「口裂け女捕獲作戦の決行前、部下が訊いた『どうやって捕まえるんですか?』→しかし上司は面倒くさいのか、『後のお楽しみだよ!』と言って教えてくれない」という展開によって、「一体どうやって捕獲するんだ?」といった疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する ~映画「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-01【口裂け女捕獲作戦】」の場合
◆概要
【「口裂け女捕獲作戦の決行前、部下が訊いた『どうやって捕まえるんですか?』→しかし上司は面倒くさいのか、『後のお楽しみだよ!』と言って教えてくれない」という展開によって、「一体どうやって捕獲するんだ?」といった疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】は「読者・鑑賞者の心を掴んで離さない語り口」のアイデア。
◆事例研究
◇事例:映画「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!FILE-01【口裂け女捕獲作戦】」
▶1
本作の主人公は、工藤(中年男性)。
彼は、とある映像制作会社のディレクターである。性格は短気で、しかも暴力的。パワハラなんて日常茶飯事だ。
アシスタントを務める市川(若い女性)はいつも苦労していた……。
いろいろあって、
・Step1:口裂け女が実在することを確信した工藤。
ある晩、
・Step2:彼は市川とともに車に乗り込んだ。そして、口裂け女が出没するスポットまでやってきた。
・Step3:車内、工藤は興奮気味だ。市川に向かってこう語った「世界初、史上初の口裂け女の捕獲だよ?売れるぞー!このDVDは売れるぞ!これ売れたらお前にも金一封出してやるぞ」――そう、「口裂け女が姿を現すまでここで張り込み→いざ出現したらとっ捕まえる→その捕獲劇の一部始終をカメラに収めて→それをDVDにして売りまくってやろう→これで大儲けだぜ!」というのが工藤の計画だ。
ハッスルする工藤とは対照的に、
・Step4:市川は困惑気味である。彼女は口ごもった「いや、でも、その、どう捕まえるかっていうのを何も聞いていないんですけど……」「工藤さん、何するつもりなんですか?」。
・Step5:すると工藤は「何するって、追いかけて捕まえるんだよ!」。――さすがはパワハラ上司。いきなり怒鳴る。
・Step6:いやいや、追いかけるって……市川は訳がわからない。何しろ、口裂け女はメチャクチャに足が速いのだ。人間の足では到底追いつけまい。かといって車で追跡するといってもここは住宅地である、小回りが利かないのでやはり逃げられてしまうだろう。
・Step7:市川が訊く「でも追いつけないですよね?」「網でもかけるんですか?」。
・Step8:工藤は部下にあれこれ訊かれるのが嫌いなのだろう、声を荒げた「あん?網ってお前……この人数で網なんかかけれるわけねーだろ、バカ!遊びじゃねぇーんだよ!バカ!」。さらに舌打ちして「チッ!それは後のお楽しみだから、お前は黙って撮ってりゃいいんだよ!」。
・Step9:市川は体を小さくする「はい、すみません……」
その後しばらくして、
・Step10:いよいよ口裂け女が姿を見せた。
・Step11:直後、工藤は車のエンジンをかけた。そして躊躇なくアクセルを踏み込み――ドン!口裂け女に車をぶつけた。
・Step12:市川が悲鳴を上げる「何してるんですか!?」。
・Step13:口裂け女は車に跳ね飛ばされたものの、さすがは怪物である、すぐに起き上がって走って逃げていった。
・Step14:工藤は車を降りる。そして、口裂け女を追いかけた。手には金属バットが握られている。工藤は住宅地を走りながら叫んだ「どこだよ!」「出てこいや、オラ!」。
▶2
工藤の破天荒っぷりが最高の本作だが――ご注目いただきたいのは、Step4-9である。
口裂け女捕獲作戦の決行にあたって、市川は訊いた「工藤さん、何するつもりなんですか?」「でも追いつけないですよね?」。
至極当然の疑問である。
多くの鑑賞者も「そうそう、そうなんだよ。一体どうやって捕まえるつもりなんだ?」と関心を抱いたに違いない。
ところが工藤の回答は「何するって、追いかけて捕まえるんだよ!」「チッ!それは後のお楽しみだから、お前は黙って撮ってりゃいいんだよ!」――以上!
詳細は教えてくれない。
ゆえに私たち鑑賞者は気になるのだ。「このパワハラ暴力男、化け物相手に何をするつもりだ!?」と。
かくして画面から目を離せなくなる……!
つまり、【「口裂け女捕獲作戦の決行前、部下が訊いた『どうやって捕まえるんですか?』→しかし上司は面倒くさいのか、『後のお楽しみだよ!』と言って教えてくれない」という展開によって、「一体どうやって捕獲するんだ?」といった疑問を喚起し、読者・鑑賞者の好奇心を刺激する】というテクニックが使われているわけである。