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自然を良しとする表現(「半人間」紹介その2)

2024年5月19日(日)に東京流通センターで開催される文学フリマ東京38※に再び「牽引社」として出店する。その際にまたちょっとしたエッセイ的な本『半人間・半意識論』※2を出す予定になっている。前回はその基本となるアイデアを紹介したが、今回はもう少し踏み込んだ内容を紹介したい。(Webカタログリンクはこちら

※ 今回から入場料1,000円(税込)となる。
※2 初版200円を予定。

人間性とは、という問い

前回既に触れたように、半人間とは人の反省しない部分の抽出である。この事だけでも、〈人間=反省するもの〉という図式からずれた話をするのには有効だった。しかしながら、半人間とは言っても、半分は人間なのだから、やはり何らかの人間性があるのではないか、という視点もある。
この視点は無視しがたいもので、結局のところ〈人間的なものと、人間的でないものとはどう違うのか?〉という古くて新しい問題を呼び覚ましてしまう。例えば、雑草を食べるようなことは人間的でないだろうか?しかし、山菜は見た目としてはかなり雑草に近いし、ハーブも雑草という括りに近い。
結局、人間らしいとはなんだろうか?それが分からないと、半人間と言っても何だか分からないままである。

何かを付け加えるという性質

この問題に対して、私はちょっと変わった視点で取り組むことにした。端的に言って、人間的なものは人間的でないものと区別されるに違いない。これを〈何かを追加するもの〉と言い換えることにしよう。すると、人間的とは「そのままのものに、何も付け加えないのではなく、何かを付け加えるようなもの」と捉えることができるだろう。
では、「そのまま」とは何なのか?この言葉は、自然に置き換えることもできる。言い換えるとこうだ:〈自然とは何なのか?〉これについて、反省的には色々と難しい問題があるだろう。だが、ここでは反省しないことが前提である。厳密な自然を考える必要はなくて、いわゆる自然で全く構わない。

ここまでをまとめてみよう。半人間であっても何らかの人間性はあると思われるが、それは〈自然に対して何かを付け加えるようなもの〉ということになる。

自然とはつまり、海とか川とか、土地とか、何かそういったものかもしれない。そういうものを開発して人は生活している。あるいは人間自身の中にある自然な傾向に対して何かを付け加えるのかもしれない。確かに、これらはどれも妥当な視点だし、それらしい結論に思える。ただ、議論としては散逸し過ぎで、何かを見逃しているかのようである。

良しとする表現

反省をしないということと関連して、付け加えること自体の様子にも注意が必要である。反省をしないので、付け加える時に対象を変更すると、それは対象自体になってしまう。何が”もともと”で、何が”付加されたもの”なのかの違いが無いからである。普通、何かを否定的に扱ったら、それは対象それ自体の変更を要請する。逆に何かを肯定的に扱うと、それは対象が完成していることを意味するので、ただその肯定を付け加えた、ということになる。だから、半人間が付け加えるのは〈肯定的表現(良しとする表現)〉であるということになる。

さて、以上の議論は抽象度が高いものの、定式化するのに便利である。これによれば、半人間を考える際の人間性は〈自然に対して、それを良しとする表現を付け加える〉ようなものなのだ。

だいたい以上の議論を下敷きにして、半人間論は進んでいく。半人間のこの性質は、一見して現状の様子をそのまま肯定する保守的態度のようにも思えるかもしれない。それは一面では当たっている。ただ、ここで述べられているような〈自然を良しとする表現〉は、私達が生きていてどうしても受け入れるしかない沢山のことについて当てはまる。例えば、朝起きて、ご飯を食べて、青色の空の下を歩いて、疲れたら休んで、といったようなことも。半人間は、私達が敢えて反省しない諸々の事柄についての議論全てに登場するので、まず間違いなく避けがたい。そして、避けがたい以上、私達はいずれにしろ、いくらかは自然を良しと表現して生きているということになる。

自然との関わり

人間は自然の一部、自然を破壊してはいけない、持続可能な開発をしよう。いろいろな仕方で自然との関わりが表現される現代だが、ここで述べたのは少し変わった言い方である。あくまで反省をしない部分としての半人間を想定しているので、ある意味では日々の感覚にずっと近いとも言えるかもしれない。

さて、自然との関わりについての話になってしまったが、この議論全体がどのような有利な視点を提供できるか、というところにたどり着くには、まだかなり距離がある。でもそれは確かにある。
このテーマではここまでとして、次回は(もしあれば)また別な視点から紹介してみたい。


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