ダブり〜1限目〜H
今まで長く感じた6時間目までが短く感じる。
放課後、俺はルートへ行く事にした。
「会長、会長、ちょっ、ちょっと待って」
息を切らした副会長が俺を追ってきた。
「今日も、エトウくんの家に行くんでしょ?」
「置いていかないでよ」
「って、置いていくも何もお前も行く気か?」
「ここからは、俺1人で充分だから、帰れっ」
と言うと
「嫌だよ私も行く。」
と言ってついてきた。
「暇人か?」
「まぁ好きにしろっ でも…」
「これからゴウに会いに行く
エトウの家はそれからだ」
と言うと副会長は表情を変えずに
「了解っ!!」
と言って敬礼していた。
正直言ってゴウの名前を出すと嫌がる素振りを
見せるかと思っていたが、むしろ楽しんでる様
にも見えた。
そして俺たちはルートへ行った。
ここはいつも煙たい。
煙草の煙をかき分けながら奥へ行くと
「おっ」
「ユウ、来たか!」
俺は、
「ゴウ、何かわかったか?」
「今日は昨日の子と一緒だな?よろしくね」
と副会長に話し掛けた。
「はい。よろしくお願いします」
と昨日とは変わって堂々としていた。
俺は、途中で買った飲み物の袋をテーブルに
置いた。
「これ、差し入れ」
「人数分あるかわからないが適当に飲んでくれ」
と言って、自分のコーヒーをとり副会長に紅茶を渡した。
副会長は
「ありがとうっ」
と言った。
「てか、紙煙草ヤバくないか?」
「今の時代はやっぱりコレだぜっ、
匂いも少ないし」
「副会長、服の匂い大丈夫か?」
そう言って俺は電子タバコをセットし椅子に腰掛けた。
副会長は
「うちは大丈夫だよ」
「そっかっ」
みたいな会話をしていると、
「ユウ、昨日の事だが今日テマエとシマキが
ひきこもりくんの事を調べた」
「すると…ドルゥ〜〜〜〜…」
とドラムロールを口で鳴らし始めた。
俺は、
「長い!長い!!」
とツッコミを入れた。
「てかもうわかたのか?
やっぱりお前に頼んで良かったよ」
と言うとゴウは話始めた。
「例のひきこもりくんは、中学の時に暴力事件を
起こして推薦の高校が取り消しになった。」
「暴力事件??」
俺は聞き返した。
副会長もびっくりした様子だった。
ゴウは、話を続けた。
「そう、だからそう言う奴だったって事だ」
1番驚いてたのは副会長かもしれない。
俺の方を向いて
「会長、暴力事件って…」
俺は
「意外だな。そんなオチとは思わなかったよ」
するとゴウが
「だが、それには訳があった」
と言って無駄に話を引っ張り出した。
俺は、早く続きを聞きたくて
「訳あり?」
「早くその訳を言えって」
と俺が言うと、楽しそうに
「こんな感じの方が盛り上がるだろ?」
「なぁ?副会長さん」
と言って副会長の方を見た。
「確かに そうですね」
と頷いている副会長。
「だよねぇ」
「コイツ真面目かっ!」
と言って2人が盛り上がり始めた。
俺は
「おい、遊んでるんじゃないんだ」
「それと、換気しろ!?」
「お前本当に制服の匂い大丈夫か?」
と副会長に言った。
「大丈夫」
と言った。
俺は続きが聞きたくて
「早く、その訳を話せって」
ゴウはタバコに火を付けて話始めた。
「エトウアツシ。
当時、野球部のエースだったエトウは強豪校からの推薦を受けてこのまま野球でエリート街道まっしぐらで期待されていたらしい」
「だけど、引退する直前に暴力事件を起こし推薦が取り消されそれから表にでてこなくなったみたいだ」
「その事件は、ひきこもりくんの中学では有名な話しらしい」
「だから、すぐにわかった」
「だがしかし…ドルゥ〜〜ドゥンっ」
とまたふざけだした。
「おい、寒いぞっ」
と俺は言った。
すると
「ユウくん寒いですか?窓しめますか?」
と後ろから声がした。
俺は、
「いや、そう言う事じゃないっ!
てかここ換気してたんかい!」
ゴウは、
「わかった。わかった」
「で、ここから先は…」
「彼女に話してもらった方がいいかもなっ」
と言って目線を表にむけた。
「おつかれっス」
と、シマキとテマエが来た。
2人の後ろには1人の女の子がいた。
「ゴウくん、さっき話した子だ」
「ユウ、さっきも言ったがここから先は、
彼女から話してもらう」
その女の子は、つい最近まで中学生とは思えない
感じの色気があった。
俺は、反射的に隣と見比べていた。
「会長はあんな感じが好みなんだっ」
「はぁ??何言ってんだ。そんな訳ないだろ」
と。。
とはいえ、無いことも無い。
「それはそうと、その子は?」
俺が聞くと、
「ユウくん、例の暴力事件の関係者」
とテマエが言うと
「テマエ、お前っ!もっと言い方があるだろ?」
「ねぇー?」
と彼女を見ながらシマキが言った。
彼女は
「いえ、大丈夫です」
「私のせいですから」
と俯いた。
俺はそんな彼女に
「何があったか話してくれないか?」
「エトウの事を知りたいんだ」
彼女は話始めた。
「私は中学の時エトウくんと同じ野球部でした」「私はマネージャーですが」
「彼はいつも楽しそうに野球をしていて…」
「そんなある日、彼は強豪校から推薦が来たんです本当に嬉しそうに私に話してくれました」
彼女は今にも泣きそうな顔で話を続けた。
「ある日、部活が終わった後の部室に他の部員に呼ばれたんです。」
目から涙が溢れ、苦しそうな彼女に
「大丈夫?無理に話さなくてもいいよ」
と副会長が彼女の背中をさすりながら言った。
「ありがとう。大丈夫です」と
彼女は声を震わせながら
「その部員に、襲われそうになったんです」
「私、怖くて、怖くて何も出来なかった」
「その時にエトウくんが部室に来てその部員を
殴って助けてくれたんです」
「それじゃー別にひきこもる事ないだろ?
むしろ、ヒーローじゃないか?」
と、ゴウが言った。
「本当私にとってはヒーローなのですが…」
と言って話を続けた。
話はこうだ。
エトウは襲われそうな彼女を助けた。
そして、彼女を連れて出ようとした時に、
その部員が、近くにあった金属バットで
エトウを殴ったらしい。
幸いにも、頭では無く腕だったのらしいが
利き腕の右肘をやられ、痛みのあまりうずくまったエトウを蹴り、マウントを取って殴ったらしい
このままだとエトウが危ないと思った彼女は
転がっていた金属バットでそいつの頭を殴って
しまった。
でも、彼女の体は反射的にそのバットは頭では
無く首の付け根を殴っていたのだ。
肩の方だったがそいつは意識が飛び気絶した。
震えてる彼女を見て、エトウはこう言った。
「殴ったのは俺だ!」
「お前が来た時にはこうなっていた」と
彼女は、パニックになっていたらしくエトウの
言う通りに顧問を呼び救急車を呼んだ。
幸いにも、その部員は命に別状は無く、頭にも
ダメージはないのだが、当時の記憶は曖昧だとの
証言だったらしい。
エトウは、彼女を庇いその部員といざこざで喧嘩になり、カァーとなりバットで殴ったと証言した
エトウは、右腕の複雑骨折。
なんとか手術で治ったのだが、少し後遺症で野球を続けるのは厳しい事になった。
喧嘩両成敗。
こんな便利な言葉がある。
お互い親が色々ある立場の為、公にはしたくないらしくこの話は流れて行った。
だが、エトウは野球が出来ない状態になり推薦は取り消しになった。
また、このご時世、SNSが発達してる事により
誰かがこの事件を投稿した事をきっかけに話が
膨らみいつしかエトウが悪者になったのだ。
今まで仲が良かった友達も離れ、
学校では白い目で見られていたらしい。
その事は、とうとうエトウ自身だけの話では
無くなった。
親父さんの会社にもいつしか嫌がらせが広がり
取引先が減り、その苛立ちをエトウ自身に向けるようになったらしい。
そうしてエトウはひきこもる様になった。
まさに、羽が落ちた鳥の様に。
ただ鳥籠にいるだけ。
1限目Iに続く
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