なつだね
朝。久しぶりに8:30なんかに起きた。
そのまま夢うつつで、二度寝しているようなしていないような、細く光が差し込む部屋で寝転ぶ。
2時間ほど経って、買い物から帰ってきた母が今日は暑かったと言うから、ベランダに出てみることにした。
広い青空に、風がすうっと鼻の奥を抜けていく。
ああもう、夏服を着る頃だなぁと思った。はたまた、プールが始まったばかりでまだ水が冷たく感じるような初夏、6月のようにも思えた。
夏服のブラウスは半袖と長袖との2枚があるのだけれど、真夏になっても私たちが半袖を着ることはほぼない。
中学生らしいと言えばらしい、集団の中に溶け込むための「長袖の方がかわいい」という共通認識があった。
汗が額や首すじを伝って背中とブラウスをくっつけて離さなくても、体育のあとの更衣室のにおいにむせそうでも、私たちはいつまでも長袖を選ぶ。
というか、なるべくはセーラーがよかった。
冬服の、長袖の、紺のセーラー。全然憧れていたものとは違うし、スカート丈も長くてダサいけれど、それでも一番マシに思えた。
だからぎりぎりまでセーラーを着て、夏服の期間に入ったらやっと長袖のブラウスを取り出す。
今思えば本当に、あの半袖をもっともっと着ておけばよかった。
もっともクーラーがあたって寒かったのだ。とはいえ、暑いのに無理をして長袖を着ていた日も確かにあった。
プールを見学した日なんかは特に、半袖の方が良かったんだろう。
◇
ぺたぺたとサンダルの音を鳴らしながら、プールの方へ向かった。
暑い————。
見学者用のレポートを提出するためにシャーペンだけを持って更衣室に入り、授業に参加する友だちと喋りながら開始を待つ。
ロッカーが足りないとか、虫が出たとか、ゴーグルを忘れたとか、とにかく騒がしい中で1人制服を着たままなのは窮屈だった。
影を選んで、プールサイドに腰掛ける。
間違えてヘアピンを刺したまま授業に参加してしまった友だちが、私に持っていて欲しいと預けに来た。
冷たい指先、錆びそうなヘアピン、水しぶき。
濡れた身体が水着をてかてかと見せ、まるでゴムのようだと思う。
いつのまにか、空気も夏のにおいに変わっていた。
私も、泳ぎたいな。めいっぱい腕を伸ばしてクロールをしたり、背泳ぎをして眩しさに目を細めたり、息を止めて水の中に潜りたい。
それにしても今日は、暑いな————。
◇
そんな中学生のときを思い出していた。
ほら、もう、なつだね。
おわり
あとがき
今日はとても夏っぽい空気だったように思います。
春が一瞬で通り過ぎて、気がつけばもう季節は夏前。びっくりしてしまいます。
時間は誰にとっても平等で、待っていてはくれません。そんな話を、少し前のnoteでもしました。
そろそろ半袖を着て出掛けたいです。とはいえ、出掛ける予定などないのですが。どこにも行けませんが、行きたいところはたくさんあります。
いつかの未来のために、今はたくさんの楽しみを集めていきたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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