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白川夜船

 横浜で最初の休みに、中華街へ行ってみようと思い立って部屋を出た。
 今と違ってネットもスマホもない頃だったから、知らない場所への行き方は事前にガイドブックなどで調べるか、駅で調べるしかない。この時は、わざわざ事前に調べるほどでもないだろうと思ってとりあえず横浜駅まで行ってみた。
 ところが、行ったはいいが、そこから何線に乗って何駅で下りたらいいものか、果たしてとんとわからない。みなとみらい線ができるよりも随分以前で、「中華街」と名の付く駅がなかったのである。
 さすがに準備が足りなすぎたかと反省しながら、構内を彷徨っていたら、ふっと「山下公園・中華街方面行き」の看板が見えた。渡りに舟とばかり行ってみると、水上バス乗り場である。本当に舟だったかと感心した。

 こちらは中華街へ行けるのだったら舟でも電車でも構わない。係の人に切符を一枚くれと云ったら、「お一人で?」と確認してきた。そう云っているのに、随分念入りなことだと感心しながら「はい」と答えた。
 切符を持って一番に乗り込んだら、後からカップルが二組と観光客のおばさんトリオが乗って来た。一人で構えているのは自分だけである。水上バスとはどうもそういうものらしい。切符売場でわざわざ確認されたのも得心がいった。
 じきに舟は出たけれど、何だか居心地が悪くて、早く着いてほしいと思った。

 山下公園で舟を下りた。
 山下公園には子供の頃に来た覚えがあるが、何をしたとは覚えがない。だから別段懐かしい心持ちはしなかった。ただ中国人が太極拳をしているのを物珍しく感じたばかりである。
 そこから道路を渡って、中華街を一頻り歩いてみたけれど、一人で歩いたってあんまり楽しくはない。
 そのうち腹が減ったので、適当な料理屋に入った。品目と値段が手書きされただけの簡素なメニュー表を見て、わけもわからず排骨麺を頼んだ。たまたま目に止まったのを頼んだだけで、そもそも排骨麺がどういうものか知らないから、美味いかどうかもわからなかった。
 段々日が傾いて来て、また山下公園から水上バスに乗って帰って来た。

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百裕(ひゃく・ひろし)
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