
SUGALABO S 2024.11
はじめに
SUGALABOによる会員制ワインバー、「S」に参りました。
実際に食べたもの
Sはアラカルトスタイル。
好きなものを、好きな組み合わせで頂けます。(チーズとワインを摘むのも良し、たっぷりフルコースも良し、なのだとか。)
今回はお勧めいただいた中で特に気になるものを選ばせていただき、コース仕立てにしていただきました。

白ワインビネガーでマリネされた白菜。噛む度にじわじわと広がる酸によって輪郭を持ちつつも、柔らかな甘みとふくよかさによる広がりもある。最後に余韻として、柚子の柑橘らしい香りがふわっと鼻をくすぐる。
いくらから弾けるまろやかな塩とコクと相まって、旨味と酸と塩とのバランスが整った味わいに。

むっちりとした弾力としょきっと一太刀で噛める柔らかさ、両方を持った鴨。咀嚼の度に、力強い旨味とレバーを彷彿させるような滑らかで深いコクを感じます。
そこへフォアグラのピュアな甘み、ポワローの瑞々しい甘みとほんのりと感じる酸、点で加わる岩塩のアクセント。
一口ごとに変化する、味わいのグラデーションが「もう一口…」と手を止めさせてくれない。

水のように清らかで癖っ気がない、ピュアな甘みを持ったエキス。一噛みで滝のように溢れてくる、ジューシーなセップ茸です。
そんなセップ茸の旨味がじわりと浸透したクリームは、濃厚なコクの中に瑞々しさも受け取れる。
その後にチーズの塩気とコクがインパクトと、パセリ(かな?)の爽やかな余韻を生みます。
食べ進めると各具材が溶け込み、香り、旨味、コクの流れがシームレスに感じられるように。
実りの秋らしい、豊かな味わいの詰まった一品。

個人的に一番楽しみにしていたお品。
以前頂いたジビエのピカタ、鮑のパイ包みの感覚が心に強く残っていたためです。(ジビエ×パイ包み)
パイ包みの中は、赤ワインで煮込まれた猪肉。
むっちりと肉肉しさを残した箇所、ほろりと繊維が細やかに解ける箇所、牛すじのコラーゲンのような甘い脂がぷるんととろける箇所。様々なサプライズがギュッと詰まった、プレゼントボックスのようです。
また、煮込み単体ではなく、パイのワンクッションがあることで、パリッした食感とバターや小麦による香ばしい味わいが良いアクセントと深みを加えます。
そして、特筆すべきはソースでしょう。
パイ包みの具材を作った出汁に、ガストリック(砂糖をキャラメリゼさせたものに、赤ワインビネガーとフォンドボーを加えたもの)、フォンドボー、赤ワイン、スパイス、そして猪の血を加えて仕上げたもの。
一言で表現すると、一晩寝かせたカレー…いや、何十年も熟成させたワインのようなしなやかさ。
血の臭みや赤ワインの渋み、スパイスによるトゲは、勿論無い。深遠なるコクやじわりと効かせたスパイスによる味わいの濃淡が、非常に滑らかに、非常に心地良く広がり、引いていく。
柔らかで鮮やかな秋色に染まった丘陵をゆったりと歩いていくような、豊かさと華やかさと心地良さ。
赤ワインで煮込んだ猪肉を、具材と出汁とそれぞれのアプローチで仕立て、再び1つの皿に落とし込むことで生まれる一体感。
そして、その過程における一捻りが新鮮な感覚をも創出しています。

甘い物を挟みたいということで、お口直しのデザートです(笑)
奈良の柿、京都末富の大納言、アールグレイのスムージー(感覚としてはアイスクリームをより滑らかにしたもの)、アールグレイのジュレ、仕上げに酢橘。
熟した蜜と果物らしい瑞々しさ両方を持った柿と、しっとりと広がる大納言の甘み。これらの甘みによる満足感はありつつ、アールグレイの渋味の余韻や酢橘の香りが非常に軽やかに、さっぱりに仕上げます。

締めのパスタとして、季節の食材を使ったパスタをご提供いただきました。
とろなすからは、じゅわーと染みるエキス。洋梨のような甘みと、焼かれたことによる香ばしさを余韻として感じる。ヒメタケはシャキッと活き活きとした歯応えとほんのりと青みも。
唐辛子の華やかな辛味のキレが味わいの強弱を付け、そして生ハムの滑らかな塩気とコクがヴェールとなって、全体を包み込む。
瑞々しさと生命力の弾ける夏を過ぎ、冬に向かって力を内にと蓄えていく、そんな季節の移ろいを彷彿とさせる品でした。
(何となく、元気溌剌な女の子から徐々に思いを内に秘めていく少女へと成長した、「赤毛のアン」が頭に浮かびました。)

まだまだ食べ足りなかったので、定番のボロネーゼをリピート。
ソースのベースはフレッシュトマトと薩摩和牛のみ。まさに、食材の質と技術の真価が問われるアプローチです。
トマトの酸がアクセントとして効きつつも、純度が著しく高い牛肉の脂の甘みによって、まろやかに、でもクリアに仕上がったソース。牛肉も食感や味わいの存在を残しつつ、トマトと溶け込む具合に仕上がっている。
満たされる感覚はあるのですが、口や胃でズルズルと残る感覚が驚くほどなく、爽やか。
「良い素材をシンプルに活かす」とは、こういうことなのだと痛感しました。

アイスクリームは自家製。(LECAFEVで作っていらっしゃるみたい)
抹茶は濃ゆいのに、何でだろう。全くしつこくない。滋味深い苦味や渋みもあるが一気に広がり、後味はすっと…シルクのようなきめ細やかな線となって引いていく、心地良い余韻。
バニラはふくよかな味わい。厚みと膨らみを持った波に、バニラビーンズの甘い香りがプランクトンの如く溶け込んでいるような感覚。王道ですが、やはり格別。

本当の本当の締めとして、アイスをもう一つ追加。
まるで、ピアノから流れる重低音のように、ほろ苦さや塩気が重厚に響くキャラメル。
この余韻が心とお腹を満たしていく。
おまけ(飲み物)
今回頂いたワインの一部。
詳しく語れるほどの知見がないため、簡単な説明に留めさせていただきます。

ボルドーといえばの渋味は驚くほどに角がとれていて、非常にまろやか。
エレガントな香りとコクが滑らかに溶け込み合い、柔らかな厚みを持って広がります。
ハーフグラスでお願いしましたが、フルで頂ければ良かったと少し後悔。

甘みの中にほのかに感じる、グレープフルーツのような柑橘の爽やかさ。
デザートワインらしい満たされる甘みはありますが、すっきり飲みやすい。
サービス
SUGALABOで感じた細やかでパーソナライズホスピタリティは勿論、より距離の近さを感じる気さくさ。
特に印象的だった点を記述いたします。
顔や名前は勿論、自分の趣向や以前の訪問に関してもお覚えいただいていた点。
パンのおかわりの際、残っていたバターの酸化を気にして、わざわざ新しい物をご提供いただいた点。
好奇心ゆえに沢山質問してしまったのですが、嫌な顔1つせずご対応いただいた点。さらに楽しく学びになるお話もいただきました。
お値段
写真に乗せたお食事とワイン類4杯で、計55,000円でした。
まとめ
総じて感じたのは、全ての構成要素による美しい調和。味わいの流れがしなやかに、でも情緒的に受け取れる。
非日常的な高揚感の中に心の休まりも感じる、まるで秘密基地のような空間と、まるで友人のような親しさときめ細やかさのあるホスピタリティと相まって、思わず「もっといたい」とぐずってしまいそう。
年明けは新たな店舗で運営されるとのこと立ったので、できれば年内にもう一度伺えたらな…