ダブり〜1限目〜H
モトキタも知らなかったとは思わなかった。
俺はモトキタと話をしてから
午後の部の授業を受けている。
今までは長く感じた6時間だけど、
最近は何故か短く感じる。
これは歳のせいだろうか?
今日も無事に6限を受けた俺は放課後、
ルートに行く事にした。
「会長?会長ぉぉ、ちょ、ちょっと待って!」
息を切らした副会長が俺を追ってきた。
「ちょっと、待ってよぉ。
今日もエトウくんのトコ、行くんでしょ?
置いていかないでよ」
「って、置いていくも何も、まさか!?
お前も行く気じゃねぇよな?
ここからは、俺1人で充分だから帰れって」
「嫌だよ!絶対私も行くし」
と言ってついてきた。
「アナタハ、ヒマジンデスカ?」
とふざけて聞くと
「ワタシハ、ヒマジンジャナイデスヨっ」
と副会長もふざけた。
「てか、こうしてついてくるって事は、
暇人だろ?」
「まぁ〜どっちでもいいけど!
でも、今日はこれからゴウに会いに行くぞ!
エトウの家はそれからだ」
正直言ってゴウの名前を出すと副会長は
嫌がると思っていたが、案外そうでも無かった。
副会長は表情を変えずに
「了解っ!!」
と言って敬礼していた。
俺は敬礼姿の副会長を見て少し笑ってしまった。
「はっ、なんだそれ!?てか、楽しんでないか?」
「楽しんでる訳ないじゃん、
でも、何かわかるといいね」
「ナメんじゃねぇぞ。俺の親友(ダチ)を」
そして俺たちはルートへ行った。
ここはいつも煙たい。
煙草の煙をかき分けながら奥へ行くと
「おっ!ユウ、来たか!」
俺は、
「てか、煙たいっ」
ゴウは
「それは俺も思う。ユウ、昨日の子と一緒だな?」
「まぁねぇ〜っ」
俺は田辺さんをした。
それを見たゴウは
「田辺かよ!あっ、よろしくね」
と副会長に話し掛けた。
「お疲れ様です」
と副会長は頭を下げた。
「お、おう」
ゴウは俺を見た。
「何してんだ?お前は?」
俺が副会長に聞くと
「いや、こんな感じかなぁっと」
少し顔を赤くしていた。
「アニメの見過ぎだ」
俺は途中で買った飲み物の袋をテーブルに
置いた。
「はいこれ、差し入れ。
人数分あるかわからないが適当に飲んでくれ」
と言って、自分のコーヒーをとり副会長に紅茶を渡した。
副会長は
「ありがとうっ」
と言った。
俺はゴウに
「てか、お前、紙タバコヤバくないか?
今の時代はやっぱりコレよ!匂いも少ないし」
と聞くと
「んなもん、タバコじゃね〜よ」
とゴウは言った。
俺は副会長に
「お前、制服大丈夫か?
家帰ったらヤバいんじゃない?」
そうは言ったが、俺はそんなことはお構いなしに電子タバコをセットし椅子に腰掛けた。
副会長は
「うちは大丈夫だよ」
「そっかっ」
自分ではわからないが、これは明らかに煙草の
ニオイが制服、いや、全身についていると思う。
副会長の親は大丈夫か?と俺は気にしていた。
するとゴウは
「恋人トーク中に悪いけど、話していい?
例の引きこもりくんの事、調べついたから」
「わかったか?ゴウ!マジか!?
やっぱお前らスゲぇな!」
「なぁ?言ったろ?」
と俺は副会長に言うと
「うん。凄いね」
すると
「ドルゥ〜〜〜〜」
突然ゴウはドラムロールを口で鳴らし始めた。
俺は、
「何?何?それ!?」
ドラムロールは続く。
「てか、長いって!!」
とツッコミを入れた。
ゴウはドヤ顔をして、俺たちに話した。
「例の引きこもりくん【エトウアツシ】は、
中学の時、暴力事件を起こして推薦の高校が
取り消しになったみたい」
俺は
「推薦?」
ゴウは
「野球ね」
とバットを振るそぶりをした。
俺は
「そんな奴がなぜ暴力事件??」
副会長はびっくりした様子だった。
ゴウは、話を続けた。
「何故?って、ムカつく事があったんじゃない?
結局そう言う奴だったって事」
俺は
「エトウはお前らとは違うだろ?でも驚いたな」
副会長は俺の方を向いて
「会長、暴力事件って・・・」
俺は
「意外だな。そんなオチとは思わなかったよ」
するとゴウが
「でしょ!?でも、それには訳があった」
と言って無駄に話を引っ張り出した。
「でもやっぱりワケアリかよ。で、どんなワケ?」
と俺が聞くとゴウは楽しそうに
「ダダんっ!問題です。何故でしょっ!?」
と悪いノリが出てきた。
俺は
「何が【ダダん!】だ。早く話せって」
ゴウは
「てか、こんな感じの方が盛り上がるだろ?」
「思わない?副会長さん」
と言って副会長の方を見た。
「確かに。盛り上がりますね」
とまんざらでもない副会長。
その反応をみたゴウは
「だよねぇ〜。てか、コイツ真面目かっ!」
「ですね。この人変なとこ真面目でして」
と言って2人が盛り上がり始めた。
俺は
「おい、盛り上がり過ぎだろ!?
今は遊んでるんじゃないんだ」
「てか、この部屋換気しろ!?」
「お前、本当に制服の匂い大丈夫か?」
と副会長に言った。
「う、うん。大丈夫だよ」
俺は続きが聞きたくて
「そっか、じゃ〜早くそのワケを話せって」
ゴウはタバコに火を付けて話始めた。
俺はその姿を見て
「だから、今煙たいって!」
「換気しようぜっ!なぁ??」
と言うとゴウは話出した。
「エトウアツシ。中学時代野球部のエースだったエトウは強豪校からの推薦を何校か受けてて、
ぶっちゃけ、このまま野球でエリート街道
まっしぐらな位、期待されていたらしい。
そんな野球エリートは、引退する直前に暴力事件を起こし、全ての推薦が取り消されたようだ」
俺は電子タバコにタバコをセットした。
ゴウは話を続けた。
「で、それから表にでてこなくなったみたいだ。
その暴力事件の話は、引きこもりくんの中学では
かなり有名な話しらしい」
「だが、しかし!ドルゥ〜〜ドゥンっ」
とまたふざけだした。
「それいる!?もう、さむいって!」
と俺は言った。
すると、後ろから声がした。
「ユウく〜ん!?寒いっスか?窓閉めます?」
俺は、
「そのさむいじゃないっ!
てか、ここ換気してたんかい!」
俺はゴウに話を続けるよう促した。
「わかった。わかった。でもここから先は、
彼女に話してもらった方がいいかもなっ」
と言って目線を出入口にむけた。
俺と副会長も出入口を見た。
「お〜つかれっス!」
と、シマキとテマエが来た。
2人の後ろには1人の女の子がいた。
テマエは
「ゴウくん、この子がさっき話した子だよ」
ゴウは
「お疲れっ!サンキューな」
「ユウ、この子が色々知ってるさ。
ここから先は、彼女から話してもらう」
その女の子は最近まで中学生とは思えない感じの色気があった。
俺は、反射的に隣の女の子と見比べてた。
すると副会長は
「会長はあ〜んな感じの子がタイプなんだっ?」
「はぁ??何言ってんだ!お前?
そんな訳ないだろ」
と言ってものの、正直無いことも無い。
「その子は?」
俺が聞くと、テマエが
「例の暴力事件の関係者だよ」
「テマエ!お前、もっといい言い方があるだろ?」
「ねぇー?」
と彼女を見ながらシマキが言った。
その彼女は
「いえいえ、大丈夫です。全部私のせいですから」
とうつむいた。
俺はそんな彼女に
「大丈夫か?よかったら何があったか俺たちに
話してくれないか?エトウの事を知りたいんだ」
彼女は話始めた。
「私は中学の時エトウくんと同じ野球部でした。私はマネージャーでした・・・。
彼はいつも楽しそうに野球をしていていました。
中学では名前の売れたピッチャーだったんです。
そんなある日、彼は強豪校から推薦が来たんです
本当に嬉しそうに私に話してくれました」
テマエが
「強豪校?どこ?」
「どこだっていいだろ!?」
俺は言った。
「確かに気になるな・・」
ゴウが言った。
「今は、どこだっていいだろ!?」
「わりぃ。続けて」
と俺が言うと彼女は話を続けた。
「はい。そんなある日、私は部活が終わった後、
他の部員に部室に呼ばれたんです。」
そう言った彼女の声は震えていた。
目から涙が溢れ、苦しそうな彼女に副会長は
「大丈夫?無理に話さなくてもいいよ」
と彼女の背中をさすりながら言った。
「ありがとう。大丈夫です」
彼女は身体の震えをおさえながら
「その部員に、襲われそうになったんです。
私、怖くて、怖くて何も出来なかった」
副会長は彼女を抱き
「会長、もう良くない?みなさんも」
俺もこれ以上、彼女には酷だと思い辞めようと
したとき彼女はこう言った。
「すみません。大丈夫です」
と話を続けた。
「その時にエトウくんが助けてくれたんです」
ゴウが言った。
「それじゃー別にひきこもる事ないだろ?
むしろ、ヒーローじゃないか?」
彼女は
「私にとってはヒーローですが・・・」
と言って話を続けた。
話はこうだ。
ある日部活終わり。
彼女はある部員に部室へ呼ばれた。
呼ばれた彼女はその部員に襲われた。
そんな時にたまたまエトウが部室へ来た。
エトウは襲われそうな彼女を助けようとし、
外へ連れ出そうとした時、その部員が
近くにあった金属バットでエトウを殴った。
幸いにも、頭では無く腕だったのらしいが、
利き腕の右肘をやられ、痛みのあまりうずくまったエトウを蹴りマウントを取って殴ったらしい。
このままだとエトウが危ないと思った彼女は、
転がっていた金属バットでそいつの頭を殴って
しまった。その部員は意識が飛び気絶した。
とっさの行動に震えてる彼女を見て、
エトウはこう言った。
「殴ったのは俺だ!」
「お前が来た時にはこうなっていた」
とエトウは彼女をかばったのだ。
その時彼女は、とてもパニックになっていた
ようでエトウの言う通りに顧問を呼び救急車を
呼んだ。
幸いにも、その部員は命に別状は無く、
頭にもダメージはないのだが、
「当時の記憶は曖昧だ」
との証言だったらしい。
エトウは彼女をかばい
「その部員といざこざで喧嘩になり、
カァーとなりバットで殴った」
と証言した
エトウは、右腕の複雑骨折。
なんとか手術で治ったのだが、少し後遺症で野球を続けるのは厳しい事になった。
喧嘩両成敗。
こんな便利な言葉がある。
お互い親が色々ある立場の為、公にはしたくないらしくこの話は流れて行った。
だが、エトウは野球が出来ない状態になり推薦は取り消しになった。
また、このご時世、SNSが発達してる事により
誰かがこの事件を投稿した事をきっかけに話が
膨らみいつしかエトウが悪者になったのだ。
今まで仲が良かった友達も離れ、
学校では白い目で見られていたらしい。
その事は、とうとうエトウ自身だけの話では
無くなった。
親父さんの会社にもいつしか嫌がらせが広がり
取引先が減り、その苛立ちをエトウ自身に向けるようになったらしい。
そうしてエトウはひきこもる様になった。
まさに、羽が落ちた鳥の様に。
ただ鳥籠にいるだけ。
1限目Iに続く