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「類似性の高い形状」を架け橋としてシーンをつなぐ ~「骨のこん棒」から「軍事衛星」へ

サル「ギャー!!」

映画「2001年宇宙の旅」


◆概要

【「類似性の高い形状」を架け橋としてシーンをつなぐ】は「シーンとシーンのつなぎ方」に関するアイデア。


◆事例研究

◇事例:映画「2001年宇宙の旅」

▶1

本作は人類誕生前の地球から始まる。

・Step1:400万年前のこと。人類の祖先にあたるサルたちが、ヒョウに襲撃されたり、別のサルのグループと水飲み場を巡って争ったり、夜の闇に怯えたりして暮らしていた。

・Step2:ある日、サルたちの前にふいに謎の物体(モノリス)が出現した。後々明らかになることだが、それは異星人が遺した道具であり、生命に知性をもたらす力を持っていた。

・Step3:一部のサルがモノリスに触れ、知性を獲得。動物の骨をこん棒として使い始めた。すなわち、獣を叩き殺してその肉を食う。他のサルを殴り殺し、抗争で勝利を収めるといった具合だ。

・Step4:さて、他のサルとの抗争に勝利した後のこと。1匹のサルが歓喜し、骨のこん棒を宙に放り投げた。骨のこん棒は宙を舞い、やがて落下を始め……と次の瞬間、画面が切り替わる。

・Step5場所は宇宙、軍事衛星が地球の周りを飛んでいるのが見える。そう、およそ400万年の時をスキップして物語の舞台は現代(2001年)に移ったのだ。


▶2

ご注目いただきたいのはStep4と5。「空を舞う骨のこん棒」が「宇宙を飛ぶ軍事衛星」にパッと切り替わるという点だ。

ここが面白い。

というのも、一見すると骨のこん棒と軍事衛星の間には何の共通点もなさそうに見える。しかし、じつは両者は形状がよく似ている。いずれも白く、細長い。つまり「空を舞う骨のこん棒」と「宇宙を飛ぶ軍事衛星」という本来はまったく不連続・無関係な映像が、「形状の類似性」を架け橋としてスムースに接続されているわけだ。


▶3

しかしそれにしても……はて。

本作の制作者は、なぜわざわざこのようなつなぎ方をしたのだろうか?この「骨のこん棒と軍事衛星のスムースな接続」にはどのような意味が込められているのだろうか?

深読みしようと思えばいくらでもできてしまうのだが、以下、比較的多くの人にご納得いただけるのではないかと思われる説を2つご紹介しよう


<1:「人類は本当に進歩したのか?」と疑問を投げかけている>

ヒトは、他の動物とは違って道具を使う。道具を使うことこそがヒトの特徴であるといえる(実際にはヒト以外にも道具を使う動物はいるのだが)。つまり、動物の骨を道具として使い始めた瞬間(Step3)、これこそが人類誕生の瞬間だったのだ

そしてそれから400万年を経て、いまや人類は人工衛星を保有し、宇宙開拓に乗り出している

思えば随分遠くにきたものである。嗚呼、人類は進歩を遂げたのだ!


ところで……上述の通り、人類最初の道具は骨のこん棒だ。

では、その道具を何に使ったのか?私たちの先祖が最初にやったこと、それは殺害だ。獣や同族を殺すのに使ったのだ。

一方、人類最先端の道具・人工衛星。正確には、このシーンに映るのは軍事衛星である。つまり、人を殺す道具だ。


というわけで、骨のこん棒と軍事衛星!この2つをパッとつなぐことで、「人類は本当に進歩したと言えるのだろうか?」「一見すると進歩したように見えるが、じつはより強い武器を生み出す力を得ただけであり、本質的な部分では、嗚呼、400万年前から何も変わっていないのではあるまいか?」と鑑賞者に問いかけていると考えられる。


<2:「人類がいま一度進化を遂げる」という物語の展開を示唆している>

上述の通り、動物の骨を道具として使い始めた瞬間(Step3)、これこそが人類誕生の瞬間である。しかし、道具を手にした人類が最初にやったのは獣や同族の殺害だった。つまり、われら人類はその誕生の瞬間からして血なまぐさい存在だということになる。

そして、400万年経ったいまも軍事衛星なぞという血なまぐさい道具の開発に心血を注いでいるのだ。その本質は何も変わっていない!


嗚呼、こんな人類に未来はあるのだろうか?いや、あるまい。いつか滅亡するに決まっている!

では、どうすればいいのか?

答えは簡単だ。サルがヒトへと進化したように、いま一度モノリスの力を借りて進化すればいいのだ。より知性的で、より平和的な存在へ!


実際、本作終盤で主人公のボーマンはモノリスと出会い、新たな次元へと進化を遂げる。

「骨のこん棒と軍事衛星のスムースな接続」はこの展開を示唆していると考えることができるだろう。


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