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【社内勉強会】職場×データの現在と未来〜AI時代のデータガバナンス〜
今回の社内勉強会は、「職場×データの現在と未来〜AI時代のデータガバナンス〜」をテーマに実施しました。
データという言葉を聞く機会は増えたけれど、「データガバナンスって何?」「なぜ今考えなくてはいけないの?」「データ社会で何が起こっているの?」といった疑問について、
1時間の内容をギュッとまとめましたので、ぜひご覧ください!
データガバナンスとは?
データガバナンスとは、端的に言うと「データの取り扱いを統制すること」です。(※1)
機能として、データを取り扱う上でのルール作り、ルールを守るための監督指揮統制や責任明文化、またルールがきちんと守られているかのチェックや万が一ルールが破られていた際の対応などが当たります。
データガバナンスは、多様なビッグデータを取り込む機会を得た組織にとって、組織内のビッグデータの価値を最大化して有意義かつ円滑に活用し、リスクを最小にするためには、必要不可欠な取り組みです。
なぜ今、データガバナンスが議論されているのか?
なぜここまで「データ」と言われているかについては、データが天然資源である石油よりも価値が上昇しているためです。国家以上に大きな影響力を持っているGAFA(アメリカの巨大IT企業であるGoogle、Apple、Facebook、Amazonの4社を意味する)は、データに関する規制があまり整っていない中で市場を独占しています。
ZENKIGENは現在人事ソリューションを提供している会社である一方で、ビッグデータを扱い、価値に転換する会社です。GAFAほど影響力はありませんが、もしかするとそれ以上の影響力を持つかもしれない機会に挑戦しています。
国際的な法規制、社会の制度や個人のあり方が「データ」を中心に変わる時代において、データガバナンスとは私たちの仕事の「価値」を問う議題なのです。
データ社会で今起きていること
①テクノロジーの進化による「個人」概念の変化
「個人情報」とは誰のものでしょうか。個人情報は個人が所有しているものです。
では、自分が所有している個人情報の範囲はどこからどこまででしょうか。
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実は、テクノロジーの進化により、個人の生得的・生体的なデータ取得が可能になっていくことも予想されています。
私たちに身近なのはHR Technology領域ですが、Human Technology領域のように自分の感情や神経伝達物質や遺伝子情報まで企業が管理し始めたらどうでしょう。
こうして自分の個人情報の範囲が不明確で曖昧な中、テクノロジーの進化により企業側が把握できる情報の質や量は変化してきています。
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データ資本主義の社会になっている今もなお、所有者である個人はデータを搾取され取引している感覚はないと思います。つまり、個人情報の取引がほとんど省略されているのが現状です。一例ですが、今後益々データの処理技術が向上していくと、プロファイリング(個人の推定)も向上していき、自分が何者であるべきかをテクノロジーに提案されるような時代がぼんやりと近づいていると言っても過言ではありません。(※2)
このように基本的に私たち個人がどうすることもできないほどデータが拡大している中で、このデータを管理する側の“責任が問われにくい現状”に問題があります。
②巨大資本によるプラットフォームのインフラ化
皆さんは世界最大級のプライバシー事件である「ケンブリッジ・アナリティカ事件」をご存知でしょうか。
ケンブリッジ・アナリティカ社はアメリカの大統領選挙やイギリスのEU脱退に関与していたとされる企業です。Facebookから得た個人情報をケンブリッジ・アナリティカ社が不正利用し、アメリカの大統領選で共和党支持者を増やすような情報操作や、イギリスのEU脱退の誘導をしたとも言われています。
(Netflix:グレートハック:SNS史上最悪のスキャンダル)
なぜこのようなプライバシー事件が起こってしまったのでしょうか。
それは日本を含め世界全体でデータに関する規制やルールを整備していなかったことが原因であると考えられています。
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当該事件の手段としてケンブリッジ・アナリティカ社がFacebookが不正利用し、プライバシー侵害をした背景などから、EUでは2018年5月にGDPR(General Data Protection Regulation)という、いわゆるデータがユーザーのものであることを強く主張する法律が成立しました。(※3)
また、アメリカでは根本である民主主義がケンブリッジ・アナリティカ事件により揺らいだため、カリフォルニア州などの一部の州で法規制が始まっています。
では、そもそもなぜプライバシーは守らないといけないのでしょうか。
それは、プライバシーは他者が介入できない自分だけの領域だからです。
人格を自由に発達させる非公開領域
誰にも介入されずに自己決定できる権利
人生の一部であり、心の内部を守ること
プライバシーの権利=人権である
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個人主義が強く根付いている西洋の考え方では、他人が私(自分)より多くのことを知ることを許可してはならないという考え方があります。
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自らの願望や喜びを自分以上に知る人は誰もいない
→もし政府や企業が私(自分)よりも私(自分)を知ることができるとしたら?“より良い人生”という考えを人々に押し付ける権利は誰にもない
→他人から仕事や生活に介入するための正当化の道が開ける他人が私より多くのことを知ることを許可してはならない
→ビッグデータを保有しAIを実装した政府や企業は、本当に求めていることを知ることができる
最悪、データをたくさん保有していて、まるで自分を思いやってくれているような供給をしてくれる企業に全部任せてしまった方がいいなと個人が感じるようになってしまった場合、社会の根本が変化してしまう危惧の念を抱いています。
③パンデミックによる監視社会化の助長
次に、世界でパンデミックが起きたことにより、規制があまり進んでいない中で監視社会化の懸念や動向が進んでいます。
日本では「監視=悪」と捉えられる傾向がありますが、WHOでは監視ーsurveillanveーを「公衆衛生上の行動の計画と実施、評価に不可欠な保険関連データを継続的、組織的に収集、分析、解釈すること」と定義しています。(※4)
例えば、コロナ関連の動向においては、ある程度データがないと対策の打ちようがなく、コロナ罹患者を監視しておかなければ市民も困ってしまうというように、監視ーsurveillanceーという考え方自体は一つのソリューションと考えられています。
では、「監視」に対してどこか好意的に感じられないのはなぜでしょうか。
それは、監視行為の先には、「利益を被る人」と「不利益を被る人」の振り分けが存在しているからです。
社会学の観点では、この議論で著名な研究者にデイヴィッド・ライアン(※5)という方がいます。
彼の議論の中心は「監視というもの自体は、監視することによって完結する訳ではない」というものです。つまり、皆さんのデータを収集するだけでは意味がなく、収集したデータを分析し、解釈枠組みを作り、その後に社会的枠組みを作らなければならないということです。
例えば、基礎疾患がある人とない人を比べて感染症の発症率や重症化率が異なるとするならば、基礎疾患がある人は外に出てはいけないが、基礎疾患がない人は外に出ていいとした時に、基礎疾患がある人の基本的人権は振り分けの先にある「不利益」として被るという可能性が出てきてしまいます。
このように一度作り上げられた社会的な振り分けによって、利益者と不利益者が生まれ、それに従い社会システムが動いていくため、一時的に作られた社会的枠組みをデータによってアップデートするという動きはとても難しくなります。
そのため、監視社会論のアイデアである「監視というものはそのさきに社会的振り分けを伴うものであり、その振り分けは利益者と不利益者を生み出すものであるという流れをしっかり捉える」ということが私たちにとってとても重要になってきます。
これからに向けて
そもそもZENKIGENはアナログ無秩序な社会がいいかと言われると、完全に良しとはしておらず、デジタルを介入させることでもっとよくなると思っています。
一方で、手当たり次第にデータを預けて、ある一つの価値観に集約されながら強く監視されて、こうした方がいいと介入される世界がいいのかと言われると疑問視をします。(※6)
そこで、ZENKIGENはアナログ無秩序な社会とデジタル監視社会の間に創造しなければならない「価値」があると思っています。
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私たちが提供するソリューションは監視に近い要素がある中で、振り分けによって不利益や利益を被るとはどのようなことで、社会的な枠組みがどのようになるのか、またそれに対する適切な扱い方は何か。つまり、データを扱う上での「共通善」を考える必要があります。加えて、それをどう決めていくかということもデータガバナンスの観点から向き合い、考えていかなければならないのです。
不可逆なテクノロジーとデータの成長拡大において、日本ではステークホルダーが建設的な対話を行っていないという前提課題があります。これに対し、今起きている問題をもとに対話を行い、法体系やリテラシー教育などの基準を作っていく取り組みにZENKIGENがお役に立てないかと考えて、動き始めています。
いかがでしたでしょうか?
社会全体でデータ活用の取り組みが急速に進んでいる中で、
データガバナンスの重要性について改めて認識していただける内容になったのではないかと思います。
最後までお読みいただきありがとうございました!
(参考)
※1:Tableau,「データガバナンスとは?基礎知識や必要性、取り組み手順を解説」,(https://www.tableau.com/ja-jp/learn/articles/data-governance)
※2:Googleなどの推薦システム(recommender systems)に対する倫理的懸念について
Silvia Milano,Mariarosaria Taddeo&Luciano Floridi,“Recommender systems and their ethical challenges”,SpringerLink,27 February 2020,(https://link.springer.com/article/10.1007/s00146-020-00950-)
※3:データ主権について
Purdue University,“Glossary: Data Sovereignty”,(https://purdue.edu/critical-data-studies/collaborative-glossary/data-sovereignty.php)
※4:World Health Organization,“Surveillance”,(https://www.who.int/emergencies/surveillance)
※5:デイヴィッド・ライアン著書『監視スタディーズ』(2011)、『パンデミック監視社会』(2022)
※6:総務省,“第3節パーソナルデータ活用の今後:(1)情報銀行の取組”,令和2年情報通信白書,(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd133110.html)
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