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【第25回東京フィルメックス】リン・ジェンジエ監督『家族の略歴』侵食されていくある家族



<作品情報>

高校の校庭での懸垂中に、内向的なシュオは、同級生のウェイが投げたバスケットボールが当たって落下し、足を負傷する。罪悪感を感じたウェイは、シュオに自宅でテレビゲームをしようと誘う。ウェイの両親と夕食を共にする中、シュオは母親が亡くなったことを明かし、アルコール中毒の父親から受けた虐待をほのめかす。しかしこれはウェイの両親の共感を得るための、シュオにとって最初の巧妙なステップだった。徐々にシュオはウェイの裕福なアパートで過ごす時間を増やし、確実に彼の両親の信頼を勝ち取っていく……。本作が長編デビュー作となるリン・ジャンジェは、見事な語り口の正確さで、目立たない侵入者が潜り込んだ中流階級家庭内における、変化する力学を分析している。完璧な彫刻作品のように、フレーム内のあらゆる要素を徹底的なコントロール下に置きつつ、巧妙で不可解な曖昧さを保ち、スリラー作品のような緊張感を持続させる手腕は見事としか言いようがない。サンダンス映画祭で初上映され、その後にベルリン映画祭でも上映された。

https://filmex.jp/program/fc/fc9.html

<作品評価>

80点(100点満点)
オススメ度 ★★★★☆

<短評>

おいしい水
これは面白かった!闖入者ものの新たな秀作と言っていいでしょう。決まった構図の画面を意識しすぎな部分はありますが、映像にこだわりを感じるなかなかの良作です。
円というモチーフが随所に散りばめられています。その意味とは何だろう。始まりも終わりもない円、完璧に見える家族を象徴するモチーフでしょうか。比較的裕福な中流家庭に侵食するシュオ、家族の和に割り込もうとする存在がその円を壊していきます。
闖入者ものというジャンルは昔からありますが、中国を舞台にするとこうなるか、という発見があります。
家族それぞれの思惑と願いが丁寧に描かれていきます。そのストーリーテリングが素晴らしいです。飽きるひまなくシュオが侵食していく様子を描いていきます。そのテンポ感もいいですね。
ウェイとシュオの関係も秀逸です。シュオはウェイになりたかったのかな。『リプリー(太陽がいっぱい)』のような危うさを感じる関係性が面白いです。憎悪と愛情は紙一重。
最後にウェイが見つめるものは何でしょうか。余韻を残す終わり方も秀逸です。あまり期待していなかったが今のところ『黙視録』と本作がトップです。非常に示唆に富み面白い作品でした。

<私たちについて>

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