この本に路面電車の技術史を見た
先日ようやく読み終わった本について書きます。
私は「本を読みたい」と思ったときは難波CITYにある旭屋さんの、広い広い鉄道コーナーを一巡し、手に取ってぱらぱらと見たりして「これは最後まで読みたい!」と思ったものを1冊買って帰るというのが定番のルーティーンなのですが、こちらもそんな出会いで購入した書籍です。
戎光祥レイルウェイリブレット1 路面電車発展史―世界を制覇したPCCカーとタトラカー
こちらの書籍を一言で紹介するとすれば「路面電車の技術史総まとめ」と表現するのが適切ではないかと思います。
サブタイトルに「世界を制覇したPCCカーとタトラカー」と銘打たれてはおりますが、何も路面電車の中の特定ジャンルに位置する車両に絞った内容の本ではありません。
いわゆる馬車軌道から始まった大都市に住まう市民の足たる乗り物が、如何にして電車へと発展を遂げたか。その電車がどのように進化し、現代の超低床車に繋がってゆくのか。そんな発展史の中でPCCカーは何故に生まれたのか。PCCカーはどういったところが革新的であったのか。そして現代においても世界の特定地域で息づくPCCカーの亜種、タトラカーとは何なのか。そういった謎を解き明かしてゆくのがこちらの書籍です。
日本においてはあまり馴染みのない車両ジャンルであるPCCカー。かつて東京都電で活躍していた5500形の二つ名であったり、大阪市電の3001形が「和製PCCカー」と呼ばれていたりと、耳にする機会こそ少なくないものの、その定義たるところを詳細に解説する場面はあまりなく、それどころか誤用も目立ち、個人的に知るところでは、過去には1950年代に製造された高性能車をまるっとまとめてPCCカーと呼ぶケースさえあったようです。
実は日本国内で製造された路面電車において、正式にPCCカーと定義できる車両というのは、先に名前を挙げた東京都電の5500形、そのトップナンバーである5501号車ただ1両のみなのですが、こういった謎を紐解く内容の解説がぎっしりと詰まり、19世紀から現代に至るまでの技術史として俯瞰して見ることのできる、そんな書籍です。
技術史であるので専門用語はかなりたくさん出てきますし、PCCカーはアメリカから始まって欧州へ、そして共産圏へと広がっていくため、海外の話がかなりのウェイトを占めています。
とは言え前者は電車が動く仕組みをメカ的にある程度理解していて、主電動機・制御装置・駆動装置の区別がしっかり付いているのであれば問題ないかと思います。
例えば鉄道車両を世代分けするときはVVVF車・チョッパ車・抵抗制御車・吊り掛け車などと分けられることがままありますが、この中で「吊り掛け」だけが駆動方式の一種で、他は制御方式で分けられています。これが時々ある誤解で、吊り掛けを制御方式と混同して「吊り掛け制御」などと呼ばれている場面を目にすることがありますが、そういった誤解がなければ、ゆっくり読み進めれば流れを掴むことができるかと思います。
後者についても出来事の背景がしっかり解説されるので、19世紀から現代に至るまでの近代史がある程度頭に入っていれば問題ないでしょう。
路面電車だけに留まらず、PCCカーから始まった技術が普通鉄道の車両に波及していく流れを見ることもできます。
個人的に一番驚いたのは阪神のジェットカーの試験車の話が出てきたことで、実はジェットカーに試験車がいたということ事態を全く知らず、この書籍で初めて目にしました。
路面電車の技術史を俯瞰で見られる1冊。
おすすめです。