□□□とボードゲーム(1.4)〜いきつまるアブストラクトゲーム
前回の記事はこちら。
先週は記事をUPできず、失礼しました。
つぶやきでごまかしましたが、オススメをいただきました。
まさか鼻血をオススメされるとは予想外でした。
今回も『マルセル・デュシャンとチェス』を引用しつつと思いましたが、フランス語のチェス「échec」には「失敗」「しくじり」などの意味があることから、いろいろを考えてしまうことがありまして。
そんなわけで、またまた脱線していきます。
『勝負の終わり(エンドゲーム)』
個人的に、フランス語の「échec」から連想した劇があります。
サミュエル・ベケットの戯曲『勝負の終わり(エンドゲーム)』です。
ベケットの戯曲といえば処女作にして代表作の『ゴドーを待ちながら』(1952年出版、1953年初演)がありますが、2作目として4年後(1957年)に初演が行われました。
ベケットはアイルランド生まれですが、ダブリンの大学でフランス語も学んでおり、1938年以後はフランスのパリに定住して小説や戯曲を創作しています。
ベケットは、小説を英語ではなく、まずフランス語で書いていきます。
そう考えると、当然チェスのフランス語も知っているわけだし『勝負の終わり(エンドゲーム)』に「しくじり」「失敗」「敗北」の匂いがプンプンするわけです。
『勝負の終わり』のフランス語の題名は「Fin de partie」です。
「Fin」は見覚えある方大勢いると思います。
意味は「終わり」です。
そうなると「partie」は「勝負」とは「試合」の意味になります。
『勝負の終わり(エンドゲーム)』で、登場するのは4人。
主人公のハムは、チェスで言えばキング(王様)にあたるでしょう。
ところが重い眼病で車椅子の厄介になっており、自分で動くのが困難な状態です。
一応、チェスですからもう1つのキングも登場します。
ハムの父ナッグですが、なぜかドラム缶に入っていてしかも両足がないという、とんでもない状態です。
どちらのキングも動くことが困難で、どうしようない「行き詰まり」状態です。
ナッグの伴侶ネルですが、ナッグと同じくドラム缶&両足なしの動けないクィーン(女王)です。
もう一人紹介してなかったのはハムの面倒を見る家来のクロヴがいます。
例えるならばポーン(従者)でしょう。
劇が進行するにつれて舞台にあるものはどんどんなくなっていくし、ナッグもネルもいなくなるし、ハムのできる行動もどんどんなくなっていく。
まさにチェスの終盤、盤上のピースがどんどんなくなってしまう状況です。
アブストラクトゲームは「敗北をめざす」ゲーム
昨年、一昨年と、それぞれの12月にAdventarで「アブストラクトゲーム Advent Calendar」の企画を設けさせていただきました。
2023年の初日に記事「アブストラクトゲームには「解かれる」という「テーマ」がある」をUPしました。
2023年の11月頃に、オセロが解かれた(8×8盤面で双方が最善手を続けると引き分けになる)という論文(現在査定中)がネット上に公開されたので、これ幸いに便乗しました。
ところで、アブストラクトゲームが「解かれる」とはどういうことなのでしょうか。
言い換えると「アブストラクトゲームを組合せゲーム理論などで扱える命題に変換して結論を導く」ことです。
結論とは何かというと
対象のゲームを試合せずとも、勝負の結果が必ず、1)先手必勝2)後手必勝3)引き分けの3択のうちの1つになる
です。
なんかこのように書くと「先手か後手かどちらかが勝つか引き分けなんて、当たり前じゃん」と思う人もいるかと思います。
もっと極端です。
どれくらい極端かというと、
ここにオセロがあります。
引き分けです。
以上。
あるいは、
ここにHEXがあります。
先手必勝です。
以上。
です。
ひでえ話だと思いますが、完璧に最善手を打つことのできるAIが存在すれば、そのAIとゲームプレイの開始前に決着がついてしまいます。
ちょっと卑怯丸出しなので、人間レベルで他の例をあげれば、
ここに三目並べがあります。
引き分けです。
以上。
です。
(ここでは証明しませんが)三目並べで最善手を続けると引き分けになるのは、ご存知でしょう。
試合(プレイ)をしなくても結果の分かるゲーム(アブストラクトゲーム)は、勝負を楽しむゲーム、とは言い難いでしょう。
そういった意味でひどい言い方をすれば「ゲームの役割を失い死んでしまったゲーム」です。
ゲームを解くとは、数学者がゲームに敗北を突きつけて勝利を宣言することなのです。
ひとまずの締め
さて、ここらで一区切りにしておきます。
まだまだ書きたいことがあったりしますが、どうにも長くなりそうなので
次回以降にします。
ガマンです。
次回はどうなるのか、わかりません。
『マルセル・デュシャンとチェス』の通読率はまだ8割くらいなので、デュシャンの『遺作』とチェスの関係も気になるところなので、読み進めていきます。
てか、早く読め、俺。
では。