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「問いかけ」「問いほぐし」の力で相手の可能性を引き出すリーダーシップ
「留岡さんには、もう何も話したくないです。」
今から25年ほど前、ソニーに勤めていたとき課長になりたてだった私が部下から直接言われた言葉です。
当時は部門の業績が低迷し、職場全体がピリピリしていました。部長は感情を露わにするタイプだった影響もあり、私も部下に対し
「これは何?」「なぜこうなった?」
と詰めるような質問を繰り返していたことが原因で、部下の心が離れていたのです。もし今の私が当時の自分にアドバイスをするなら、きっとこう言うでしょう。
「『問いかけ』の力を身につければ、きっと関係を立て直せるはずだ」
【はじめに】
自己紹介が遅くなりました。私の職業は人事コンサルタントです。独立してから17年、主に企業の人事部や社員の方に対してコンサルを行ってきました。
業務の基本要素として、会社や社員の成長の妨げとなっているものを適切な「問い」によって「炙り出し」たり「整理」したり、あるべき方向へ導く手助けをする事があります。
さまざまなケースを見てきて思うのは、多くのビジネスマンが職場でのコミュニケーションに悩みを抱えており、共通して
『問いかけ』の本質を理解し応用することができれば、うまくいくことが多い
ということ。
このnoteは「問いかけ」の技術に関する私の経験や考えをまとめたものですが、部下との面談や関係構築、上司や同僚とのコミュニケーションに悩んでいる方にとって少しでもお役に立てたら嬉しいです。
1. 「問い」と「質問」は何が違うのか
まず、「問い」と「質問」の違いを理解することが重要です。
狭義の「質問」とは、自分が知らない情報を知るための手段です。I want to know. (私が知りたい)という欲求から始まります。
例:「今朝何を食べましたか?」「先月の売上と人件費を教えてください」
これらは、質問を通じて相手から具体的な情報を得ることが目的です。
一方、「問い」はその目的が異なります。
「問い」は、相手を主語とし、相手の内面や未知の可能性に光を当て、新たな視点を提供したり、深い信念を引き出したりする手段です。
例:「もし仮にあなたが私の立場なら、どのような行動を取りますか?」
これは相手の中にある考えや信念を掘り起こし、新しい気づきを促すためのものです。
[実例] 部下の主体性を引き出す問いかけ
チームの業績向上を目指していた、あるマネジャーの話です。部下に対して「どうしたら目標を達成できるか」を直接的に聞くことをやめ、
「あなたがリーダーだったら、どのようにこの状況を改善しますか?」
と問いかけるようにしました。
この問いは、単なる課題解決の方法を聞くだけでなく、部下に「リーダーシップの視点」を与え、自ら考え行動する主体性を引き出す結果につながりました。これをキッカケとして、部下は単なる指示待ちではなく、自発的にアイデアを提案し実行する姿勢を示すようになったのです。
2. 2つの事例~ソニーで学んだこと
◇事例1 : 上司からの深く温かい問いかけ
新卒入社の初年度、上司から投げかけられた問いがありました。
「いろいろあるけど、それでトメさんは何をやりたいのかな?」
当時、環境に適応することや業務をこなすことに必死で、自分の考えを深く掘り下げる余裕はありませんでした。この問いかけは、私の頭を揺さぶり、立ち止まって自分自身の意図や目的を考える機会を与えてくれたのです。
◇事例2 : 部下との対話の失敗
先ほど冒頭で紹介した、部下との一件です。
課長になりたてのころ、部門の業績が低迷し、職場全体がピリピリしていました。特に部長は感情を露わにするタイプで、その影響もあり、自分も部下に対し「これは何?」「なぜこうなった?」と詰めるような質問を繰り返していました。
そんなとき、ある部下から直接言われました。
「留岡さんには、もう何も話したくないです。」
その夜、眠れませんでした。
私の「質問」は、自分の知りたいことを得るためだけの行為でしかなく、相手は「詰問」や「尋問」によって責められているように感じていたのです。
このとき私がすべきだったのは、「問いほぐし(※後ほど詳細を説明します)」で相手の思考を整理し、「問いかけ」で未知の可能性に目を向けてもらうことでした。たとえば、次のような問いかけができていれば違ったかもしれません。
「状況を良くするために、何か一つ取り除くとしたら、それは何でしょうか?」
「そのこだわりの背景を教えてもらえますか?」
[実例] 固定観念を打破する問いかけ
ある企業では、新規プロジェクトが停滞していました。その際、リーダーが
「これまでのやり方を踏襲している理由は何ですか?それは「こだわり」ですか?「とらわれ」ですか?」
と問いかけたことで、メンバーが無意識に固定観念に縛られていたことに気づきました。この問いかけがきっかけとなり、過去のやり方を見直し、より柔軟で革新的なアプローチを検討する流れが生まれたのです。その結果、プロジェクトはスムーズに進行し、顧客からも高い評価を得られました。
3. 「問いかけ」とは何か?その具体事例は?
繰り返しますが、「問いかけ」は、相手の未知に光を当て、新たな視点を獲得し、信念を深掘りするための手段です。
現状に一生懸命向き合えば向き合うほど、人は見慣れた風景やコンフォートゾーンから抜け出せなくなるものです。「問いかけ」は、未知の可能性と向き合うための起爆剤の役割を果たします。
たとえば、次のような問いかけを考えてみましょう。
「今の状態を100点満点で表すと、何点になりますか?」
「もし仮に5年後の自分が、今の自分を見たら何を思うでしょうか?」
このような問いかけを活用することで、相手の内面的な気づきを促すことができます。
[ 問いの活用法4タイプ ]
「問い(かけ)」を実践する際の手法は、主に4つのタイプで分けられます。具体例とともに見ていきましょう。
① 言い換え・例え
「そのことを100点満点で表すと何点になりますか?」
「病気に例えると、今の組織は軽い風邪ですか?それとも重い病ですか?」
② 仮定法
「もし仮に五年後の自分が今を見たら、どのように感じますか?」
「もし予算制約がなかったら、どんなチャレンジをしてみたいですか?」
③ アーキタイプ(ルーツ)を探る
「その考えは、どのような体験から生まれたのでしょうか?また、それはいつ頃でしょうか?」
④ 価値観の深掘り
「本当の意味での『正しい○○』とは何でしょうか?」
[実例] チームの価値観を再確認する問い
ある部門で士気が低下していたとき、リーダーがキーメンバーに
「私たちが大切にしていることは何でしょうか?」
とシンプルに問いかけました。この問いは、目先の業務ではなく、チームの根本的な価値観や目標を再確認させるきっかけとなりました。そこでの気づきを元にメンバー同士の議論が行われチームの一体感が生まれ、モチベーションの向上に繋がったのです。
4. 「問いかけ」に先立つ「問いほぐし」
しかし、普段自分とじっくり向き合う時間を取れない人にとって、いきなり自分と向き合うための「問い(かけ)」を投げられてもなかなか答えまで辿りつかない、ということも多々あると思います。
そんな時には「問いほぐし」という作業をあわせて行うことで、相手が問いに向き合う力を助けてあげることができると思います。
「問いほぐし」は、相手の警戒心や疑念を解き、内面を開くためのプロセスです。また、相手の既存の考えを整理するサポート役でもあります。
たとえば、相手が決断に至るまでの思考がなかなか追いつかない、まとまらない時、「問い」と「問いほぐし」のダブルアプローチが有効です。
「そうですね。言い換えると◯◯◯ということになりますか?」
「私にも似た経験があり、◯◯◯といった事がありました。その場合と自分との違いをどう感じますか?」
ここでポイントなのは、相手の答えに「共感」を示したり、「言い換え/整理」や内容に応じて「自己開示」をすること。
問いほぐしは、共感や自己開示を通じて信頼を深める過程でもあります。このプロセスがスムーズに進むことで、相手は安心して未知の領域に足を踏み出せるようになります。
5. 「問いかけ」の留意点
問いかけには相手の感情を揺さぶる側面があるため、忙しい相手や、まだ信頼関係が構築されていない相手である場合は、慎重に行う必要があります。特に上司部下のように指示命令権が存在する場合は厄介です。
また、自分自身の感情コントロールも重要です。相手が感情的になっている(なりそうだ)と察知した場合に、冷静さを保つことで対話が建設的に進むからです。
次回のnoteではそれら「問いかけ」の留意点について、松下信武さんとの対談形式で説明をしてみます。