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読書完走#428『思いがけず利他』中島岳志 2021
「業とは、it's automaticなのです」
親鸞と宇多田ヒカルを掛け合わせて利他とは何かを語る中島さん、他力は止まらない。落語に仏教、歌謡曲に料理に民藝。多彩なボキャブラリーを駆使して利他の本質に迫る。
利他にも「自力の利他」と「他力の利他」がある。後者=思いがけない利他こそが本質だという。アタリ氏の合理的利他主義を痛烈に批判する一方で、偶然性に着目したサンデル氏の利他観に共感を寄せる。
アホな政治のせいで保守とか民主主義とかに関する言説が目立つけど、中島さん、元々の専攻はヒンディー語と南アジア地域研究でインド哲学や仏教にも造詣が深い。
ふいに、ふと、はたと、たまさか…偶然性に関する語彙の豊かな日本語は、利他的世界との親和性が高い。「利他」は与えた時ではなく、それが受け取られた時に発生する。軽やかな筆致で描かれているけれど、モースの贈与論にも通じる深い論考だ。