とある事情でパワーも武器もすべてを失う→「ただの冴えない中年男」として強敵に立ち向かうことになる
◆概要
ヒーローものでは、【戦いを前にヒーローにハンデが課される】という展開を見かけることがある。
【とある事情でパワーも武器もすべてを失う→「ただの冴えない中年男」として強敵に立ち向かうことになる】はその一例。
◆事例研究
◇事例:映画「マイティ・ソー」
▶1
本作の主人公は、ソー。
彼はアスガルド(北欧神話に登場する神々の住む世界)の第一王子であり、雷の力を司る「雷神」。アスガルド最強といわれる戦闘力の持ち主だ。
ところが……
・Step1:上述の通り、ソーは身分も能力も優れた男だ。そしてそのせいだろう、ひどく傲慢で自分勝手、怒りっぽく、視野の狭い青年に成長してしまった。
・Step2:ある日、そんなソーの性格が災いしてアスガルドに危機が訪れた。
・Step3:オーティン王(現王、ソーの父)は激昂。まずは①ソーのパワーを封印し、さらに②ソーの武器(「ムジョルニア」と呼ばれる驚異的な力を持つハンマー)に「最強の武器を持つに値する者しか持てぬように」という魔法をかけ、その上で③ソーを地球に追放してしまった。
かくして……
・Step4:すべてを失ったソー。彼は、右も左もわからぬ地球で生きていかねばならなくなったのだった。
・Step5:その後、あれこれ苦労しつつも、地球人たちと交流する内にソーは次第に成長を遂げていく。
そしていろいろあって、物語後半……
・Step6:ソーを憎む者が、ソーを抹殺すべく人型兵器「デストロイヤー」を地球に送り込んできた。デストロイヤーは強い。メチャクチャに強い。地球の秘密組織「S.H.I.E.L.D.」や、アスガルドからやってきたソーの仲間たちが戦いを挑むがまったく歯が立たない。
・Step7:そんな中……ソーは覚悟を決めた。彼は地球人やアスガルドの仲間たちを避難させると、たった1人でデストロイヤーに向かっていった。彼は思う「これでいい。俺が死ねば皆は救われる」。
・Step8:そしてソーは死にかけるが……しかし、その時だった。突如ソーにパワーが戻った。さらに、ソーの武器が空を飛んで戻ってきた。そう、皆のために自らを犠牲にする覚悟を決めたソーは、「最強の力、最強の武器を持つに相応しい男だ」と認められたのだ。最強の戦士ソーの復活である!
・Step9:ソーは、超パワーによってデストロイヤーを葬り去った。
▶2
ご注目いただきたいのはStep3、そして6である。
つまりデストロイヤーという強敵と対峙した時、ソーは何もかもを失っていた。パワーもなければ武器もない。ただの冴えない中年男である。
そしてそれゆえに、
・1:どう考えても勝ち目のないソーは、自らの死をもって地球人や仲間たちを救おうと考えた。嗚呼、この自己犠牲精神!あの傲慢で自分勝手な王子がここまで成長したのだ! →多くの鑑賞者は感動したことだろう
・2:その後、ソーはパワーと武器を取り戻す。そしてデストロイヤーをぶちのめす。嗚呼、このカタストロフィ!最高だ! →多くの鑑賞者はスカッとしたに違いない
もしもソーがパワーと武器を失っていなかったら、こうした感動やスカッと感は存在しなかっただろう。ヒーローにハンデが課されていたからこそ、最高のバトルになったわけだ。