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『その時…』

出逢いがあれば別れがある。

至極当たり前な話で

止まったり、振り返ったり、進んだりを

繰り返しながら日常を生きている。

それぞれに訪れる『その時』がある。

『その時…』

ふいに鳴った携帯に目をやると

君からの着信だった

いつもの調子で電話に出ると

受話器の向こうに重い空気

「話があるの…」という君は

「今から行ってもいいかな?」と

やっぱりどこか沈んだ声で

僕に了解を求めてきた

嫌な予感はしたけれど

とりあえず部屋で待ってみる

チャイムが鳴って

君が部屋に来た時

僕の動きは止まった

もう終わるのは分かってた

でもそれを認めるのが怖かった

君が僕を見つめるその目が

それを物語ってた

二人向かい合い座り

「話って何?」と

努めて明るく振る舞う僕

長い沈黙の中彼女は一つ

小さな咳払いをした

唾を飲む音さえも

はっきり聞こえる

そんな空気に耐え切れず

「何か冷たいものでも

入れてくるから」と

静かに席を立った

台所で一つ溜め息

できることなら逃げ出したい

グラスを持って

部屋に戻った時

静かに彼女は泣いていた

もう終わりだと確信した

「何で泣いてるの?」

って声も震えてた

小さな声で彼女が僕に

「ごめん…」と一言

「悪いところがあったんだったら

直すから」なんて

この場面では

惨めな一言が口をつく

出逢わなきゃよかった

なんてことまで考えだして

苦しくて苦しくて

でも…

もう終わりだという事実

相手をせめても

変わらないこの事実

今日で会うことも

なくなるという事実

すべて受け止めなきゃ

ならない事実

もう終わるのは分かってた

でもそれを認めるのが怖かった

君が僕を見つめるその目が

それを物語ってた

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