
反逆者のルビ
灰色のつなぎを着た作業員が、十数人、公園のブランコを取り囲む。一様に黄色いヘルメットを被り、防毒用のガスマスクを付けている。二台並んだブランコの南側、時計塔の影が届くほうにだけ集まっている。全員で輪になって、外からブランコが見えないように人垣を作るのだ。彼らは一言も話さない。しばらくして、全員が向きを変えて背中を内側にする。隣同志で腕をがっしり組み、ネズミ一匹、通さない覚悟を示す。あるいは、上からの絶対的な命令だろうか。もう片方の、北側のブランコが、音も立てずにかすかに揺れる。また時間が過ぎ、作業員はふたたび向きを変える。低い雲が垂れこめる午後の間、ずっと彼らはこの動作を続ける。前に後ろに南側のブランコを守るような動作を、ただただ繰り返す。
ティータイムが終わり、街中が痺れを切らす。一人の中年女が水中眼鏡とシュノーケルを付けて、ペタペタ、ペンギンの足取りでブランコに現れる。ご丁寧にフィンまで履いているのは、いかにも家にあった古道具で間に合わせた格好だ。女は、遠慮がちに空いた北側のブランコに腰を下ろす。とたんに作業員たちは彼女を睨む。一斉に同じ方向を見定める異様さは、疑いようもなく、彼女の場違いな挙動を咎めている。そして訪れる、途轍もない沈黙バトル。女は右手で自分の水中眼鏡を指差し、シュノーケルの先端から吐息を放って、同じでしょ? と訴える。他方、作業員たちは外観の大まかな相似を、アバウトな解釈を、頑なに認めないらしい。経過する時間の重さに耐えかね、やがて女は「お呼びで、ない?」。
時計塔の鐘が鳴る。中年女は腰を上げ、公園の外周に沿った木々を遠目に眺める。「あたし、優先座席は必ず妊婦さんに譲る派よ」とぶつぶつ、彼女が退いたブランコの板には、桃の形をした染みがじっとり濡れている。そよ風が吹いて、空いたブランコがまた揺れる。