「キャラAがなぜかふいにムッとする→と思いきや、今度はすねる」といったシーンを通じて、「Aのこの言動は何だろう?」「もしかして○○か?」と疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する ~小説「妹さえいればいい。」の場合
◆概要
【「キャラAがなぜかふいにムッとする→と思いきや、今度はすねる」といったシーンを通じて、「Aのこの言動は何だろう?」「もしかして○○か?」と疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】は「読者・鑑賞者の心を掴んで離さない語り口」のアイデア。
◆事例研究
◇事例:小説「妹さえいればいい。」(第1巻)
▶1
本作の主人公は、伊月(男性20歳)。
彼には
・Step1:義弟がいる。千尋(16歳)だ。伊月の実父と千尋の実母が結婚したことで、2人は義兄弟になった。
・Step2:千尋は勉強もスポーツも、そして家事さえもこなす完璧超人である。対する伊月は、実家から少し離れた場所で一人暮らししているくせに生活力皆無。
・Step3:というわけで、千尋は折を見て伊月の部屋を訪問し、身の回りの世話をしてやっていた。
物語序盤、いつものように伊月の部屋にやってきた千尋。
・Step4:彼は慣れた手つきで夕飯を用意した。
・Step5:その後、2人はあれこれ雑談しながら食事を共にした。
▶2
ご注目いただきたいのは、Step5である。
じつはこのシーンでは、千尋が所々で気になる言動を見せるのだ。
・気になる言動1:伊月が「世話を焼いてくれるのはありがたいが、彼女とデートしたりしなくていいのか?」と何気なく質問すると……
・気になる言動2:伊月が「なぜ彼女を作らないんだ?」と訊くと……
・気になる言動3:伊月が生活力ゼロで、洗濯すらまともにできないと知ると……
恋人の話になるとなぜかムッとし、なぜかすねる千尋。一方、伊月が生活力皆無で到底1人では生きていけぬとわかるとなぜか喜ぶ千尋。
じつに意味深である。
「千尋のこの言動は何なのだろう?」と疑問を抱いたり、「もしかすると千尋は伊月に対して、家族愛・兄弟愛以上の感情を抱いているのか?」「しかし千尋は男性だし……同性愛者ってこと?」「あるいはもしかして、じつは千尋は女だったり?」と無意識の内にあれこれ推理したりした読者は少なくないと思う。
そして、疑問を抱いたら答えを知りたくなるのが人情というものだ。
かくして私たちは物語に引きずり込まれる……!
つまり、【「キャラAがなぜかふいにムッとする→と思いきや、今度はすねる」といったシーンを通じて、「Aのこの言動は何だろう?」「もしかして○○か?」と疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】というテクニックである。
なお第1巻のラストにて、千尋が抱える大きな秘密が明かされる。