初夜イブ*
まだ部族形態を維持していた時代の話らしいが、ヤトゥンバ同士が結婚する際、その前夜には新郎のみを招く特別な宴が行われたという。招くのは、ある時代には婦人会と呼ばれ、ある地域では挺身隊と呼ばれた、いわゆる女ばかりの長老衆である。新郎には、初夜のまぐわいにおけるヤトゥンバ女への配慮を授ける、と伝えておく。淫らな匂いをアブサンに紛れさせた、単なるカムフラージュだ。
あるいは、ヤトゥンバならではのデリケートな何物か、というなら、別の意味でそれは正しい。招かれた屋敷に着くと、新郎は客間に通される。そのとたん、頭からズタ袋をすっぽり被せられる。いきなりの暴挙に、どれほど勇猛な若者であろうと反応する間がない。後頭部を鈍器で殴られ、次に目覚めたときには、朦朧とした意識のなかで自分の下半身に跨る老婆の喘ぎ声を聞く。嬉しそうに、貪欲に、ひたすら腰を振り続ける老婆たちの。
ズタ袋で目隠しをされるのは、ある意味、幸せだ。せめてもの、情けだ。涎を垂らしながら忘我の境地によがり声をあげる様は、おぞましく、想像を絶する。だが、いかに取り乱しても、老婆たちは心得たもの、新郎が射精する寸前にすばやく身体を離す。特大の牛乳瓶を男根にあてがい、新鮮な精液を集める。6・7人を相手に、少なくとも12ccを超えるまでは、新郎はただの抽出マシンとして搾り取られる。もしくは本当に気を失って、なにもかもが悪夢のなかに希釈されるまで……。歴史の陰で虐待され、強姦の憂目に遭ってきたヤトゥンバ女の恨みを背負うように……。日が昇る前には、集められた白い液体はそっと海へ流される。過去からの積年の怨嗟なのか、未来の雑種化への祈りなのか、もはやヤトゥンバ女の知ったことではない。
地球の反対側で、小川のせせらぎを両手で掬い、清涼な一口に咽喉を鳴らす生娘がいる。水は流れ、海に出て、雲になり、雨を降らせる。