しい時期に、暇を見つけてはネタを考え、練習に励んでだな、そしてPTAの父兄をもてなすわけだ。なのにあのクソババアどもは……いや、何でもない。で、何の話だっけ?」「あの、ボクシング用品が見当たらないようですが……リングやグローブは、どこにしまってあるんですか?」「んー……あっ、リングは老人ホームに寄付したって聞いたな。ご老人がハワイアンダンスを踊るのに、舞台として使うそうだ」「ハワイアンダンス……」「グローブは、幼稚園あたりに寄付したんじゃなかったかな?」。
嘉村 なるほど……。
三葉 とまぁ、そんなところから主人公のボクシング生活が始まります。
嘉村 ゼロからのスタート……というか、マイナスからのスタートですね。
三葉 まずは、教師らに余興グッズを片付けてもらう。次いで、老人ホームやら幼稚園やらを回ってボクシング用具を返してもらう。
嘉村 ふむ。
三葉 これでようやくボクシング部らしくなってきた……と思いきや、次の関門。「部員が4人集まらねば、部活として認められぬ。当然、部室は与えられぬ」。
嘉村 なるほど。
三葉 主人公は奔走し……どうにか、部員3人を集めることに成功しました。1人目は、気の強そうな空手経験者です。
嘉村 ほぉ、これは戦力になりそうだ。
三葉 2人目は、「自分を変えたいんだ!」と熱く語るひ弱ながり勉くん。
嘉村 まぁ……やる気は買いですね!
三葉 そして3人目は、「痩せたいんだ!」とこれまた熱く語る肥満少年。
嘉村 うーむ……「高校アフロ田中」みたいなボクシング部ですね。
三葉 部室と用具を確保し、部員も集めた!さぁ、これで万全!……かと思いきや、最後の障害が立ちはだかりました。すなわち、「インターハイの予選1回戦で勝利せよ」。
嘉村 ほぉ。
三葉 顧問に就任した教師が言いました「何つーかさ、校長がお前らを嫌っているわけよ」。主人公は動揺し、頭を抱える「えーっ!にゅっ、入学早々校長に嫌われたー!」。「あっ、間違えた。『お前ら』っていうか『ボクシング部』な。校長が、ボクシング部を嫌っているんだよ」。がり勉君がメガネをクイッと持ち上げる「先生、言葉選びは慎重に」。肥満少年がうなずく「言葉は人を殺すからね。僕もこれまで『デブ』だの『ブタ野郎』だのと罵られて、何度傷ついたことか。まったく困ったものだよ」。空手少年が言う「四の五言ってねぇで、お前は痩せろ」。
嘉村 ……なかなか相性のよさそうな連中ですね。
三葉 教師が続けます「つまりだな……ボクシング部が不良のたまり場になっていたことは、お前らも知っているだろ?校長はそれがアレルギーになっているんだよ。『ボクシング』と聞くと『不良』を想起し、さらに『不祥事』『懲戒処分』『減給6か月』『離婚』『慰謝料』『孤独死』とイメージが広がる。そして血圧が上昇し、目の前が真っ暗になるらしい」。がり勉くんが言う「それは心の病気なのでは……」。主人公は再び頭を抱えた「くっ!僕たちはどうすればいいんだ!神は僕たちを見放し給うたか!?」。
嘉村 ふむふむ。
三葉 しかし、教師は首を横に振りました「いや、話は簡単だ。真面目にやっているとアピールすればいいんだ。つまり……そう、1勝だ」「1勝……」「インターハイの予選で、1回戦を突破してこい!それですべてが解決する!」「なっ、なるほど!よーし、やるぞー!先生、それで予選というのはいつやるんですか?」「うむ!来月だ!」。
嘉村 来月……。
三葉 主人公が絶句する「らっ、らっ、来月!?あの……僕らは4人ともボクシング未経験なんですが……」「知っている!」「えーと……」「団体戦だ!4人中3人勝てば突破できるぞ!」「あの……」「頑張れ!」「……がっ、頑張ります!」。こうしてボクシング部の存続を賭け、主人公らは試合に臨むことになりました。
嘉村 しかし、いくら何でも1か月では……。
三葉 そうですね。まともにやっていては如何ともしがたい。一か八かの神風的作戦に頼るしかありません。例えば……「あしたのジョー」でお馴染みのクロスカウンターとノーガード作戦に賭け、試合までのすべての時間をその練習につぎ込むとか。
嘉村 なるほど……。
三葉 あるいは……がり勉くんは腹をくくりました「僕は捨て石になろう」。
嘉村 捨て石……。
三葉 「僕がこれから1か月間トレーニングに励んでも、勝てる確率はわずか3.2%だ」。
嘉村 あー、スポーツマンガで往々にして見かけるデータキャラなんですね。
三葉 そうですね。
嘉村 ふむふむ。
三葉 「したがって、僕はスパイに徹するよ。対戦相手について徹底的に調べ上げ、きみたちの勝利に貢献してみせる」。主人公は、その無私の精神に感激しました「がっ、がり勉!」「僕を『がり勉』と呼ぶのは止めてくれないか。やはりここは『データマン』とか『ミスター・データ』とか……」「わかったよ、がり勉!」。
嘉村 ふーむ。
三葉 がり勉君は、早速翌日から動き始めました。近隣高校のボクシング部に潜入し、徹底的に観察する。しばらくして……彼は気づきます「ふーむ。学校ごとに、随分とファイトスタイルが違うんだなぁ」。ある学校の選手は、総じてストレートを中心とした攻撃的なボクシングをする。しかし別の学校の選手は、揃って守りが固い。また別の学校では、右フックの練習に熱心だ。どうやら、各校の監督のボクシング観や指導スタイルが影響しているようです。つまり……がり勉君は閃く「そうか!注目すべきは監督だ!1人1人の選手同様……いや、選手以上に監督に注目すべきなんだ!彼らのボクシング観や指導スタイルを理解することが重要だ!」。
嘉村 なるほど。
三葉 かくしてがり勉くんは、各校の監督を徹底的にマークし始めます。家族構成や趣味を調べる。会社員に扮して、彼らの行きつけの居酒屋に潜入し、偶然を装って話しかける。そして直に話を聞く。
嘉村 ははぁ……「僕はまだ野球を知らない」みたいですね。
三葉 このように主人公らは全力を尽くし、やがて試合の日を迎えました。彼らが勝利するだなんて、誰も思っていなかった。ところが……嗚呼、まさか!苦闘の末に、主人公らは1回戦を突破します。
嘉村 おー!
三葉 主人公ら4人はもちろん、顧問の教師も歓喜する「よくやった!よくやった!じつに頑張った!」。主人公は、殴られすぎてフグのように膨らんだ顔をほころばせました「僕たちやりました!」。……こうして、ボクシング部は廃部を免れました。
嘉村 ふむふむ!
三葉 教師がねぎらう「付け焼刃だってのに、本当によくやったよ!インターハイはこれで辞退して、明日からはじっくり基礎練習に励もうな」。しかし主人公は「いえ、このまま2回戦、3回戦と戦いますよ」。教師が驚く「おい、話が違うぞ!お前たちは体力もなければ、基本的なガードのテクニックすら身につけていない。勝ち負け以前に、大ケガしかねない。だから、もしも1回戦を突破したとしても、そこで辞退するって決めたじゃないか!」。
嘉村 なるほど。確かに一理ありますね。
嘉村 ところが、主人公らは首を横に振る「……」。教師は困惑します「なぁ、がり勉!」「……」「データマン!」「……ええ、先生のおっしゃる通りです。いまのままでは危険です。僕たちが2回戦でケガをする確率は43.5%もある」「だろ!危険すぎる!」「しかし……時にはデータを無視してでもやらねばならぬことがあるんですよ」「おっ、お前……データを捨てる気か!」。
嘉村 乾貞治みたいなことを言いますね。
三葉 さて、主人公らが危険を冒してまで戦い続けなければならぬ理由とは何でしょうか?
嘉村 ふーむ。
三葉 主人公が言います「先生、勝者には『勝者の義務』ってものがあると思うんですよ。見てください……彼ら、泣いてますよ。言わば、僕たちは彼らの屍の上に立っているんです。そう易々と辞退なんてできっこないじゃないですか!」。
嘉村 なるほど。確かに、「勝者は、それまでのすべての対戦相手の想いを背負っている」と言えますね。
三葉 ええ、それです。かくして主人公らは、無茶を承知で戦い続けるのでした。……で、おしまいです。
嘉村 ふむふむ。
三葉 以上、「『シンデレラマン』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!
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「シンデレラマン」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。
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最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。
(担当:三葉)