ヘルプ商店街(毎週ショートショートnote参加)
終電を逃したので踊りながら歩いている。
バレリーナのように優雅に手を伸ばし、縁石をひらりひらりと飛び超えながら。
アンドゥトロワ
深夜の商店街は、街灯がやけに明るい。
薬局のゾウさんを爪先立ちでくるりと一周。
アンドゥトロワ
八百屋の前でアラベスクを決めた瞬間、道の先のマンホールがパカリと開き、穴からナニかが吹き出してきた。
冷たくなったハムスター
食べてもらえなかったチキンカレー
目のとれたぬいぐるの熊
赤いペンで書いた手紙
引き摺りだした胎盤
渦を巻きながら空へ昇っていき、ピタと止まったかと思うと、黒い泥の雨になって降ってきた。
助けを呼ぼうにも誰もいない。
私は一人、商店街の真ん中で温くて生臭い泥の雨を浴びた。
ああこれは、私が捨てたモノたちだ。
服から泥が滴り、髪はぐっしょり濡れた。舐めると懐かしい味がした。
ほどなく雨は止み、空には慎ましく光る星が見える。
アンドゥトロワ
アンドゥトロワ
もう踊るのはやめ、三拍子を指揮しながら帰った。
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