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【人に学ぶ】「経営者脳」と「現場脳」を自在に行き来する楽天グループのスーパーコミュニケーター Part 1

世界100か国以上の人が働く楽天グループで社内広報を担当し、動画ニュースの制作を手掛ける小泉和美さん。「楽天らしさ」を大切にしたコンテンツ作りを追求し、朝会やチャットメディアを活用することで、社員たちの“同じ仲間である意識”や“拍手を送る機会”を日々創出しています。その情熱とリーダーシップは、社員にはもとより、インターナル・コミュニケーション業界にも好影響を与えていることは間違いありません。

小泉さん(下段中央)とざわざわのメンバー

小泉和美(こいずみ  かずみ)さん(写真下段中央)
2000年楽天グループ入社、対外広報を担当。2005年から社内広報の担当に異動。同年、紙社内報「楽がき」を毎月発行。2009年に紙からウェブのデイリーニュースに変更し、2015年からは動画のデイリーニュース「RNN (Rakuten News Network)」を配信。近年は社内動画ニュースを社外にも配信中。2006年アーカイブ委員会を立上げ、歴史保存のほか10年史、20年史の冊子発行や25周年プロジェクトにも参画。歴史アセットの利用促進にも従事し、楽天グループでの動画ニュース「RNN」の二次利用本数は年間300本を超える。



問題意識を持ったメンバーがとらえた当社らしい動画づくりを
<社内広報の組織や体制>

——小泉さんは楽天グループの動画ニュース制作に携わっておられますが、どのような組織で行われているのですか。

小泉:
私が所属する社内広報課は楽天グループ株式会社の広報部の組織内にあって、主に動画デイリーニュースの制作をしています。このデイリーニュースは社員と業務委託のスタッフが協力して制作しています。楽天グループには70超の事業がありますが、主要なコマース系、Fintech系、モバイル系や、テック系、グループを横断する人事といったバックオフィス系などを分類して、日本とグローバルの合計3チームが分担しています。

——どのような流れで動画が制作されるのでしょう。

小泉:
担当の社員が定期的に各事業にヒアリングを行い、良いと思った企画をまずは提案します。その中からホットなトピックスや課題となっているテーマを中心に優先順位を決めます。担当の社員を私たちはプロデューサーと呼んでいるのですが、このプロデューサーが各事業へのヒアリングに基づいて、企画書である絵コンテとシナリオなどを織り込んだ1枚の構成表を作ります。その後、検討を加え動画の構成が大体決まると、撮影日程の調整を行います。実際の制作は、私たち社員と同じフロアー、テーブルの隣に座っている業務委託の専門スタッフが一緒に現場に行って撮影を行い、そして編集の段取りとなります。撮影から編集まで実際の動画制作は、専門のプロの業務委託さんが行う流れになっていますし、動画アニメーションやページ編集といった編成担当の社員もいてくれるので、制作環境は非常に恵まれていると思います。その点からも会社に恩返ししなければと思いながら、動画ニュースの命題であるコミュニケーションの活性化、情報伝達のスピード化の実現に、社員と専門スタッフのタッグで日々制作を行っています。

——70超の事業から情報を入手するのも大変ですね。

小泉:
確かに社員の負担も大きいです。紙やWeb社内報時代は、情報を各事業から提供してもらう特派員制をとった時期もあったのですが、今は変更しました。現在は、プロデューサーが各事業の担当者とオンラインで繋ぎ、その事業の最新情報や課題などのヒアリングを定期的に行っています。グローバルなニュースも同様です。

—— 一般のテレビ局では、当該地域の外注先に現場の映像を撮るよう依頼している場合が多いですが、御社の場合は本社で企画から撮影、編集されているのはすごいですね。

小泉:
これは当社社内報である動画ニュースの特徴だと思います。問題意識を持ち、事業の人たちの目線でシナリオを作った担当社員が現地に行き、カメラマンに「ここを撮ってください」「これも押さえてください」と言うことで、社員の意識の入った当社らしい動画になるのではないでしょうか。

もちろん、最近はスマホ撮影の映像も十分に使える品質なので、現地社員に撮影を依頼することも多くなりました。そして色々な動画ソフトも出てきましたので、私たちも自分たちでも作れるようYouTuberが使っているようなソフトを買って、今学習中です。満足できるにはもう少し時間がかかりますが、15秒とか20秒のショート動画をフレキシブルに制作して、いわゆる「デイリーニュース+」のようなものを配信しています。

——御社では「朝会」と呼ばれる全社集会がとても大きな役割を果たしているとのこと。ICの視点からどのような意味を持つものか、詳しくお聞かせいただけますか?

毎週月曜の「朝会」で全社員が最新の情報を共有。社内広報の重要な役割も担う場に

小泉:
まず「朝会」がどんなものかをご説明しますと、欧米/アジア/日本の3つのリージョンに分かれて毎週、全社員を対象に行われている集会で、日本を例に取ると、毎週月曜の朝8時から9時までの1時間、朝会会場にリアルに集まり、皆でいろんなコンテンツを一緒に見聞きする。全員が一堂に会するのはさすがに無理なので「今月は〇階と〇階の人」といった具合にローテーションを組み、それ以外はオフィスのプロジェクター視聴やオンラインで参加します。

中身は、社長である三木谷さんのスピーチ、各事業の進捗状況、成功事例の横展開などですが、楽天グループがいま注力している事柄に対して、どれだけやり遂げていて、何に課題があり、それをどう克服したか、といったことがどんどん共有されていく。また、ちょっとユニークなところでは「ファイヤーサイドチャット」と呼ばれるプログラムもあって、これは、三木谷さんと二人の社員が登壇してライブでQ&Aディスカッションを展開する――こんな形で成功事例や国内外の会社のトピックスを、毎週全社員に共有することが出来るのが「朝会」であり、これは三木谷さんが創業した二人だけの時代からずっと続いている、楽天の文化そのものだと言えます。

そんなわけで社員はこの「朝会」を通じて、社長がいまどんなことを考え、どのような視座に立ち、世界からどういう情報を吸収し、何を感じ、どう判断しているか、といったことをほぼリアルタイムで識ることができるわけですが、私自身にとっても、この「朝会」は社内広報を展開するにあたっての判断材料の主軸となっています。

朝会では、動画を流せる機会も月に2-3回ほどあるのですが、それは、自分たちがつくった動画に皆がどのような反応を示すかをこの目で直接リアルタイムに知ることができる、とても貴重な場でもあります。私たちはこれを、自分たちの理解とそれに基づく情報発信が適正に行われているか否かを判断する場とも捉え、朝会を起点に受信と発信とを繰り返すPDCAを回しながら、より良いコンテンツづくりに努めています。

「朝会」はこのように、楽天の中心にあって、楽天のいろんな柱をつくっている存在。私のチームが動画ニュースにほぼ専念できるのもまさに「朝会」があればこそ、と感じています。

多様性の中の普遍性。効果的な社内コミュニケーション
<社内報の位置づけ>

——多国籍の方が働いているイメージがあるのですが、社内報のチームもさまざまな国の方がいらっしゃるのでしょうか?

楽天グループ最大のイベント「Rakuten Optimism 2024」の撮影終了後にチームで記念撮影
(小泉さんは後列右)

小泉:
様々な国籍のメンバーが集まっています。日本人のプロデューサーの他に、アメリカ、オーストラリア、イギリスなど。現在は広報部の隣の課に異動しましたが、アジアにルーツを持つメンバーが在籍していたこともあります。

——まさにグローバルですね!様々な視点をもって編集されているのでしょう。文化的な違いを意識した情報の出し方やテーマの選定など、留意していることはありますか?

小泉:
正直に言うと、国籍によってトピックを変えることはあまりありません。アンケートを採ってみると、社内広報の動画を視聴する理由は、海外も日本もほとんど同じなのです。
トップ4を挙げてみると、
 1. 楽天のストラテジーを知りたい
 2. グループの他事業や新しい事業を知りたい、ほかの社員の活動を知りたい
 3. 社会に対する貢献がどういったものかを知りたい
 4. 代表や役員のことを知りたい
となって、日本も海外も差がないですね。

——知りたいことは共通しているのですね。

小泉:
はい。ただ、偏りとして面白いのが、欧米の社員は「楽天グループがいかに社会に貢献しているか」の注目度が非常に高いのです。それからD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)も。ですから、結果的にそういった企画が多くなっていますね。企業としての活動も多いですし。

——社会貢献やD&Iへの興味が高い傾向は、年齢に限らずですか?

小泉:
限らずですね。そこは、トレンドというか世界的に関心度が高いと感じています。

——とても興味深いお話です。社会貢献やダイバーシティが世界共通の関心事だなんて、素敵なことですね。
では、制作面で気を付けていることはありますか?

小泉:
日本と海外といったエリアや文化の違いと、事業の多様化によって商習慣や“業界常識”の認識レベルが異なる人たちに向けて動画ニュースを作っているので、誰が見てもわかるように気を付けています。
略語や専門用語が多数あったり、特定企業の引用を企業名だけで表現するなど、その土地・その事業の当事者でないと分からない話がどんどん進むと、疎外感や関心度の低下を招いてしまうと思うのです。だからできるだけ、だれもが理解できる言葉に直したり、登場する企業名が何の分野で有名な会社かを説明したり、課題や背景を説明したり。日本語のウェブページを表示する際も社内公用語である英語で必ずサポートしようと心がけています。

——そうした細やかな配慮の積み重ねによって、多様な背景を持つ社員全員で情報を共有し、一体感の醸成が実現できているのですね。グローバル企業における効果的な社内コミュニケーションのヒントをたくさんいただきました。

目指すところ、価値観を共有する仲間意識を
<組織における一体感の醸成>

——例えば、社内報の発行目的として“一体感の醸成”という言葉が使われるシーンを見かけることがありますが、テンプレ的に使われているシーンが多いような気がしています。
しっかりした背景があれば「なるほど」と思うのですが、表面だけなぞっているような、ある種の危うさすら感じることがあります。極端な言い方をしてしまえばファシズムを内包しているような危うさ、といった感じでしょうか。
小泉さんの日常業務において、ICに携わっているわけですが、ご自身では“一体感の醸成”というのはどのようにお考えでしょうか?

モバイル事業の社員紹介キャンペーン。社内広報も全員でご案内
(小泉さんは中央)

小泉:
すごく深いご質問ですね。私たちも“一体感の醸成”という言葉を使っているのですが、それって何だろうと考えながらうかがいました。
先にお伝えした70超の事業があるということに加えて、100カ国以上の人たちが同じ場所で働いています。当然、仕事のプロセスが違いますし、担当事業の業界バックグラウンドや共通言語が異なりますので、特定事業の“業界常識”は他の人からすると常識として認知されていない、という集団です。

でも、その人たちに対して大きくは二つありまして、一つは“皆同じ仲間なんだ”という感覚を持たせてあげたい、ということです。

社会をエンパワーメントしたいっていうことをそれぞれ別のやり方で実現している人たちだけど、「やっぱり目指してるところは同じだね」っていう価値観や「やっぱり同じ仲間だね」みたいな気持ちや共感度をいかに高められるか。それが一つの「一体感」を感じてもらえるニュースづくり、ということになるのかな、と思います。

仲間として、このエリアにいる人もあのエリアにいる人も、こんな頑張り方をしてこんな克服の仕方をしながら、既成概念を少しぶち壊して新しい時代を作っているね、ということをしっかりと共感が得られるように、共感を作り出すようなニュースを作りたいと思っているのが一つです。

——うかがっていて、特に国内展開だけじゃなくてグローバル、もちろんメンバーも多国籍である組織の中で今の話かなり腑に落ちるところがあって、なんとなくぼんやり考えていたのは、一体感の醸成を目的にするのはやっぱり危うくて、そうではなく、自然と一体感が生まれるような組織カルチャーの醸成こそが一番大事なのではないかなと思っていたんです。

小泉:
もう一つは、とてもシンプルなことなんですけれども、拍手できる機会を作るということでしょうか。「すごいじゃん!」「あなたのこと誇りに思うよ!」っていう感じで。

つい最近、パラリンピックに日本代表として当社から出場してくれる選手たちがいました。スポーツ新聞や一般的なニュースであれば、競技のルールや彼らがどれだけすごいアスリートなのかを説明すると思いますが、私たちはそのアスリートたちが日頃どのオフィスで、どのような仕事に携わり、どのような成果や影響を与えているかを伝えます。まさに同僚・仲間に対して、みんなで頑張れっていう拍手を送る機会にしたいと考えて、朝会の中で動画ニュースを放送して選手たちを送り出しました。

また、楽天モバイルでの社員紹介キャンペーンなどの例もあります。楽天モバイルに所属していない社員たちも含めて、一人でも多くの方々にこのサービスを届けたいと頑張っている人が大勢います。ノルマとかではなく、契約いただくメリットや価値を社外の方々にきちんと説明したり、どのような環境下にある方々でもデータ量を気にせずに安くスマホを使える社会を作りたい、という大義を多くの方々へ共有している人に「すごいじゃん!」「いいね」って伝えたい。朝会でこのニュースを放送した際は、拍手の音もひときわ大きいものでした。そういう拍手を送る機会を社内広報は作れるなと思っていて、拍手を送った数だけ一体感が生まれると考えています。

——みんなが拍手ができるっていうのはやはり組織カルチャーだと思いました。とても納得度が高まるお話ですね。

次回、Part 2 では、新たなチャットメディアへの挑戦や経営層とのコミュニケーションについてもさらにお聞きしていきます。(・・・つづく)

まとめ:古川由美とざわ〜ズ


この記事について

“ざわざわ”は、ツールの使い方や社内コミュニケーションの最適解を教え合う場ではありません。道具が多少足りなくても、できることはないか?姿勢や考え方のようなものを「実務」と「経営」の両面から語り合い、共有する場です。

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