日本の西洋崇拝 哲学と芸術 よそ行きと普段着

 日本の近代文学は、何か滑稽なところがある。三島由紀夫は今ではイジられることが多いし、太宰も芥川もなんかダサい。三島由紀夫が一番ダサいと思うが、詩の勉強をしていて思うところがあった。

 明治維新と太平洋戦争の敗戦の2つにより、日本は西洋を崇拝することになった。詩歌の歴史の本を最近読んだのだけれど、日本はもともとそういう国民性らしい。平安時代は中国を崇拝していて、男は漢字しか使わなかった。紫式部が平仮名という低俗な文字を使って物語を書くが、よそ行きの「漢字」よりも普段着である「平仮名」の方が文学的価値が高かったようだ。
 三島由紀夫は右翼だけれど、かなり西洋崇拝をしている。自宅にアポロンの像を置いてあったらしいし、彼の小説を読むとニーチェやバタイユあたりの思想を吸収していることが読み取れる。そこに無理がある。「近代文学」というものは「神」や「理性」というヨーロッパを支配していた原理に「自我」や「悪」や「性」を対置することで誕生するが、日本にはそもそも神や理性の支配が存在しない。ボードレール、ランボー、ロートレアモン、ブルトン、ニーチェ、バタイユ、ドストエフスキー、サドなど挙げたらキリがないが「涜神」の哲学、文学という流れがある。無神と涜神は全く違う。冒涜するということは、支配から自己を切り離す反逆の力が強く存在する。それが哲学や芸術にエネルギーを与えていたのだが、ガワだけ日本に持ってきてしまったので、「私小説」しかなくなってしまう。自分語りしかなくなる。「だから何?」みたいな小説しかなくなる。
 日本近代文学の黎明期に活躍した夏目漱石などは、英国に留学し「日本文学とは何ぞや」ということを絶えず念頭に置いて小説を書いていたので、封建制の中での個人の恋愛のような「反逆」の小説を書いていたのだと思う。だからダサくない。弟子の芥川は古典の再解釈をしたりしているし、そういう問題意識はあったと思うが、いつしかそれも消え去って「小説」というものが存在することが当たり前になり、問うことをやめた結果「自分語り」しかなくなったのだと思う。

 日本の近代詩を読み漁ったが、優れているのは宮沢賢治と田村隆一であると感じた。田村隆一は、西洋崇拝だ。硬くて概念的な詩が多く、一番「近代」であると感じた。平安時代に「漢詩」を作っていた男と同じようなものだ。「西洋」はカッコいいし、極めるとそれなりのものができるのだが、「無理をしている」感じがある。「暗殺」だとか「射殺」だとか出てくるが、一歩間違えれば「痛い」し「中二病」だ。よそ行きの詩が一番上手い人だ。
 宮沢賢治は、「春と修羅」を「詩集」と呼ぶことを躊躇していたという。自身では「心象スケッチ」と呼んでいる。草野心平に同人誌に誘われても、断っている。自分のものは(西洋の近代的な)「詩」ではないと感じていたんじゃないだろうか。歌も詠んでいるが、歌には抵抗がなかったようだ。宮沢賢治は極めて日本的で「自然」「仏教(法華経)」「情緒」「無私の精神」など、日本の原風景という感じがする。田村隆一などの「よそ行き」とは全く違う「普段着」という感じがする。

 西洋崇拝はまだまだ根強いが本物の哲学者は、仏教に接近していることが多い。西田幾多郎は当然だが、池田晶子、永井均、古東哲明、清水高志などは仏教にかなり接近している。ドゥルーズがどうだスピノザがどうだの言っている哲学者で、まともに考えている人を見たことがない。よそ行きの哲学をしている。哲学というジャンルが日本に根付くには「哲学とはなんぞや?」「日本でどうやって哲学をするか?」ということを絶えず考え続けなければいけないと思う。「世界レベル」と言われる日本の哲学者は西田幾多郎唯一人だが、西田幾多郎は坐禅で見性している。そういえば夏目漱石も参禅しているし、常に荘子を持ち歩いていたらしい。

 「よそ行き」で哲学や芸術をしても、滑稽な猿真似になってしまうと思う。現代日本の詩は全然よくないが、最果タヒと大森靖子はまだ見てられると思う。それは紫式部が「低俗な言葉」で「もののあはれ」の「恋愛」を描いたように、彼女らも「低俗な言葉」で「エモい」「恋愛」を描いているからだと思う。ただずば抜けたレベルにあるとは思わないので、僕は方向性の一つの可能性ぐらいの位置づけをしている。

 「西洋で成立したジャンル」ということは忘れてはならないと思う。俳句や短歌などは日本で成立したものだけれど、輸入品をそのまま使うとひどい目にあう。キリスト教という輸入品をどうやって日本に根付かせるかというのが内村鑑三や遠藤周作の問題意識だったが、キリスト教と「哲学」「文学」「芸術」は切っても切り離せない関係にあるので、これらの文芸をやる人は、「海外の宗教をどうやったら自然な形で表現できるか」ということを考えねばならないと思う。少なくとも僕は詩を勉強して詩作をしてそう感じた。

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げんにび
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