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突発休みの多い部下にどう対応する?

ミニストーリー

渡辺舞子(32)は、朝の目覚まし時計が鳴る音でようやく目を覚ました。頭が重く、身体がベッドから起き上がるのに大きなエネルギーを必要とする。ここ最近、こんな朝が続いている。かつては目覚めとともにスムーズに出勤準備を整えていたのに、今では家を出るまでに2時間以上を費やす日も少なくない。

ああ、今日は何とか出勤できた。
でも体がだるい。でも仕事だしなんとか頑張らないと。低下した集中力の中なんとか頑張ってみるが、同僚との些細な会話すら負担に感じる。「仕事を任されている以上、ちゃんとしないと」と自分に言い聞かせながらも、思うように捗らない自分自身に対して苛立ちを感じていた。

それでも出勤できない日が増え、とうとう有給休暇も残り2日となったある日、上司である田村課長から「少し話がある」と声をかけられた。


会議室に呼ばれた渡辺は、高なる鼓動を抑えるために数分時間を要した。完全に治ったわけではないが、これ以上課長を待たせるわけなにはいかないと思い、課長の待つ会議室に向かった。席に座ると、田村課長は穏やかな口調で切り出した。

「渡辺さん、最近体調が優れないみたいですね。朝、遅れることが多くなってきていて、仕事が辛いんじゃないかなと思っていたんです。」

渡辺はハッとした顔で課長を見た。自分ではうまく隠せているつもりだったが、周囲にはすっかり見抜かれていた。

課長は続けた。

「実は、業務の進捗についても少し気になっていて、最近は資料作成のペースが遅れているし、担当業務でのミスも増えているように思います。もちろん責めるつもりはありませんが、渡辺さん自身が無理をしているように感じて…」

その言葉に渡辺の胸が締め付けられるようだった。自分では精一杯頑張っているつもりだった。しかし、その努力が周囲に伝わっておらず、むしろ迷惑をかけていた事実に愕然とした。

「さらに、突発的なお休みも増えてきていて、他のメンバーに急な調整をお願いすることが増えています。渡辺さんを責めたいわけではないですが、この状況が続くと、周りも大変になってしまうのではないかと心配しています。」

「すみません…」渡辺の目には涙が浮かんでいた。「私、こんなに迷惑をかけているとは思っていませんでした…」

「渡辺さん、まずはご自身の体調を整えることが一番です。」田村課長は優しい表情で続けた。「無理に出勤を続けて、さらに体調が悪化してしまっては大変です。一度お医者さんに相談してみるのはどうでしょう?」

その提案に渡辺は驚きつつも、ほっとした表情を浮かべた。確かにここ最近、体調を無視して働き続けるのは限界だった。「…はい、わかりました。受診してみます。」


解説

いかがでしたでしょうか?今回のストーリーは、部下が体調不良になったときの上司の対応がテーマでした。パフォーマンスが落ちたり、勤怠の乱れ等が出現している時は、体調不良のサインです。

上司であるあなたが、そのサインに気づいた時にどう対応したらいいのか解説します。

1. 上司には安全配慮義務がある

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

労働契約法第5条

事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。

労働安全衛生法第3条

安全配慮義務は、主に労働契約法で規定されていますが、労働安全衛生法でも従業員の安全に配慮する義務を課せられています。

簡単に言うと、上司は、部下が体調を崩している場合にそれを適切に管理し、無理なく働ける環境を整える必要があるということです。
渡辺さんのような状況では、まず体調を確認し、無理に働き続けないように具体的に対応しなければいけないのです。

2. 本人の希望を叶えることだけが配慮ではない

優しい上司は、本人の気持ちに寄り添って休みながらでもいいから無理なく働いてもらうよう伝えることがありますが、これは案外良い結果につながらないことが多いです。

具体的には、この渡辺さんのように、体調に応じて休んだり遅刻したりしながら働いたとしても、予定通り働けない自分自身を責めてしまってより体調が悪化することもあります。

そのほかにも、突発の遅刻や休みによって周りの同僚がカバーする頻度が増えます。初めは本人のことを心配していても、頻回になると周りも余裕がなくなって本人に対してネガティブな感情を抱いてしまいがちです。

3. 業務の影響を冷静に伝える

関係性が悪化してしまってからでは、修復が困難になるため、そうならないようにできるだけ早い対応が必要になります。

ときには、本人の体調不良が業務にどのような影響を及ぼしているかを具体的に伝えることが必要です。本人は傷ついてショックを受けることもありますが、まずは本人がそれくらい体調が悪くなっていることに気づく必要があるのです。

このとき、本人を気遣いすぎて指摘しない上司もいるかもしれません。ですが、事例性と疾病性はできるだけ分けて考えるようにしてください。

業務に支障をきたしていること(事例性)とそれを言われてメンタル不調になること(疾病性)を分けて考えます。

事例性を放っておくと同僚の不公平感が大きくなってしまい、結果的に配慮してもらっている本人にとっても良いとは言えない状態に陥ってしまいます。

なので、そうなる前に事例性についてフィードバックすることが大切なのです。責めるような口調ではなく、落ち着いて事実を伝えるようにしてください。「業務の進捗が遅れている」「他メンバーへの調整が必要になっている」など、具体的な事例を挙げると効果的かもしれません。 

4. 体調が優先であることを伝える

どれだけ気をつけても、業務に支障が出ていることを伝えると大きなショックを受けてしまいます。

その時の本人の気持ちにも寄り添うようにしてください。

「まずはご自身の体調を整えることが一番です。無理に出勤を続けて、さらに体調が悪化してしまっては大変です。一度お医者さんに相談してみるのはどうでしょう?」

と言ったように、受診を提案するようにしてください。

ここで注意点があります。

受診することを上司が強制するのは少しリスクが高いです。就業規則等によって受診を命ずることができる場合もありますが、原則は本人の納得を得てから受診してもらった方が、トラブルも少なく後々の関係性も良好になります。

なので、できるだけ自分の意思で受診してもらうように心がけてください。

5.なかなか受診しない場合

なかには、受診を促してもなかなか病院へ行かないない場合もあると思います。病院に行かなくてもきちんと仕事ができていれば問題ありませんが、以前と変わらず事例性が存在する場合は頭を悩ましてしまうでしょう。そういうときは、人事部はもちろんですが、産業医や保健師にも一度相談してみてください。

直接上司が言うよりも、第三者的な立場であり医学的知識もある医療職から言われる方が受け入れが良い場合も少なくありません。


まとめ

部下の体調不良に気づいたとき、上司としての対応は非常に重要です。現実のケースでは伝え方も難しいですし、その後の対応も悩むことも多いと思いますが、今回の記事を参考に少しでもお役に立てれば幸いです。
また、会社に産業医や保健師がいる場合は、一度相談してみてください。

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産業医|平井
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