オカン、Boucheronで指輪を買う。
「あんた帰ってきたら、一緒に指輪見てほしいと思っててん」
「指輪?」
実家に帰ってきたばかりの僕に、母親が話をぶっこんできた。
うちのオカンは、なかなかのファッションモンスターである。
僕も服にはそこそこ金をかけるタイプだが、それは母親の影響が強い。
「どこの指輪なん?」
そう僕が聞くと、母親はしれっと答えた。
「ブシュロン。ブルガリと迷ってんけど」
は~。また高そうなところで。
どちらで買うにしても、二桁万円は確実だ。
「それはまあ。なんでそんな高い買い物をしようと思ったん?」
「あんた、知らんの?来年の元旦は”テンシャビ”やで」
「…転写美?」
何も理解できてない僕を見て、母親はため息をついた。
「”天赦日”!2024年の1月1日は”天赦日”と”一粒万倍日”が重なる最高の運気の日やねんで」
へー。
僕は運気とかにはまったく興味がないので、全然知らなった。
「そういう日に高い指輪使い始めるの、ええやん?」
うーん。最後のはよく分からなかったけど。
ブシュロンに行くのは人生経験になりそうだから、付き合うことにした。
ブルガリでもブシュロンでも、おかんの目当てのものは決まっていた。
どうやら地金の指輪が欲しいらしい。
高え。それが僕の率直な感想だった。
23万円って…僕の初任給より高いぞ。
そもそも、オカンはもうパートタイムでしか働いてないのだ。貯えは大丈夫なのか?
そう聞くと、オカンはこう答えた。
「そんな心配するぐらいなら、あんたがしっかり稼いでお金送ってきな」
すみません。本当に。
この時点で、僕は何も反論しないことに決めた。
ブルガリの指輪は20万少々でブシュロンより少し安かったが、僕はブシュロンを勧めた。
ブシュロンの方がデザインが繊細で、付けやすそうだった。
値段のせいで散々文句ばっかり書いたが、価格以上の高級感を感じるアクセサリーだ。
カットが多く、石がついてないのにしっかりと輝きを感じる。
単品付けはもちろん、他のリングと重ね付けもしやすそうだ。
正直、ブルガリとの3万差など知れたものだと思った。
3万と6万のものを悩んでいれば倍だと思うが、20万と23万ならもうどっちでも良いだろう。
こうして、オカンは初ブシュロンを購入した。
やけにケースが豪華である。
ちなみに、このケースは間も無くSDGsを意識してアルミ製のものに変わるそうで。現行のものが欲しいなら、今のうちに買った方が良いらしいです。
あと、僕はジュエリーに疎いので全然知らなかったんですけどブシュロンのリングは重ね付けしやすいデザインらしいですね。
買い足して組み合わせるのが容易なので、沼にハマる人が多いらしい。悪どい商売だ。
買い物が終わると、母親は晴れやかな顔をしていた。
「久々に高い買い物ができたわ。
あんたのおかげやな」
「まあ、俺はついて行っただけやけどな」
「いや、やっぱり付き添ってもらわんと大きい買い物はできんわ」
そうだよな。
おかんも、2024年で64歳になる。
やはり、高額の買い物するのは心細いだろう。
一緒にいることで高い買い物ができたなら、僕が帰省してきた今もあったというものだ。
そんな風に僕が感慨に耽っていると。
「いやー、来月のカード請求怖いわ。
先週ボッテガでiPhoneケース買ってるから」
オイ。
久々の高い買い物じゃないんかい。