zzfigaro

およそカフカ的な、AI文学に対する最後の悪足掻きの、記録。極上の音楽を添えて。論理は 2番目に大切です。よろしくお願いします。

zzfigaro

およそカフカ的な、AI文学に対する最後の悪足掻きの、記録。極上の音楽を添えて。論理は 2番目に大切です。よろしくお願いします。

マガジン

  • 引用/翻訳

    圧倒的多数を占める土着テキストのなかで翻訳される、カフカの詩句。あるいは、カフカを巡る引用。

  • ヤトゥンバ異聞

    歴史の闇に葬られた、幻の部族ヤトゥンバに関する備忘録。あるいは、集合的無意識の暗部。

最近の記事

パーフェクトな偶然

ある男が自殺を企てる。体中にガソリンをかけ、首にロープを巻き、そのロープをしっかりと木の枝に結びつけて、こめかみにピストルを向ける。完璧だ。準備万端、手抜かりはない。男はライターで体に火を点け、同時に木から飛び降りながらピストルの引鉄を引く。 幸か不幸か、男の手元が狂う。ピストルの弾丸はこめかみに当たらず、ロープを切ってしまう、男は木の下の湖水に落ちる。 「ものすごい偶然ですな」と銀の斧が言う。 「生も死も、そうですな」と金の斧は笑う。 肩で息をしながら、湖から這いあ

    • パルチザンが灯す

      生あくびを噛み殺して夜道を歩いていると、Kはすっぽりマンホールの穴へ落ちる。闇の掃除機に吸い込まれるようだ。幸いケガはないものの、ちょうど人間一人ぶんの垂直通路には梯子がない。絶望的な思いで、Kは円く切り抜かれた夜空を見上げる。仕方なく、大きな下水管を歩き出す。コンクリートの筒壁が、くるぶしまで浸る水音を反響させる。ときどき洗濯石鹸の臭いが漂う。しぱらく歩いたところで、唐突に十数人の集団と出くわす。 「誰だっ?」 「一人か?」 「合言葉だ」 「合言葉を言え」 Kは矢継早の

      • スマホ「赤紙」

        雨宿りのために、高校生がバス停に駆け込む。マウンテンバイクを横倒しにしたまま、雨の鞭に叩かれて。先客が一人、ベンチの端に腰掛けている。お腹の大きな、美しい女性だ。両手で膨らんだお腹をいたわるように抱いている。手にはケータイを持ち、画面をじっと見つめている。誰かを待っているのか、見送ったあとなのか、分からない。高校生は、海から上がった小型犬のようにブルブル髪の水滴を払い除ける。 妊婦の足元にはビニール傘が倒れている。少しも気にせず、彼女はケータイ画面から目を離さない。ちらっと

        • 黙示体温36.8℃

          理髪店の女が出産するやいなや、ふたたび店は賑いはじめる。夕刻には、もう逸る気持ちを抑えきれない客の行列ができるほどだ。なかには吸えない煙草を吹かして、大人ぶる学生がいる。まだ履き掃除を終えていない女を急かして、昼間の看板を夜のそれへと勝手に裏返す客もいる。 「半年は長かったからなあ」 「今度の赤ん坊、種は誰なんだい?」 完全に日が暮れ、くるくる回る三色のサインポールが消える。順番に店内へ入る男たちは、20分ほどで清々しい顔になって出てくる。蜜のたっぷり付いた林檎飴を頬張

        マガジン

        • 引用/翻訳
          4本
        • ヤトゥンバ異聞
          5本

        記事

          初夜イブ*

          まだ部族形態を維持していた時代の話らしいが、ヤトゥンバ同士が結婚する際、その前夜には新郎のみを招く特別な宴が行われたという。招くのは、ある時代には婦人会と呼ばれ、ある地域では挺身隊と呼ばれた、いわゆる女ばかりの長老衆である。新郎には、初夜のまぐわいにおけるヤトゥンバ女への配慮を授ける、と伝えておく。淫らな匂いをアブサンに紛れさせた、単なるカムフラージュだ。 あるいは、ヤトゥンバならではのデリケートな何物か、というなら、別の意味でそれは正しい。招かれた屋敷に着くと、新郎は客間

          初夜イブ*

          ステレオタイプ

          葬列が街を練り歩く。棺を積んだ、黒光りの霊柩車が先頭を行く。のろのろあとに従うのは、間に合わせで集められた関係者だ。棺を作った指物師の親方がいる。下働きの見習いがいる。ステッキを小粋にぶらさげた老紳士もいれば、買物帰りに出くわしたまま参列した主婦もいる。彼女は買物袋を提げている。ステッキの老紳士とは顔見知りらしく、ともに善意のボランティアで加わっているように見える。でなければ、なにかの因縁でお声が掛かったにちがいない。そして、Kはここにいる。小雨が降る、陰気な日。葬列は街を何

          ステレオタイプ

          反逆者のルビ

          灰色のつなぎを着た作業員が、十数人、公園のブランコを取り囲む。一様に黄色いヘルメットを被り、防毒用のガスマスクを付けている。二台並んだブランコの南側、時計塔の影が届くほうにだけ集まっている。全員で輪になって、外からブランコが見えないように人垣を作るのだ。彼らは一言も話さない。しばらくして、全員が向きを変えて背中を内側にする。隣同志で腕をがっしり組み、ネズミ一匹、通さない覚悟を示す。あるいは、上からの絶対的な命令だろうか。もう片方の、北側のブランコが、音も立てずにかすかに揺れる

          反逆者のルビ

          ガラ受け/女装

          父の身柄を引き取るため、Kたちは留置所へ赴く。面会室に通されると、大叔父が早速アタッシュケースを開ける。金品を取り出して、監視員となにやら下交渉を始める。幼いKは、面会室の窓から中庭を眺める。一人の拘留者が樫の木に縛られ、監視員たちに取り囲まれている。ライターの火で顎を炙られ、監視員に一本ずつ指先の爪を切られている。いや、よく見ると、気絶したところを火で呼び覚まされ、指の爪を剥がされているのだ。耳をつんざく喚き声が、面会室まで届く。あの拘留者は父さんじゃないのか、とKは不安に

          ガラ受け/女装

          プラネタリウムの夜

          約束の時間きっかりに、夜警は裏口の錠を解く。軽く会釈をして、Kは黙って夜警のあとに従う。映写室の扉を開けると、200席あまりのシートの背もたれが、中央から放射状に倒れている。そのぽっかり開いた真中に、投影機がどっしり据えられている。ダダイストが酔狂で残した、場違いなオブジェのようだ。大小ふたつの金属球にそれぞれ小さなレンズが嵌め込まれ、たがいに細い棒で結ばれる。全体としては歪つな円筒形だが、細部はやたら複雑でとりとめがない。いかにも前時代的な形状なのに、実際はオート制御されて

          プラネタリウムの夜

          記憶術*

          長きに亘る迫害の歴史のため、今日では、純然たるヤトゥンバを見つけるのは難しい。本人が名乗り出ないのはもちろん、その血を少しでも受け継ぐ者がみずからの出自をまるで知らない、ということさえ起こっている。とはいえ、常に歴史の闇に甘んじてきたヤトゥンバにとって、ある意味、それは当然のことである。問題は、優生思想に立つ側、人類の純化を望む側、すなわち「やつら」の疑心暗鬼にある。 一説によると、表の歴史上もっとも古いヤトゥンバの痕跡は、紀元前5・6世紀の古代ギリシアに遡る。ケーオスのシ

          記憶術*

          影を引きずって*

          世も末だ。いよいよ人々はたがいの影を剥ぎ合うのだ。地面に横たわる全身の輪郭に沿って、太い鉄釘を10㎝間隔で打ちつける。型紙の採寸をとるように影を留めてから、身体をゆっくり起こす。ミシリミシリ、薄い皮膚が剥がされるように影が残る。そこかしこから呻き声が揺れる。 Kは怖気づき、釘付けにされる前にそっと逃げ出す。超高層ビルのエレベーターに乗って、最上階のボタンを押す。階数表示ランプが順に上へ上へと点滅していく。ところが、最上階で点灯したきり、表示ランプを置き去りにしてエレベーター

          影を引きずって*

          エスタンピ―ユ

          キノコとズッキーニのパスタソースを作り、Kは自室に戻る。ガールフレンドが脛毛を剃っている。ベッドの上にビーチシートを広げ、サテンのバスローブをはだけたまま、シェービングの泡を惜しげもなく吹き付ける。「スパゲティは茹であがった?」と彼女は訊く。 「あと8分かな」とKは応える。応えながらも、目は、白い入道雲に覆われた彼女の両脚に釘付けだ。しっとりシェービングクリームが沁み込むまで、彼女はしばらく優雅に待つ。往年のマレーネ・ディートリッヒ気取りで、細長いキセルをたおやかに翳す。

          エスタンピ―ユ

          バベルの落胤

          南国の空港に降り立ち、Kはタクシーに捕まる。獲物を狙うように近づいてきた運転手に、半ば強引に乗せられるのだ。「どこから来たナ?」と褐色の運転手が訊く。厚い唇、チリチリの髪、ぎょろついた目、明らかに先住民の血を引いている。Kはホテルの名前をしっかり告げて、「妻を探しに来たんだよ、逃げられちまってね」と言う。言葉がどの程度通じるか、ジョークの理解度で計ってみる。「はいナ、奥さんのことナ」、ところが運転手はさも隣人のようにうそぶくのだ。それどころか調子に乗って、先日は有名なハリウッ

          バベルの落胤

          酔いどれアキレス

          タクシーに乗ったアキレスが、ひどく酔っぱらっている。腕時計をちらっと見ると、午後8時だ。通り過ぎる時計屋のデジタル表示は、7時55分。「運転手さん、いま何時?」とアキレスは訊ねる。「7時52分ですよ、お客さん」。「悪いが、Uターンしてくれ。逆方向だ!」。

          酔いどれアキレス

          譫妄がほほえむ

          沈みこんだ夜が、突然の雷雨に断ち切られる。ハッとしてKは庭に出る。激しい雨粒が芝生を跳ね、バラバラと砂利を投げつけるような雨音が壁に弾ける。洪水だ、とうとう大洪水が来たのだ、とKは覚悟する。「母さん、どこなの~?」と大声で叫ぶ。かぼそい響きが返ってくるのは屋根の上、「お~い、ここだよ、ここ!」。母は大きな如雨露とクーラーボックスを抱えている。抱えたまま、地上波アンテナの横でしゃがみこんでいる。 「何してるんだよ? そんなところで?」 「うなされてたけど、おまえ、悪い夢でも見

          譫妄がほほえむ

          消される女

          女が突然やってきてガラスの小瓶に入り込む。「洗濯物を届けに来たの」と白々しく言う。街角のコインランドリーで、何度か挨拶を交わした女だ。ありとあらゆる関節を外し、身体を縮ませ、気づいたときには、もう透明ガラス瓶の住人だ。押しかけ女房も真っ青な美妓に、あまりに見事な収まりかたに、ブラボー、とKは思わず感嘆の声をあげる。細口瓶の、そこだけ狭まる瓶の首で、女の叫びが高く変調する。「不揃いの靴下、玄関マットの横に置いたわよ」。「ありがとう」とKは丁重に言ってから、試しに小瓶を振ってみる

          消される女