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レスリング王国 ロシアで武者修行🪆
レスリングの世界で数多くの世界チャンピオンを輩出してきたロシアにはレスリングの盛んな地域が大きく2つあった。ダゲスタンとオセチアの2地域は常にライバルの関係にあり、ロシア国内でも様々な練習形態、方針があった。
私が約2ヶ月滞在したのは、東京オリンピック74kg金メダリスト ザウルベク・シダコフが練習拠点を置くオセチア(正式名称:北オセチア・アラニア共和国)を選んだ。オセチア出身のレスリング選手には世界で活躍したベシク・クドコフやソスラン・ラモノフなどがいる。アブデュラシド・サデュラエフやガジムラド・ラシドフはダゲスタンの出身になる。
日本東京からロシアオセチアへ🇷🇺
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羽田空港からからロシア モスクワへ移動し、国内線に乗り換えモスクワからオセチアへ行くことができる。現在ではロシアのウクライナ侵攻により日本人がロシアへ行くことは困難になってしまった。
東京からオセチアへ向かう時に私は失態を犯してしまう。それはモスクワ空港で国内線に乗り換えた時の出来事だった。本来海外で国際線から国内線に乗り換える時に一度入国審査を受け、預けていた荷物を受け取り、再びカウンターで荷物を預ける。場所によってはこの作業が省かれスムーズに乗り換えができる空港もある。私は預けた荷物を受け取り国内線のチェックインカウンターで手続きをした。しかしながらそこで致命的なミスを犯していた。預ける荷物の重さが規定の重量を超過していたため別のカウンターで追加料金を支払うように言われ、私は支払いをするために他のカウンターへ向かった。支払いを済ませた私はeチケットのバーコードで手荷物検査などのゲートを通ることができたので何も気にせず搭乗ゲートまで行くことができた。
この時の私は自分が搭乗券を持っていないことに気づく余地もなかった。日本語と英語以外のロシア語が飛び交う空港で荷物も預けられたしチェックインもできたと安心し切っていた。事態は一転した。搭乗案内が始まったが搭乗券を持っていない私は搭乗ゲートで係員に停められた。私はパスポートとeチケットを見せてこの飛行機に乗らなければならないと何度も説明をしたが伝わっていたのかは定かではない。
結果として搭乗者リストと私の個人情報を照らし合わせてくれたのか飛行機に乗ることはできた。しかしその飛行機の乗客の中で私が1番最後に飛行機に搭乗することになった。正直とても焦った。
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オセチアでの練習開始
オセチアに着くや翌日から早速練習に参加をさせてもらった。初日からオリンピック王者のシダコフと練習をした。彼はよそ者を毛嫌いせず自ら話しかけてきて今日は俺と練習しよう!と言ってくれた。
オセチアは標高約700mに位置しており、日本で生活をする私からしてみれば低酸素状態で練習を行うことを意味していた。実力差もあったが、移動の疲労や低酸素などもあり打ち込みの時点でシダコフにバテバテにさせられてしまった。彼の技術を直接触れることができたのはとても楽しかった。このタイミングで仕掛けるのか、ここを持つのかなど勉強になることばかりだった。
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オセチアでの練習🇷🇺
練習は主に月曜火曜木曜金曜の午前中に8面のマットで行った。午後はU20やU23世代の選手が集まりレスリングの練習をする日もあればレスボールをする日もあった。土日はオフを自分で休むのか自主トレをするのかという感じの1週間を送っていた。
練習内容も選手一名が仕切りをして、打ち込みからはコーチが指揮を取る。コーチによって練習メニューが異なるが、おおよそが反復練習をひたすら行うことが多かった。打ち込みの前にボクシングのような動きでボディの触り合いや足踏みなど間合いを意識したアップを念入りに行ってから打ち込みに入る。打ち込みは2本ずつ交互に入るいきなりタックルに入るのではなく最初は振りや手取りなど引き手の引っ掛かりを確認しながら打ち込み強度を徐々に上げていく。
ひとつひとつの攻防もスタートの位置どりからすでに攻防が始まっていたり、テイクダウンの後もグランドを継続するなど試合を想定した取り組みが印象に残っている。全体の練習時間的にも2時間前後でさほど長くはない。ただ全体の練習が終わった後も打ち込み、シャドウ、縄跳び、チューブ、ストレッチを人によっては1時間近く行う選手もいた。
なぜロシアのレスリングが世界のトップであり続けるのか理解ができた。基礎基本を全体で徹底をして試合並みに勝ち負けにこだわって取り組む。そして必要な練習を自らが考えて取り組む。標高が高い地域で育ったこともあり体力も自然とつく。これだけが全てではないが世界で通用するロシアの選手のほとんどが該当する。これもまた事実だ。
なぜロシア オセチアを選んだのか
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湯元進一コーチ
パリオリンピックの予選を控え、自分がどのような環境なら強くなれるかを考えた時にアメリカやロシアなどのトップクラスの選手と練習を行うことを私は選びました。そこで同時期にコーチ留学されていた湯元進一コーチが滞在していたロシア オセチアを選びました。またオセチアには私が目指したオリンピックのチャンピオンであるシダコフ選手の地元であり他にもたくさんの強豪選手が拠点にしている。ロシアの選手の試合や練習の動画をいくら見ても実際に行って体験するのとでは雲泥の差でした。
パリオリンピック出場確定しているセルビア代表のチャボロフ選手とはトレーニング施設に泊まり込んでいたこともあり、休日のサウナや朝食、夕食などを共にさせていただいた。レスリングも惜しみなく技術を教えてくれた。きっと大会のマットで出会っていたらこんなにもフレンドリーな関係になっていなかったと思う。
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セルビア代表🇷🇸 チャボロフ
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オセチアのレスリング施設
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毎朝ここを散歩
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緊急事態発生🆘
私はおおよそ2〜3ヶ月ほど滞在する予定でロシアへ向かった。ロシアについて1週間ほどするとウクライナ侵攻が勃発した。私が滞在していたオセチアは、ジョージアなどの国境近くに位置していたため、それほど戦争が生活に影響を及ぼすことはなかった。テレビやSNSで取り上げられる戦争の映像とは想像がつかないほど静かで平凡な生活を送っていた。周囲のロシアの方からは日本に帰らなくて大丈夫か?など声をかけてくれる人がほとんどで、正直当時の私にはあまり危機感もなかった。
とある日、ネットニュースで日本の航空会社がロシアへ行く便の欠航を発表してから徐々に日本に帰ることが難しくなるのではないかと感じ始めた。他の国からも制裁を受ける形となりビザやマスターなどクレジットカードが使えるお店が一気に減り、現金でのみの生活を余儀なくされた。
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急遽日本へ帰国🇯🇵
ここで私も日本に帰国する決心をし、現地の方に頼み隣国のジョージアまで陸路で移動をし、飛行機でトルコのイスタンブールまで飛び、イスタンブールから羽田へ行く飛行機を予約した。ロシアからジョージアの国境を移動する際に車に乗る必要があり、国境でトラックをヒッチハイクして乗せてもらった。
ジョージアへ行く検問所では、トラックを降りてパスポートを提示した。トラックのおじさんは仕事柄運び屋だからかすぐにパスポートを返された。私のパスポートは警察官によって本部の建物へ持ち込まれ私も待機するよう指示が出された。トラックに荷物を乗せたまま私は建物へ入った。その建物は警察官のIDがなければロックが開かないため外に出ることすらできなかった。
待つこと1時間私は個室に呼ばれた。ジョージアへ入国するのが初めての人には入国書類の作成が必要だったようで旅の目的や個人情報を聞かれた。私はこのまま建物から出られずにどこかへ連れて行かれるんじゃないかという不安はかき消されたが、私の荷物を乗せた知らないおじさんのトラックは1時間以上も待っていてくれたのかという不安もあった。
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おそらく運送の仕事柄、変に目をつけられないためにもそのおじさんはタバコを吸いながら待機してくれた。これが国境でなければおそらく私の荷物は私の手元に戻ってくることはなかっただろう。国境でなければヒッチハイクをする必要もなかっただろうか。
検問所から約2キロ行く時ジョージアの検問所に辿り着いた。検問所から検問所の道中は街灯もない山の中を掘り抜いたトンネルが続いていた。
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首都トビリシを目指す
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ジョージアへ避難🇬🇪
ロシアを脱出できたことが1番安心することができた。検問所からトビリシのホテルまではジョージアレスリング協会が手配をしてくださり、無事にトビリシのホテルにチェックインすることができた。しかしながら、予期せずジョージアへ訪れることになり、言語や通貨など事前に調べておくことができなかった。ジョージアからトルコへ向かうまで1日ジョージアで生活しなければならなかった。コロナ禍ということもあり、観光地は閉鎖されているため教会などホテルの近くを散歩してトビリシの街の雰囲気を堪能した。また旅行としてゆっくり時間を確保してジョージアには観光へ行きたい。
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大聖堂
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ジョージアからトルコ イスタンブールへ🇬🇪🇹🇷
トビリシからイスタンブールへは朝イチの便だったためホテル出発が早く寝坊することを恐れてあまり眠れませんでした。
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送迎タクシーが迎えにきてくれました
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イスタンブール到着🇹🇷
トルコ イスタンブールからは東京直行便が多く出航していることもあり、イスタンブールに到着をするともう少しで日本に帰ることができると気が緩んだ。イスタンブール空港には日本食のレストランもあり、お寿司が大好きな私にとっては心地よい空港の一つとなった。
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イスタンブールでの乗り換えは半日以上の待機時間があり、前日あまり眠れていなかった私にとってあたりにも長い時間だった。椅子などで横になって休んでも良かったのだが、やはりロシアのウクライナ侵攻により行き交う人が増え、荷物を持ったまま椅子で寝ることは不安でしかなかった。そこで私は空港内にあるホテルを取ることにした。
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断トツで一番ホテルの部屋数が多いホテルだと思う
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気を張っていた
結局半日以上の待機時間があったが、ホテルで取れた睡眠は3時間ほどだった。予定の飛行機が時間などの変更があったり、寝過ごしたらやばいという緊張感が私の心の余裕を奪った。
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ハンバーガーをのんびり食べていたら、搭乗案内が始まっており、急いで搭乗ゲートへ向かった。
最終目的地東京 羽田へ🇯🇵
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この飛行機にさえ乗ってしまえれば私は東京に帰ることができる。その安心感は半端ではなかった。
飛行機の中はあまり乗客が多くなかったこともあり、三列シートを客室乗務員さんが使わせてくれたので、横になることができた。
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日本到着!!!
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コロナ禍ということもあり、PCR検査をして陰性なら政府指定ホテルでの10日間の隔離を経て普段の生活に戻ることができた。実際日本に帰ってくることができたら、コロナになっていようが関係ないくらいの気持ちだった。検査は無事に陰性でそのまま隔離先のホテルにバスで移動することになった。
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私が隔離されたホテルは品川プリンスホテルだった。1日でも早く外に出たかったが規則は規則なので、ホテルの中で筋トレをしたりYouTubeの動画を作ったり自分にできることをして隔離時間を過ごした。生ものなどは禁止という制限があったが出前を取ることができたので、私はつけ麺を出前した。久々に食べた日本の麺類には感動のひとことだった。
最後に
私はレスリングを強くなりたくてロシアというレスリング最高峰の土地を選んだ。不本意ながら予定をしていた期間より滞在は短くなってしまったが、たくさんの経験をすることができた。日本からはしばらくロシアへ行くことは簡単だはないと思うが、レスリングで世界を目指すのであれば現役中に一度行くことをお勧めする。見たり聞いたりするよりも実際に行ってやる方が得られるものは比ではなかった。どうして彼らが強いのかのヒントをたくさん知ることができた。標高であったり、練習方法や生活など、娯楽の少なさも少なからず関係があるであろう。これらを今後の日本レスリングのために役立てていきたい。
長い文章でしたが、お読みいただきありがとうございました。何か私の体験が誰かの役に立てたら幸いです。ご質問などありましたらお気軽にお声掛けください。
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