なんとも言えない不気味さが心地よい。映画「この子は邪悪」感想
いやー、中々良かったですこれ。
全編に漂う不気味さが、何とも良い。
STORY:
かつて一家で交通事故に遭った少女・窪花。
その事故により、足に障害を残した父・司郎と、顔に火傷を負った妹・月と共に暮らしていた。そして、母の繭子は、五年間植物状態となっていた。
そんな花のもとに、自分の母親の奇病の原因を探る少年・四井純が訪れる。
やがて心を通わせていく二人であったが、そんなある日、司朗が、五年ぶりに目を覚ました繭子を連れて帰ってきた。
五年ぶりの一家団欒を楽しむ窪家であったが、花は「本当に母親なのか」と違和感を覚える。
そんな時、街では謎の奇病が広がっていた。
古き良き”イヤな感じ”が漂う映画
邦画のホラーで一番大事なことって、『言葉にできないけど何かイヤな感じ』がすることだと思うんですよ。
この作品は、そんな雰囲気を色濃く漂わせています。
まず、オープニングのシークエンス。
“奇病”を患った人々の描写が絶妙に気持ち悪くて良い。
なんかもう人物の動きとかカット割りとか、すごいイヤな感じなんですよ。
物語全体も、終盤まで何が起きてもおかしくないような緊張感を持続していて。
時々入る幻想的な演出や時間軸の巻き戻し等、見せ方がうまかったですね。
まあまず、仮面付けてる女の子がビジュアル的に怖いですよね。
ピンポイントに絞った恐怖描写が良い
この映画は、本当にビビらせてくるシーンって二つしかなくて。しかも、演出はほとんど同じなんですよ。
若干のネタバレですが、とある人物の目玉がグルグル回ってるんですが。これ、文字に書き起こすとアホらしいな。
でも、二箇所ともちゃんと怖いんです。
これが素晴らしい。
邦画ホラーの名作といえば「リング」(1998)ですが、あれも本当に怖いシーンって2箇所ぐらいしかないんですよ。
SEと共に女子高生の死体が出てくる序盤のシーンと、有名なテレビから貞子が這い出るところ。
つまり、ホラー映画を作るのに必要なのは恐怖シーンの多さじゃないわけです。
「この子は邪悪」も、恐怖シーンの散りばめ方がうまかったです。
粗はあるが、それを感じさせない伏線回収劇
ぶっちゃけ、ストーリーに穴がないわけではありません。
登場人物の行動に納得いかない部分や、雑な設定が目立つ部分も少なくない。
ただ、それを補って余りある伏線回収のうまさが光りました。
特に街に蔓延る奇病とは一体なんなのか、という部分。
この展開は一歩間違うと笑いになりかねないのですけど、ちゃんとホラーとして昇華できていたのがポイント高いです。
玉木宏はすごい役者だ
キャスト陣の演技も全般的に良いです。
主演の南沙良はとにかくかわいい。
ホラー映画に求められるヒロイン像を全て兼ね備えていました。
映画初出演となったなにわ男子の大西流星も、ヒロインの相手役を爽やかに好演。
ややかわいそうな役回りではありましたけど、十分存在感は示せたんじゃないでしょうか。
桜井ユキは、こういう不気味な役が本当うまくて。
衣装が似合ってていつもより更に美しく見えるせいか、浮世離れ感が出ていて良かったです。
ただ、ベストアクトはダントツで玉木宏。
爽やかさ、胡散臭さを最高に良い塩梅で醸し出す前半はもちろんのこと、映画後半で見せるサイコパス感がマジですごかった。
彼の出演作を全て追っているわけじゃないですが、歴代最高の演技に近いんじゃないかな。
前半通して、実質主役と言えるぐらい映画の空気感を支配しています。
ラストの畳み方だけが残念
ここまで良いことばっかり書きましたけど、話のキモがジョーダン・ピール監督の「ゲット・アウト」(2017)に大分似ている点とラストの演出に関してはちょっとマイナス。
特に、ラストの演出はなんか露骨過ぎてちょっと。
もっとさりげなく表現できたような気がします。
あそこで物語全体が少しもっさりしてしまったような印象です。
とはいえ、観る価値がある映画には間違いない。
期待値超えという今では、2022年最大の収穫かもしれません。