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「働いたら負け」っていうか、「ニートこそ正義」だよね!!|『40歳の童貞男』(3)

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テーマ発表!!


 第1回第2回に引き続き、映画「40歳の童貞男」をベースに新しい物語を妄想します。

※「40歳の童貞男」のストーリーなどについては、第1回の記事をご参照ください。


妄想開始!


嘉村 「40歳の童貞男」は、「一見負け組にしか見えない『40歳の童貞男』が、彼の中に眠っていた『パワー』を解放し、逆転勝利する物語」ですが、
「設定を思いっきり変えても面白くなるのでは?」ということで……前回に引き続き、一体どんな物語にするといいかディスカッションしてまいりましょう!

三葉 承知しました。

嘉村 前回ご紹介したのは、「『40歳の童貞男』 ~『高校生』編」、「『40歳の童貞男』 ~『百合JK』編」の2案でした。


案③


嘉村 それでは「案③」にまいりましょう!

三葉 はい。「案③」は、「『40歳の童貞男』 ~『ニート』編」です。


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嘉村 ニート!

三葉 詳細をご説明する前に、「40歳の童貞男」風の物語を作る時に注意すべきポイントを振り返っておきましょう。


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三葉 ……ですね(より詳しくは第1回の記事で)。

嘉村 ふむふむ。

三葉 以上を踏まえて……「案③」!「40歳の童貞男」と比較すると以下のようになります。


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三葉 ストーリーをご紹介しましょう。……主人公は30歳男性。彼はニートです。大学卒業以来、ニート歴は8年目。

嘉村 ふむふむ。

三葉 一口に「ニート」と言っても、ニートになるきっかけは様々です。主人公の場合は、就職活動でつまずいた。大学在学中、ごく一般的なスケジュールに沿って就職活動を始めたものの、「オレの『強み』……つっ、強み!?そんなものあったかなぁ……」「『入社後やりたいこと』って言われても……まだ入社してないのに、そんなのわかる訳ないじゃん!」と立ち止まってしまったのです。学友は、「そんなのテキトーでいいんだよ、テキトーで!」「嘘も方便ってヤツさ」「企業だって都合のいいことしか言わない訳でさ。要するにタヌキとキツネの化かし合い。真面目に考えるとバカを見るぜ」と言う。しかし……彼にはその「テキトー」ができない。

嘉村 ふーむ。真面目で正直、嘘のつけない人なんですね。

三葉 ええ、そうですね。しかし、それは悪く言えば「不器用で要領が悪い」ということです。

嘉村 確かに……。

三葉 かくして彼の就職活動は困難を極め、何度も何度も不採用通知を受ける内にすっかり心が折れてしまう。「働くのが怖い」「社会が恐ろしい」……メンタルブレイクです。そして、彼はニートになった。

嘉村 なるほど。

三葉 さて……ある日、主人公は中学時代の友人とばったり遭遇します。友人は明るく陽気な男で、「よぉ、久しぶりだな!この後、○○、□□らと会うんだ。明日は日曜日だからな。夜を徹して盛り上がろうって寸法さ。丁度いい。お前も来いよ」と誘ってくれる。主人公は嬉しい。孤独な毎日です。人との交流に飢えている。仲間とバカ話をしたり、酒を飲んだり……最高だろうなぁ!

嘉村 ふむ。

三葉 しかしその一方で、気になることがある。友人らは、正社員として働いているに違いない。ところが、自分はニート。恥ずかしい……ニートだって知られたくない!

嘉村 つまり「40歳の童貞男」の登場人物は、「童貞 = 恥」という価値観を持っていましたが……。

三葉 ええ。「案③」に登場するのは、「ニート = 恥」という価値観です。

嘉村 なるほど。

三葉 主人公の心は「人恋しさ」と「恥ずかしさ」の間で揺れ動きますが……結局のところ、彼は会合に加えてもらうことにしました。友人らは、皆いいヤツでした。主人公は愉快な時間を過ごす。しかしやがて、話題は仕事に及ぶ。ある者は上司の愚痴をこぼす。別の者は「近々昇進しそうだ」と嬉しそうに語る。働いたことのない主人公は、マンガやアニメで得た知識をフル動員して、必死に話を合わせます。しかし……ダメだった。トンチンカンなことを言ってしまう。友人が首をかしげる「お前、どんな会社に勤めているんだ?なんか……『サラリーマン金太郎』みたいな会社だな」。そして勘の鋭い友人が指摘する「……お前、働いてないだろ?」。

嘉村 バレてしまったかぁ……。

三葉 バレてしまったからには仕方がありません。主人公は、「じつはニートなんだ」と打ち明ける。友人らは驚き、冷やかします。しかし、彼らは基本的に善人ですからね。すぐに、「よーし、力になるぜ!」と主人公の肩を叩く。働くことに恐怖心を抱いている主人公は当初及び腰ですが、友人らから「頑張れよ!応援するぜ!」「オレたちまだ30だ。これからだよ、これから!」と激励される内に、「よっしゃ!一丁頑張ってみるか」という気になる。

嘉村 ほぉ。

三葉 こうして主人公は、友人らからアドバイスを受け、訓練を積むことになりました。「ニート生活が長いからな。まずは何よりも、他人とのコミュニケーションに慣れた方がいいだろう。よっしゃ、合コンだ!」「最低限のビジネスマナーは必須だよな。とりあえず、マナー講座に行ってみようぜ」「IT業界は慢性的な人手不足だ。プログラミングを身に着けると就職に有利じゃないか?」なんて具合ですね。

嘉村 ふむふむ。

三葉 主人公は、友人らの期待に応えようと必死に努力するものの……なかなか上手くいかない。「こんなことをしてもどうせダメだ……。オレ、きっと働くのに向いてないんだよ……」とすっかり気弱になる。

嘉村 ふーむ……。

三葉 さて、そんなある日のことです。主人公が住宅地を歩いていると、向こうから老婆がやってくる。両手に買い物袋を持っている。重そうだ。ヨロヨロよろめいている。どうも危なっかしい。……とは言え、それまでの主人公だったら見て見ぬふりしたことでしょう。道端で誰かがぶっ倒れているとか、血反吐をまき散らしているとか、そういう緊急事態以外で見ず知らずの人にお節介を働くのはなかなか大変なことですからね。

嘉村 まぁ少なくとも都市部では、他人に声をかけるのは躊躇われますよね。不審者扱いされたらたまらないし。

三葉 そうですね。しかしその時、主人公は思いきって声をかけました。友人らの特訓の甲斐あって、彼は少しばかり積極的な人間になっていたのです。

嘉村 ほぉ。

三葉 彼は、買い物袋を家まで運んでやることにした。老婆は「坂道が辛くてねぇ。本当に助かるよ。ありがとう」と何度も何度も礼を言う。

嘉村 ふむふむ。

三葉 家に着くと、「ぜひお茶を飲んでいってくれ」と誘われる。主人公は「それでは少しだけ」とごちそうになる。老婆はニコニコして、「親切な若者に会えて本当に嬉しいよ」。主人公はこそばゆい。老婆は続ける「みんなに自慢してやろ」。「みんな?」「この団地に住む連中さ。若い頃に引っ越してきて、それから云十年と近所付き合いをしているんだ。この年になると、みんな腰や膝を痛めているからね。いつも買い物に苦労しているんだよ」。主人公は思う「確かにそうだよなぁ。スーパーは駅の傍にしかないけれど、あそこまで行くのはしんどいだろうなぁ……」。老婆が嘆息する「御用聞きってわかるかい?スーパーも御用聞きをしてくれると助かるんだけどねぇ……」。主人公は思う「御用聞きかぁ。御用聞き、御用聞き……要する『サザエさん』のサブちゃんだよな」。そして切り出す「よければ、やってみましょうか?」「何をだい?」「その……御用聞きっていうのを」「えっ?」「週1回くらいだったらお手伝いしますよ」。主人公は心の中で付け足す「どうせニートで、暇を持て余しているからね」。

嘉村 ほぉ……。

三葉 最初は週1回、例の老婆の買い物を無償で代行するだけでしたが……間もなく、他の老人から「オレも頼みたい」「私もお願いできないかね」と声がかかる。頼まれれば断れない。主人公はできる限り応じてやる。やがて、「1回あたり300円の手間賃を支払う」といったルールも生まれる。些細な金額ですが、この際金額の大小は関係ない。主人公は単純に嬉しい。金を貯めて、両親に食事をごちそうしてみる。両親は驚き、目に涙を浮べる。

嘉村 おー。

三葉 とまぁ生活にハリが出てきた主人公ですが……これとは対照的に、友人らにはトラブルが降りかかります。ある者は、出世競争で部下に追い抜かれる。別の者は、過労ゆえ鬱っぽくなる。さらにまた別の者は、上司の不倫を目撃してしまい、いやがらせを受けるようになる。友人らは呟きます「お前が正しかったよ……。働いたら負けって本当だったんだな。ニート最高……」。そう、いまや「ニート = 恥」という価値観は崩れ、「主人公 = ニート」が「友人ら = 非ニート」を上回ったのです。

嘉村 なるほど。

三葉 ……がしかし、物語はまだ終わりません。ある日、主人公のもとに団地の自治会長がやってくる「やぁ、噂は聞いていますよ。いつもありがとう。ところで今日は提案があるんだ」。「提案ですか?」「ああ、きみに起業してもらいたい」。

嘉村 起業!

三葉 自治会長は、かつて有名企業の役員を務めていたそうで、さすがに言うことが合理的です「きみも知っての通り、『買い物難民』は団地全体の問題だ。きみの力を求めている老人がたくさんいる。しかし、きみの善意にどこまでも依存するのは間違っていると思う。いや、ボランティア精神はありがたい。しかし、カネがなければできないことだってたくさんあるはずだ。対価を支払うから、それを使ってサービスを充実させてほしいんだ。例えば、スタッフを雇ったり、車を買うのもいいだろう。インターネットを使った仕組みを導入するのもアリかもしれない。いろいろアイデアはあるだろう。そこで、きみには起業してほしいんだ。会社組織にした方がいろいろ便利だ。例えば、役所から支援金を受けることもできるだろう。……団地の老人を代表してきみに頼みたい。我々のために起業して、本格的なビジネスを展開してくれないだろうか」。

嘉村 ほぉ!

三葉 なるほど。自治会長の言うことはもっともです。確かにその通りですが……主人公はニート。働くのが怖いのです。「ビジネス」だの「起業」だのと言われると、途端に及び腰になる。彼は悩む。できれば逃げ出してしまいたい。

嘉村 ふむふむ。

三葉 しかし、老人らの顔を思い浮かべるとそうはいかぬ。彼は腹をくくる。リストラされた友人も雇い入れ、かくして起業するに至ったのでした。……で、おしまいです。


案④


嘉村 続いて、「案④」にまいりましょう。

三葉 はい。「案④」は、「『40歳の童貞男』 ~『不良高校生』編」です。


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嘉村 今度は不良高校生!

三葉 まずは、「40歳の童貞男」との比較表をご覧ください。


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三葉 基本的なストーリー構造は、「40歳の童貞男」や「案③」と同様です。「案④」の場合、舞台は不良高校で、登場人物は「喧嘩が弱いのは恥」という価値観を共有しています。ところが主人公は……じつは人を殴った経験がない!彼はビビリなのです。

嘉村 なるほど。

三葉 ある日それがバレて、お節介な友人らによる特訓が始まります。「まずはクソ度胸をつけるべし」ということで、街でたむろする不良にガンを付けたり、あるいは「腕力を強化すべし」ということで筋トレをしたり。

嘉村 ふむ。

三葉 一方そんな中、主人公が道を歩いていると……1人の少女が、不良らにからまれているのを見かける。友人らの特訓のおかげで、多少なりとも度胸のついた主人公は不良らに声をかける「おい、止せよ」。不良らは「生意気な野郎だ」と殴りかかる。対する主人公は……やはりダメだ!殴る勇気はない。ボコボコにやられ、ひっくり返る。格好悪いことこの上なし!ところが……これが幸いした。

嘉村 ほぉ……と言うと?

三葉 少女は誤解したのです「殴り返して喧嘩になれば、私にも害が及ぶかもしれない。敢えてやり返さぬことで、私を守ってくれたのですね!」。

嘉村 あー……なるほど。

三葉 改めて見ると、それは大変かわいらしい少女でした。さらに驚くべきことに、彼女の兄は泣く子も黙る不良界のドンだった!ドンは事情を聞き、主人公に感謝する「今日からオレを義兄と思ってくれ。困ったことがあれば、いつでも頼ってくれよな。すぐに馳せ参じよう」。ドンの義弟ということで、主人公は一目置かれるようになります。

嘉村 ふむふむ。

三葉 かくして主人公は、美しいガールフレンドと、不良界における地位を手に入れました。そしてそれとは対照的に……彼の友人らは悲劇に見舞われます。例えば喧嘩でボコボコにされて入院したり、警察に補導されたり。

嘉村 ふーむ。つまり……「喧嘩が弱いのは恥」という価値観に反して、いまや「主人公 = 腰抜け」が「友人ら = 喧嘩のプロ」を上回ったわけですね。

三葉 ええ、その通りです。しかし、物語はまだ終わりません。

嘉村 ふむ。

三葉 すなわち……例の少女とのデート中、不良に絡まれた!少女は、待ってましたとばかりにウインクする「今日は遠慮しなくていいわ。私のことは気にせず、やっちゃって♡」。しかし、「やっちゃって」と言われても困るのです。何しろ主人公は、相変わらずのビビり。一方的にボコボコにされる。少女が痺れを切らす「どうしたの!?」。主人公は、ぶん殴られながら打ち明けます「オレ……人を殴るのが怖いんだ!どうしても殴れないんだ!」。少女が呟く「……早く言ってくれればよかったのに」。主人公は倒れ込む「ごめん。きみに嫌われたくなくて……」。もう終わりだ。振られるに違いない。ところが少女は微笑んだ「そんなことで嫌ったりしないわ。それに、どちらか1人が強ければそれで充分でしょ?」。次の瞬間、少女がひらりと飛び上がり、不良らを蹴とばす。不良らはその場にひっくり返る。脳震盪を起こしている様子です。「……きみは強かったんだね」「そうなの。だから男性に強さは求めていないわ。私は、あなたの優しいところが大好きよ♡」……で、おしまいです。

嘉村 なるほど。

三葉 以上、「『40歳の童貞男』をリスペクトした物語」のアイデアをご紹介しました!


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 「40歳の童貞男」の研究はこれで終了です。ありがとうございました。

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 最後までお読みいただきありがとうございました。みなさんの今後の創作・制作のお役に立てば幸いです。

(担当:三葉)

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