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ボクだけのサバの味噌煮

 晩秋、いちばん美味しい魚と言えばサバだ。もう、サンマは油が抜けて、血合いに臭みがある。
 当地の相模湾でもサバは獲れる。しかし、八戸のサバが最も美味しい。これは、自身の経験が裏打ちしている。
 近年、関サバが有名になり高額で商いされているらしい。まさにブランド化している。負け惜しみではないが、なんと言っても八戸のサバが美味しい。
 やがて、春すに向かい油が抜けて来る。漁師たちは、旬のタラ漁に切り変えると聞いた覚えがある。

帰省とサバの味噌煮の思い出

 ボクは一浪して進学すると、東京の安下宿に住んだ。学部生となりバイト先も決め大人になった気分だった。入学式用に買ってもらったスーツを着て帰省した。
 4月にしては、とても立派なサバの片身を味噌煮にしてくれてあった。下宿生活で、ろくな物を食べていなかったので、たいそうなご馳走を食べたと記憶している。料理は得意な方でない母は、口の肥えた親父に教育された。サバの味噌煮と寒天料理は美味しかった。とにかく、サバの味噌煮が大好きなことを自覚しました。

「雁(gan)」とサバの味噌煮

 サバの味噌煮が象徴として描かれている文学作品は、森鴎外著「雁(gan)」である。この作品は、主人公岡田の日常から欧州に旅立つ話が描かれている。日々の散歩、中でも囲われた女性への想い美しく描写されている。
 この話はさらに、サバの味噌煮が出て来ることでステージが大きく変わる。サバの味噌煮を好まない岡田たちは、夕方から散歩に出かけた。旧岩崎邸の裏の無縁坂を下り不忍池へ。そして、そこで大きな雁を得た...。という件です。
 最近、世界の野球で大谷選手が二刀流として話題、あるいは稀有なスポーツ選手として話題になっている。作者:森鴎外は学者や軍医として、また近代文学の巨塔して世界的偉人として君臨している。長い歴史の中でその在り方は素晴らしい。
 森鴎外の作品は、舞姫やヰタ・セクスアリスなどの長編が代表作である。しかしボクは短編の「高瀬舟」や「山椒大夫」など好きだ。もちろん、「雁」も大好きです。また、当時の現代文学を夏目漱石に譲り、歴史文学に取り組むことを宣言した「青年」は長編の中では特別に好んでいる。

欲張って、二切れ😆

 少し脱線したが、ボクにとってサバの味噌煮は味や見かけだけでなく、青年時代の極めて重要な思いが込められている。昨日、夕食でサバの食べた時も、まったく同じ心境であった。食べ物には、誰にもそれぞれにそんな思いがあるだろう。そんな思いを口にせず、ボクだけの晩秋の味覚であるサバの味噌煮を味わった。

かわせみ💎

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