きみのおめめ あいうえおの練習 #24
爪の先が白く、見ているこちらがはらはらする。
手についた筋肉を指先一点に集めたように、鉛筆の先へとすべてをそそいでいる。
紙と芯の擦れる音がチリチリと鳴り、数センチ進むごとに、尖った先が細かく弾ける。音のない部屋では、鉛筆の芯が縦に割れるわずかな音すらも響かせた。
ふう、と一息吐いて5歳の娘は太めの三角鉛筆をドリルの脇に置く。カラリと音がして、一辺分転がる。
私は娘のほうを見ないよう、自分の開いた仕事関係の問題集へと顔を寄せた。
「みて」
とんとんと肩を軽く叩かれ、初めて気づいたというように娘を見る。
「みて」
娘はもう一度繰り返し、ドリルを指差す。
ふらふらと迷った線が、たしかに「め」という薄く印刷された線の上を通っていた。とめの部分には、鉛を砕いたような鈍い銀色の粉が舞っている。
線の上をしっかり通ってるね!じょうずだね、とほめる。
5歳になって、ひらがなをちゃんと書けるようになりたいと練習をはじめた。
本屋さんで見つけたドリルを欲しがり、一線を大切に、力を込めて書いている。
力を抜いたらいいのに、持ち方だって正確に直したい。
そう思いつつも、線を引く目があまりに真剣で、教えたい、と私が先生役を始めると「わかってる!」とへそを曲げたくなるお年頃なのだ。
まずは、こんなふうな時間に慣れることから。
そう思ったあと、娘の頭を撫でようとした手を慌てて引っ込める。以前、応援のつもりでたくさん褒めたときに、
「娘ちゃん、まだとってもじょうずじゃないの、わかってるんだよ」
と、涙目でぴしゃりと言われたのを思い出したのだ。
しょり、しょり、と鉛筆削りを回す娘の横顔を見る。集中しているときによくするアヒル口になっているのを見て、私は自分の問題集と顔をつき合わせた。私だって、自分の課題から逃げるわけにはいかないのだ。
娘のいる右側から、ぱらり、と1ページめくる音が聞こえる。
しばらくして、パキ、という今日何度目かの音が、リビングの空気を裂くように響いた。