「融解」 うらばなし | 書き出し縛りのザイン? 1
融解
うらばなし
はじめに
「書き出し縛りのザイン?1」に掲載した『融解』について、どういう過程を経て生まれたものなのか、だったり、普段文章を書く時の心持ちなど、佐藤に倣って実験的に書いてみることにした。
基本的に何かものを書くという時、「良いものを書くぞ!」とか「誰も思いつかないような、オリジナリティあふれるものにするぞ!」と意気込んでみるというよりは、まず第一に自分が読みやすい、リズムに乗りやすい文章にすることを心がけている。
多分プロの物書きを目指す人がそうであってはダメなんだろうとは思うけれど、まあでも自分はただやってみたくて、楽しいような気がして書いてみたという方が大きいから、そういう部分があっても良いんじゃないかと思っている。
それでもやっぱり世に出すのであれば、何かひとつは基準を設けなければならないとは思っていて、それが自分の場合はリズムだった、というわけだ。
だから正直今回も、最初こそ自分の好きなショートショートのように、短い中にもあっと驚くような展開や、皮肉の効いたニヤッとする文章というものを書いてみたいなあ、と思いこそすれ、結局はまあ自分だけでもスッと頭に入る文章であればよし。と落ち着いたのがこの作品である。
まだ読んでいないという方は、ぜひ上のリンクからざっと目を通していただけると、ほんの少しこの後に続く話が面白くなるかもしれない。
作品
最初に「夏休みが始まって一週間」という書き出しを耳にしたとき、確実に一週間以上夏休みがあるなんて、小学生から大学生くらいのもんじゃないのか? だったらまあ自分が最近感じることを書いてみるか。くらいの感じでテーマを決めた。
言いたいことはただ一つ、暑くて暑くてどうにも溶けてしまいそうだ、ということ。これは実際に夏になると常日頃感じることで、無意識のうちに「暑い溶ける」と口から漏れている。耳にする人には伝わっていないかもしれないが、この口癖、愚痴のようでいて実は願望でもあったりする。だってほんとに身体が溶けはじめたら面白くない? 新陳代謝が表面から発生してるみたいな。だから本当は実際に身体が溶けてきて、ああ足の小指が溶けてきちゃったよ、まだ形残ってるかなあ、あんなに日溶け止め塗っとけって言われてたのに、アイスみてえじゃん、期間限定足の小指アイス、先着2名さままで…うげぇ何考えてんの自分。とかざっと適当にこんな世界観の話にしようかとも思っていた。
いつも心には「非日常の中の日常」というテーマがひっそりと住み着いていて、書くならば日常世界の非日常的な出来事ではなく、非日常世界の日常的な一コマが良かった。でも現実はそんなに甘くはなくて、その加減が本当に難しい。説明しすぎても、説明しなさすぎても、何かが違う。書きたかったものじゃない。「書き出し縛りのZINE文学」としてのテイストなども加味して悩んだ結果、最後にほのめかす程度におさまってしまった。いつかまた機会があれば、がっつり世界観の中で、ただの日常話を書いてみたい。
じゃあ肝心の、お前が唯一基準にするところのリズムはどうなんだと、そう聞かれたら少し言葉に詰まってしまう。いやーだって多いよなー、体言止め。エ段で終える一文もちょっとくどい。言い訳するとすれば、これ書いてた時はちょっとハマってたんだよねって。というか時々この体言止めの多用にハマる時期がある。ハマるといっても「最近○○にハマってます」みたいなハマるじゃなくて、本当に穴にハマるみたいな、その穴にハマって抜け出せない、みたいなイメージ。前にも一度、課題でちょっとした記事を書くみたいなものをやったときも、本当に気持ち悪いおじさんの文章にしかならず、しかも一度その文体でアイデアを出力してしまったものだから、どうにか修正しようと思っても離れられず、泣く泣く「めっちゃ気持ち悪いのは分かってるんですけど、他にどうしようもなく…」みたいな断りを入れて提出した覚えがある。
だから今後の目標としては、穴にハマらない、そしてハマったとしても抜け出せるようにする、といったところだろうか。頑張ります。
ちなみにどうでもいいけど、自分自身は本当に暑い&熱いのが苦手なのでお風呂もそこまで浸かれない。ここだけウソ書いてます。
コラージュ
今回自分の作ったコラージュは、実はこの作品のためのものではない。もともとは全く別の、学校での課題として制作したものだった。課題内容としては「好きな雑誌1冊を使用し、A3サイズのコラージュを制作する」というシンプルなもので、自分はPOPEYE2022年6月号「車があれば!」という1冊を使用した。
特に強い理由はないけれど、もともと車が好きだったのと(といっても車種諸々にめちゃ詳しいとかではなく、単純にフォルムとか眺めるのが好きレベル)、オブジェクトとして扱いやすそうだし、たくさん切り抜いて形を調整すればどうにかなるだろう、くらいの感じに考えていた。あとは右上の洗車しているお兄さんのポージングに一目ぼれしたのもある。この機械の先から車が出てきたら…というところまでは選んだ時点で考えていたはずだ。結果的に赤い帽子がアクセントにもなったし、洗車お兄さんに助けられた節はある。
制作過程において何か特別凝ったことをした、ということはなく、ただただきれいにデザインナイフで切り抜き、色合いや位置を何度も確認しながらそっと張り付けていった。左の車群はいかにデクレッシェンド型がきれいに作れるか、右下の車ピラミッドはいかに違和感なく、かつ水のような物体として積むことができるかということはずっと考えていた。それでもトータルで一番時間がかかったのは、左のハンドル持ちお兄さんの顔をどのようにくりぬくかという部分だろう。何枚もコピーしてあらゆる切り方をしてみて、一番しっくりぞくっとくる形状にできたのではないだろうか。
その課題では同じクラスの生徒がコメントしたり採点する方式になっていたのだが、無事そこそこの順位をいただき、嬉しいコメントも多数いただいた。大抵はアイデアだったり構図に言及されていたような気がする、あとはぱっと見の印象がスタイリッシュだよね、みたいな。でも自分としてはPOPEYEがあればこその色合いとアイデアなので、正直実力不相応のものができてしまった感もある。次回どうなるでしょうか、こうご期待。
ちなみに左の噴射車群の中に、実は三葉虫が仕込まれている。この異物混入の小ネタも含めて、コラージュ自体には「洗?」というタイトルをつけたのだが、どうにもあまり伝わっていないようだったのが唯一の心残りといったところ。
さいごに
たいしてなんにも考えてないことが明らかとなったわけだが、これくらいが自分に合ったスタイルなんじゃないかなと、今のところは感じている。いつかちゃんとショートショートを書いてみたいし、自分の中のテーマとか書き方を確立しつつ、水のようにどんな器にも合わせられる文章も書けたらいいなと思う。
マジのマジに忙しい今日この頃ではあるけど、書くことはやっぱり苦痛じゃないので、これからものんびり続けていけたら。
鈴木 洛 Raku Suzuki
翻訳とデザインを勉強中のしがない学生。今はど素人のデザインを中心に、翻訳は手を抜きがち(こっちだってど素人のくせに、頑張ろう)。文化的なことは大抵何でも好きなザ・中途半端人間ですが、何卒お手柔らかにどうぞ。常に何事もさらさらとしていたい。
あと猫も好き。NO CAT, NO LIFE.