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“長い長い昼と夜をどこまでも生きていきましょう”~映画『ドライブ・マイ・カー』

村上春樹原作、濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』を見た。

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心に傷を抱えた男女が、自分に向き合うことで、傷を乗り越えようとしていくストーリー。ありきたりなヒューマンドラマにあるような傷の舐め合いはなく、ドライでありながらも、きちんとそれぞれの人物が浮き彫りになっている。そして、ヒューマンドラマにロードムービーと劇中劇を組み合わせる事によって、絶妙なバランスの新しい世界観が構築されている。三時間という時間を感じさせない、計算された映像と、劇中劇の言葉が生きた見応えのある作品だった。

主演の西島秀俊、三浦透子が車の運転を通して、心を通わせていくのに無理がないようにするには、やはり三時間という時間が必要なのだと思う。先が読めそうで予想がつかない物語の展開は、とても引き込まれた。

異色だったのは、主人公の妻が亡くなるまでのオープニングが、とても長く丁寧に描かれていたこと。普通の映画であれば、妻の葬儀辺りから物語を始めても、展開には差しさわりないのに、生前の妻の痛々しささえ感じる妖艶さを纏った孤独な生き様を、観客に見せつけることで、その先の劇中劇にも通じたリアリティを作っている。台詞は全体を通して少ないが、絵の見せ方が台詞になっている。説明しなくても物語が進むように、計算されていて裏切らない。

愛する(依存する)事、される事で、人は強くもなるし弱くもなる。孤独になった時、本当の自分が見えるのは、辛くても苦しくても、自分しか向き合う人がいないからだ。

多様性を感じさせる、多言語の劇中劇が、本筋に徐々に寄り添っていく様は見事。ドライブシーンの美しい映像美を見るだけでも、旅をした気分にさせてくれる。ラストの想像をかき立てる終わり方にも、希望が持てた。


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そろそろ上映終了が近いですが、オススメです。


※タイトルの“”内は劇中劇に出て来る台詞を引用





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