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準備室の先生
その理科室には、いつも理科の先生がいた。
正確には理科室の隣にある、理科準備室に、いた。
実験器具が並ぶ狭い準備室、そこはいつでもコーヒーの匂いがしていた。
堅苦しい形式だとかを嫌う人だった。
授業をきちんと進めるとか、職員室で先生たちと話すことに
こだわっていなかった。
いつも準備室にいて、準備室にすっかり居場所を構えていた。
私はよく理科準備室に行き、先生に分からない問題を聞いていた。
受験生の冬、放課後に過去問を持っていき、一番効率的な解き方や発展させた高度な解き方を考えながら友だち数人と先生で机を囲っていた。
あの空間は私にとってとても居心地がよかった。
いつ訪ねても先生がいる心強さ、狭い部屋で効いた暖房の暖かさ、
それから閉鎖的な安心感。
私がそこを卒業して数年後に、先生が異動になったと聞いた。
あの準備室は、どうなってしまったのだろうか。
先生は、新しい学校でも居場所をつくれたのだろうか。