【手塚治虫漫画全集】全巻紹介 第17弾!352巻~382巻編
手塚治虫全集をベースに手塚作品をガイド的に紹介してきましたが
今回はその紹介動画の第17弾!ついに最終回となりました。
これまでの全集紹介はyoutubeチャンネルに全編公開されておりますので
お時間のあるときにぜひご覧になってください。
noteでもまとめてご覧ください。
それではラスト紹介いきましょう!
「ミッドナイト」
1986年作
この『ミッドナイト』は、『ブラック・ジャック』と同じく
週刊少年チャンピオンで連載されました。
テーマはモグリのタクシードライバー
1話読みきりタイプの作品で、
行きずりの乗客とのエピソードを描くというスタイル
「夜はいろいろな顔を持っている。その顔をひとつひとつのぞいていく男がいる。その名はミッドナイト」
こういうキャッチコピーです。
タクシードライバーっていろんな人の人生の一瞬を見てるじゃないですか
そして時にお客さんの普段見せない素の素顔を見ているわけですよね
そんな設定を手塚治虫が描いて面白くないわけがない。
読みやすい1話完結形式なので初心者でも楽しめる入門編といった感じで
ブラックジャックのタクシードライバー版って感じです。
そしてあの
ブラックジャックが登場してくるんだからファンもたまりません
まぁなんといっても最終回でしょう。
超いわくつきの最終回です。
最終回はあまりにも衝撃的過ぎて単行本や全集版には収録されておりません
どのように衝撃なのかはここでは言わないでおきましょう。
ヒントはブラックジャックが登場します。
ブラックジャックと言えば…超難解な手術ですよね。
はい…ここまでです。
それぞれ発行されている単行本によって収録作が異なっているので
最終回が読みたい方はチェックしておくことをオススメします
手塚先生の死後に発売された秋田文庫版には収録されています。
アトム、トリトン、三つ目がとおる
まぁ手塚作品の最終回にはとんでもない展開が起こるというのは
ファンの中では当たり前のことなのでボク個人的にはよくまとまった方だと思いますけどね(笑)
だけど手塚先生自らが
掲載しない方向を選んだのには何か意図があったんでしょう
ともかく手塚作品にはいくつもの違うバージョンがあるので、
一通り読んだつもりでも他の出版社から出ているものには違う話が入っているのも手塚あるあるです。
このミッドナイトにも、あと未収録が11か12話あるんですが(14話)
これもそんなに驚きません。
こういうのも手塚作品って結構あって
未収録や最終回違いが複数あったり、とにかく手塚先生って書き直したり追加したりが大好きなので読者を混乱させるやんちゃ坊主なんですよ。
まったく1円にもならないのに、
どこにも発表することもないと分かっていても
書き直ししたこともあるくらい書き直しします。
でもそれが手塚治虫なんですよ。
「ロストワールド 私家版」
1942年頃
私家版(しかばん)とは主に自費出版で作成される書籍の形態のことです
これは1948年の『ロストワールド』の前身となるもので
後に『メトロポリス』『来るべき世界』と共に「初期SF三部作」と呼ばれる、手塚治虫初期の代表作です。
実にこのロストワールドは5回にわたり執筆したとされています。
もう何がなんだかわかんなくなってきますが
以前紹介した全集版は第4号版でこの私家版が第1号の作品となります。
自費出版までしたのかは定かではないですが
かなり粗削りで商業的に販売できるレベルではありません。
それもそのはず
これは手塚先生が中学二、三年の頃に書いたもので、
少年時代の手塚先生が冒頭に掲げた
「「これは漫畫に非ず 小説にも非ず」という一文をわざわざ謳っている所など意気込みはたいしたものだったようです」と後年語っています。
今となっては商業的というより
天才手塚治虫の変遷記録としての立ち位置が強いですね。
「ネオファウスト」
「グリンゴ」「ルードウィヒ・B」と共に描かれた
手塚先生最後の絶筆です。
驚くべきことは絶筆の3作品のテーマが全く違うということ。
これをどうやって同時進行して描いていたのか本当摩訶不思議です。
しかも亡くなる間際で病院のベッドの上で描かれていたものもあり
意識が朦朧とする中でも何度も何度もペンを握って
モルヒネを打ちながらも原稿に向かったとも言われています。
手塚先生が如何に変態で膨大な知識を持ち
描きたい欲求と創作意欲を死ぬ寸前まで持ち続けていたかがわかります。
当然ながらすべて未完に終わるのですがどの作品も非常にクオリティが高く
完結していたならば名作、傑作になったであろうと思わせるほど
魂の込められた作品群となっていますね
そして本作はゲーテの『ファウスト』を元にしたもので
実に生涯に渡り三回、マンガ化しています。
1950年 子ども向けとして初代『ファウスト』
1971年 戦国時代を舞台に侍的ファウストを描いた『百物語』
そして本作1987年当時の現代版『ネオ・ファウスト』
本当のゲーテの『ファウスト』というのは
この世のすべての知識を得ながら、真理を知ることができなかった老博士ファウストが、悪魔メフィストフェレスに魂を売る契約を交わし、もう一度若さを取り戻す。
というお話しです。
本作もそれをベースに
一ノ関教授という年老いた学者が宇宙の真理を知りたいと願って
悪魔メフィストに魂と引き換えに若さを手に入れる契約し
青年に生まれ変わった老教授が第2の人生を生きるストーリーです。
若さを手に入れて人生をやり直す、
もしくは新しい何かにチャレンジしたいと願う願望は
誰にでもあると思います。
ここに奇しくも手塚先生晩年の想いが明らかに憑依しているんです。
もっとも恐ろしいのが
作中で胃がんで亡くなるキャラがいるんですが
本人には「胃潰瘍」と説明されたままこのキャラは亡くなるんです。
当時はまだがんの告知を伏せていた時代背景がありましたから
あり得る話なんですけど
実はこれ
手塚先生の病状と全く同じだったんです。
手塚先生も「胃がん」で「胃潰瘍」と告げられ亡くなられました。
結局最後まで「胃がん」と知らされずに亡くなったのですが
自身も医者だったので恐らく気付いていたのかも知れません。
そしてあえてそれを作品の中に折り込んだのかも知れませんが
それは今となっては誰にも分かりません、
しかしこの偶然ともいえる奇妙な一致は何か意味があったんじゃないかなぁって考えてしまうのはボクだけではないはずです。
手塚先生はこのファウストに何を求めていたんでしょう。
若さを取り戻してやりたかった事とは?
「まだまだやり残したことはあるんだ」と口にする老教授のセリフと
手塚先生の秘めた想いがどうみたってリンクしちゃいますよね。
本作で描かれていただろうことは
それはきっと手塚先生の求めていたことと一致するはず
その一端が本作にも表れているはずなんですが
志半ばで本作は終わりを迎えます。
最後の方はペン入れされていないネーム段階の原稿が
あえて掲載されています。
徐々に徐々に白くなっていく原稿
最後は文字だけになっていき
その文字すらも読めなくなっていく…
まさにろうそくの火が消えかける寸前のような
儚さを感じ取ることができます。
まさに手塚治虫の生涯最後の作品
手塚治虫というとてつもないエネルギーが消えた瞬間を
白紙の原稿から感じることができるでしょう。
ボクはこれほどまでに白い原稿にメッセージを感じたことはありません。
ぜひマンガの神様と呼ばれた巨匠の最後の絶筆
ご覧になってください
「アドルフに告ぐ」
1983年作
これはもはやマンガじゃない芸術的な純文学作品です
極上のエンタメ作品です!!
スタートがもうたまりません。
峠草平は記者の仕事で、ドイツへオリンピックを見に行くことになります。
そこでドイツに住む弟から「重大な話があるから下宿に来てほしい。」と
言われていましたが
少し遅れて到着すると弟は何者かによって殺されていました。
警察に引き渡すと遺体が行方不明になり何か裏の黒幕のにおいを感じます。
真相を追いかけてみると
弟は国家を揺るがす「ヒットラーの出生の秘密」を
知っていたというストーリー
ここから話が史実に沿ってどんどんシリアスでミステリアスな展開になっていくんですがこの峠草平、実は主人公ではありません。
彼は本作の狂言回し(語り手)であって
主人公は3人のアドルフなんです。
舞台は第二次世界大戦中のドイツ
アドルフ・カウフマンとアドルフ・カミルという2人のドイツ人と
あのアドルフヒットラーの3人が軸となり
3人のアドルフが辿る数奇な運命を描く歴史大河作品なんです。
カウフマンとカミルの2人のアドルフは
子供時代を親友として過ごしながらもナチスドイツによって
絆が引き裂かれていきます。
これがまぁ見事なくらい引き裂かれます。
そして価値観がどんどん変化していきます。
正義が見方によって変わる怖さ
環境によって人格が変わる怖さ
これが見事なまでに描かれています。
心優しい少年だったのに
ナチスドイツの教育を受けて変貌して行く様は恐怖です
国家とは、日本人とは、人種とは
手塚先生はいろんな差別マンガを描いてきたけどこれが一番リアルかも知れないですね
それは一番イメージできるからとも言えますが
晩年の円熟した技法はまさに圧巻。ぐいぐい物語に引き込まれます。
そして戦時中の混乱って本当に恐ろしいと感じさせてくれます。
国家にはエゴイズムがあって、
それぞれに正義が存在しており
それぞれの正義のぶつかり合いが描かれているんですけど
段々、何が正義なのかわからなくなってくるんですよ。
ネタばれになりますが
友達の親父を殺すシーンは初めて見たときかなりの衝撃でした。
宗教、イデオロギー、ナショナリズム、民族や人種差別
人々が自分の置かれた環境の中で正義を振り回している。
あのヒットラーですら当時は絶対的なヒーローだったんです。
今振り返ると恐ろしい事ですけど
例えば今、感染症という驚異によって世界が混乱していますけど
仮にこの状況を救う絶対的な主導者が現れたらどうでしょう…
恐らくみんなその
救いの手に人は無造作に従ってしまうじゃないでしょうか
ヒトラーも最初はそんな感じだったと思うんです。
論理だけではない正義
正義なんて簡単に捻じ曲がっちゃうんですよ。
そういう人間の危うさ、暴走する理性がここにはリアルに描かれています。
そして社会の崩壊、友情の崩壊、人間関係の崩壊、理性の崩壊
誰のせいでもない運命に翻弄される3人のアドルフの物語
めちゃくちゃ面白いです。
手塚治虫の最高傑作のうちのひとつ
「アドルフに告ぐ」ぜひとも読んで欲しい一作です。
最後に語り部
峠草平の最後のセリフをご紹介します。
「正義ってものの正体を
すこしばかり考えてくれりゃいいと思いましてね・・・
つまんない望みですが」
くぅ~最高です
「とんから谷物語」
手塚治虫漫画全集の漫画の最終巻です。
1955年作
少女マンガの短編ばかりを集めた作品集
どの作品もキャラクターとタッチが非常に可愛くて
めちゃくちゃ丁寧に描き込まれています。
まさに滑るようなペンタッチ。マンガ家やイラストを志す方なら
ぜひ一読の価値ありですよ。
ストーリーなんかこの際見なくていいです(笑)
このタッチ、デザインを見るだけのために見て下さい。
1コマ1コマがデザイン性があり動きもあり驚異的な完成度です。
まぁ見たらわかります。
それなりに画やデッサンに精通している方なら見て度肝抜かれます。
それくらいのマンガですから。
そして「チンクと金のたまご」はリボンの騎士外伝の
チンクが主人公となっております
ここまでご覧くださり本当にありがとうございます。
以上、「好き」という衝動のみで
手塚作品400巻をガイド的に駆け足でご紹介してきました。
駆け足のわりに第17弾という長丁場になってしまいましたが
それでもまだまだ紹介できていない中にも沢山オススメ作あります。
これには本当に手塚治虫の作品量には驚かされます。
まずはボクがこれまで紹介した作品を参考にしていただければすんなり手塚治虫の世界に入っていけるのではと思いますのでこの【全集紹介】をご活用くださいませ。
ぜひ自分にあった作品を見つけてみてくださいね。
では!
次回まだちょっとだけオマケあります。
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