マガジンのカバー画像

エッセイ

76
楽しいもの、大事なものを見つけて言葉にするのが好きなんです。 「分かる!」も「へー」も嬉しいです。「へー・・・」も、是非。
運営しているクリエイター

#映画館

映画の外側

電車を乗り換えて、90分かけて映画館に向かった。寂れたショッピングモールの3階の、小さな映画館の端のシアターは、横がスクリーンと同じ幅しかなかった。 全国公開から一か月遅く、二週間だけの公開。県内で観られるのはここ一か所だけ。ちなみに、今日が公開初日で、上映時間は午前と夕方の二回。 奥の奥に、ひっそりと私が観たい映画があった。 狭いシアターながら、一番後ろの真ん中辺りの席に落ち着くと、やはりそこは映画館だった。誰もいなかった。このまま一人も入ってくるなと願ったが、上映時刻を

あたたかい箱

続く真っ暗さがたまに怖くなる映画館で、私は温かい繋がりのようなものを感じていた。そんなことははじめてだった。 その映画は、若い子が2人で観るような、みずみずしい作品だった。 私の左隣には、一つ席を空けて高校生のカップル。 斜め後ろにはまたカップル。 思ったほど居心地は悪くなくて、すんと座ってスクリーンを見つめていた。 例えば、きゅんとするシーン。恋人の間の秘密めいた会話。 若いすれ違い。 そんなシーンが訪れるたびに、横の男の子がジュースを飲む。 前の方に座る誰かが動

暗闇で触れるもの

そのとき、私は自分の身体を探していた。 真っ暗な部屋は広いと分かっているのに、暗いせいでもしかしたら狭いのかもしれないと思わせる。 前方、大きな画面だけが明るく、私の手元や足元は何も見えない。 ロードムービーのような優しい映画を観ていた。 圧倒的な音はなく、終始見入るわけでもないと、ふとこちら側に意識が戻る瞬間があった。 とりとめのない会話が流れている途中、私は一度顔を下に向けた。 ずっと動かさなかった手足や、髪や顔が、本当にちゃんとあるのか不安になった。少し感覚が鈍