子どもはどのように『落ち着き』をなくすのか?【中編】

前回の記事の続きで、架空の男の子Aくんが、保育園を利用して、どのような成長を見せるか?
いよいよ幼児クラスへ進級します。

3歳児クラスの頃

Aくんは3歳児クラスに進級すると、『落ち着きのなさ』が一層強くなってきました。
常にキョロキョロと視線が合わない、
機嫌が良くてもピョンピョン飛び跳ね、体の動きを制御出来ないようでした。
そして、『きゃあ〜』『おっぱい、おっぱい』と決まったフレーズを口にし、全力疾走したり、おもちゃを投げて『キャハハ』と笑いました。
そうかと思うと、床にベターと寝転がり、天井をぼーっと眺めていました。

クラス全体が落ち着きをなくす

進級してすぐの頃、 Aくん以外の子ども達も落ち着きをなくしていました。

子ども達の試し行動がエスカレートしていく

3歳児クラスの担任H先生は他施設でも保育士経験が豊富なベテランの先生でした。
子ども達の様子を見て、保育内容も柔軟に変更できるスキルのある保育士さんでした。

Aくんのクラスの子ども達は今まで、『集団生活のために合わせること』を求められ、生活していました。
子ども達は理屈を理解して集団生活に合わせていたのではなく、『どうしたら先生から抑圧的な対応をされないか?』ということを感じて、合わせていたのでしょう。

新しい担任のH先生は『何をしたら怒らないか?』
子ども達はそれを試すためにH先生に様々な訴えをしていました。
『せんせー、鼻水でたー』
『せんせー、かゆいー』
『せんせー、〇〇ちゃんがおもちゃ貸してくれない〜』
訴えは多岐にわたり、H先生の奪い合いのようになりました。
そんなクラスのわさわさした感じを察したAくんは、ますます興奮気味になったようでした。

愛着障害と自閉傾向が強まっている?

ツヤ子とH先生はクラスの子ども達についてよく意見交換をしました。
Aくんは自閉傾向が強まっているのでは…?(←ワンパターンのフレーズを繰り返し、ピョンピョン跳ねている感じ。大きな声や音、大勢の人が動くのを見ると興奮してしまう…。)
また、愛着障害の症状も見られている(←床にべた〜と寝っ転がる。お友だちをぎゅ〜と抱きしめようしたかと思うと、突き飛ばす、矛盾する行動など…。)

H先生はクラスの子ども達の試し行動に対応しつつ、Aくんの個別対応も求められるという、難しい状況でした。

自閉傾向の対応と、愛着修復を同時に目指してみた

H先生と話し合い、ツヤ子も時間が許す時にはお手伝いに入ることにしました。
以前の記事で紹介した本、

『「愛情の器」モデルに基づく愛着修復プログラム』米澤好史著 2015.10.20 福村出版


の愛着修復プログラムを参考にAくんの対応を考えてみました。

【対応1】先の見通しを知らせる

Aくんは自閉傾向?のせいか、場面の切り替えができず、活動をやめられなかったり、着替えをするのを嫌がったり、給食のときに興奮気味になったりしていました。
そこで、『日中の活動は時計の針がココ(←シールで印をつけた)までで、ツヤ子先生がAくんを迎えに来て、着替えを、手伝ってくれて、ランチルームでツヤ子先生と給食の準備を手伝ってね。』と、具体的に時間、場所、人、やることを知らせるようにしてみました。
Aくんを先に連れ出すことで、Aくんのパニックを防ぎ、他の子ども達の活動を妨げないというのもねらいでした。
1週間ほど続けると、いつも一人で走り出してしまうAくんが、ツヤ子が迎えに行くと喜び、Aくんから手を繋いで歩いてくれるようになりました。
切り替えもスムーズにいくようになってきました。

【対応2】愛着の分配

Aくんはツヤ子を信頼し始めた感じがしました。
そこで、愛着修復プログラムを参考に、ツヤ子から他の先生へ信頼(愛着)を分配できないか試してみました。

ツヤ子が他の仕事でAくんを迎えに行けない時、予め、Aくんにツヤ子から今日はお仕事でお迎えに行けないので、代わりに〇〇先生がお迎えに来てくれるよ。いつもみたいに〇〇先生のお手伝いをしてね、とAくんに伝えます。
予定通り〇〇先生には迎えに行ってもらい、いつも通りのことをしてもらいます。
そして、午睡明けくらいにツヤ子がAくんの元へ行き、『Aくん上手にお手伝いできたんだって?』と話しかけます。(←Aくんのことを会えなくても心配しているよ、という状態を作る)
これを他の先生に協力してもらい、Aくんと他の先生方の信頼関係を広げていくようにしました。
継続していくうちにAくんは多くの先生とコミュニケーションをとれるようになっていきました。

集団生活に乗れるようになってきた

ツヤ子とH先生は日々、コツコツと上記のような保育活動を続け、Aくんの問題行動の原因が自閉傾向?と愛着障害の可能性で起きていることを、協力してくれそうな職員に伝えていくようにしました。(何ぶん、保育感の違いで協力してくれない職員もいる…。)
次第に理解者が増え、統一した対応をしてもらえるようになったAくんは、少しずつですが、集団生活に乗れるようになっていきました。

大人が変われば子どもも変わる

まず、先手でAくんの不安定になりそうな環境を取り除く。そして、一人の保育者と築いた信頼関係を、多数の保育者が統一した対応をすることで、信頼関係を広げる、という保育者側の動きと意識を変えてみたのです。

特別予算をかけるとか、付き添いを必ずつけるとか、療育にいく、ではなく、日常の保育の中で、限られたマンパワーでもできることはあるということです。
そして、そのためには、広い知識を持ち、子どもの問題行動の原因を考え、今までの保育感や教育感を柔軟にアップデートする勇気を持つことが必要な気がしています。

家庭でのケガが増えてきた…。

保育園生活に落ち着きを取り戻し始め、ツヤ子もH先生もAくんの対応に手応えを感じはじめていました。

しかし、H先生は密かに気になることがありました。

『休み明けのAくんが落ち着かないんです。それから、家でケガすることが多くて…。』と、H先生。
滑り台から転落した、テーブルに頭をぶつけたなど、家庭での事故によるケガが増えたのです。時には頭を深く切ってしまい、縫合するほどのケガの時もありました。

『Aくんが怪我に至るまで、保護者は何をしていたのかが気になるねぇ…。』とツヤ子はH先生に言いました。

保護者の考えられる行動

A.保護者は他のことをしていたので、止められなかった。(←子どもを放置してる?)

B.ケガをするような危険行動と保護者が気付かず、止めなかった。(←保護者の安全管理力が低い?)

C.ケガをするような危険行動を保護者がやらせていた。(←身体的虐待?)

などなど…。

うなだれるツヤ子とH先生…。

『あ〜、H先生…。保育園は最近、頑張ってると思うんだけど…』と、ツヤ子。

『そうですよね…。でも、休み明けのAくんは元に戻ってしまうんです…。』と、H先生。

楽しく登園できるようになってきた

Aくんは昨年までの登園しぶりは徐々になくなり、
登園すると『ツヤ子せんせ〜、おはよ~』と、ピョンピョン跳ねながらツヤ子にぎゅ〜としてくれるようになりました。
気がかりなことはありますが、大成長なのではないでしょうか…?

4歳児クラスの頃

進級してすぐに5歳になったAくん。
登園しぶりは殆ど無くなりましたが、休み明けに登園すると、休日でリズムが崩れるのか、わずかな刺激で興奮が見られました。

『オマエ〜!』バンッ

ある休み明けの日。
Aくんは体をいつも以上に激しく動かしていました。ピョンピョン飛び跳ね、おもちゃを投げ、お友だちとブロックで遊んでいたかと思うと
『オマエ〜!』と叫び、
バンッと、床や机、時にはお友だちを叩くのです。
叩かれたお友だちはびっくりして泣き出します。
それを見たAくんはますます興奮し、四つん這いでその場をぐるぐる回り始めました。

新しいパターンの興奮状態でした。

とりあえず、静かな場所へ連れ出してみる

このままではAくんだけでなく、他の子ども達の安全が確保できないと判断し、使用していない教室へAくんを連れ出しました。

興奮が蒸し返すAくん

静かな場所へ着くと一時的にテンションは下がりますが、隣の教室の音や声が聴こえるとまた、
『オマエ〜!』バンッ
と叫び、叩き、ツヤ子にタックルする、という行動を繰り返しました。

もっと静かな場所へ

わずかな音で興奮するAくん。集団保育に戻るのは厳しいと判断し、何とか興奮を落ち着かせるためツヤ子の管理する保健室へ移動しました。

集中出来ないAくん

保健室ではAくんの好きなブロックやプラレールを出して遊び始めました。
しかし、ブロックがガシャーンと音を立てて崩れるとまた
『オマエ〜!』と興奮が繰り返されました…。

家で何があった?

休みの間、家庭内でAくんに非常に刺激的なことが起きたように感じました。
その家庭内で起きた刺激が、遊んでいても脳裏に蘇る、フラッシュバックが起きているように見えました。

一体何が起きていたのか?

次回につづく!









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