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「紙もの」を絵解き(えとき)してみた① スロヴァキアの赤十字社のマッチラベルと模範的労働者

翻訳ソフトで格闘 Úderkyがわからん

趣味で、主に社会主義国のマッチラベルに書かれた外国語を訳している。
横着にも、語学を学習せず、ネット上の翻訳ソフトや辞書を使っているが、訳があやしい時がある。特に社会主義独特の用語は、まだ翻訳ソフトは弱いようだ。今後の精度向上に期待
このスロヴァキアの1960年ごろのマッチラベルには「úderky čsčk」と書かれている。čsčkはチェコスロヴァキア赤十字社のことだが、「úderky」がわからない。赤十字社のキャッチフレーズか何かであろうが、翻訳ソフトに入力すると「パンチ」「ストライキ」という訳か出た。
辞書でも「úder」は「一撃、殴打」とある。でも「一撃!赤十字社」のキャッチフレーズはポジティブすぎるし、牧歌的なラベルの図案になじまない。
次にソフトで英訳すると「Shock worker」と出た。一撃労働者?「Shock worker」をネットで検索すると英語版ウイキペディアの「Udarnik」という言葉がヒット、チェコ語、スロヴァキア語のúderkyとは「優秀な労働者」という意味とわかった・・「優秀な(模範的な)労働者 チェコスロヴァキア赤十字」・・やっと通じました。

Úderkyは模範的労働者の称号

1935年、ソ連のスタノハフという炭鉱夫が1人あたりのノルマの14倍の石炭を5時間45分で掘り出したことにちなみ、以降ソ連では高い成果を上げた労働者は「スタハノフ労働者」と顕彰された。そして他の社会主義国でも、同様の労働者を顕彰する労働強化運動が展開されたという。úderkyという言葉はチェコスロヴァキアにおいて、労働ノルマを圧倒的に超過し、こなした人に称号として与えられていたようだ。
もう30年ほど前、女性活躍という言葉がなかった時代、同業の会社で、若手女性が昇進、「彼女はシンボルとして人事が昇進させている」と言われていたのを思い出した。その手法に効果があったかは知らないが、一方、社会主義国の「模範的労働者」の顕彰は、高い給与目当てでノルマの虚偽申告が出たり、すべての功績が1人にいくことから陰で支えた人たちのモチベーションが上がらなかったり、上からの労働強化が起こって、仕事の質が落ちたりとうまくいかなかったようである。平等な社会を建前とする社会主義国では「働いても平等だ」という発想から、競争原理が働かない弊害があったと聞いていたが、競争させてもうまくいかなかったようである。
また、ウィキの記事にはポーランドで模範的労働者の称号を与えられた鉱夫は、実際は歯の治療の不備で死亡したところ、公式には、致命的な疲労で亡くなったとされたという話も出ていた。
もっともマッチラベルの赤十字社はしっかりと模範的な仕事をされてきたに違いない。

ユーゴスラヴィアの模範的労働者

「模範的労働者」で思い出した話がもう1つ。ユーゴスラビアに1950年代、スタハノフより多く(このあたりはユーゴがソ連をライバル視していたことの現れ)石炭を採掘したアリヤ・シロタノヴィチという、やはり英雄とされた炭鉱夫がいた。50年代ユーゴスラヴィアの紙幣に採用された炭鉱夫の肖像画はシロタノヴィッチであると新聞により伝えられ、そう信じられていたが、後にアリツ・ヘラリッチという別人であることが判明したという。1987年発行の紙幣には本物のシロタノヴィッチの肖像画が採用された。もっとも間違いと言われているお札にはもともと、人名が書いていないので、肖像を誤って載せたというよりは、この肖像こそが英雄シロタノヴィッチだと間違えて伝わったということなのだろう。
それにしても、お札の肖像がみんなの思っていた人と別人だったなんて珍しい話だと思う。日本の新札は大丈夫だと思うが・・

引用参考文献 
亀田真澄「共産主義プロパガンダにおけるメディア・イメージ ーソヴィエトと旧ユーゴの「労働英雄」報道の例からー」『SLAVISTIKA』26号 2010年
東京大学
百瀬亮司ほか『アイラブユーゴ2男の子編』2014年 社会評論社






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