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僕と彼女と小さなウソ
「浮気のラインって、どこからだと思う?」
そんな風に彼女が聞いてきたので、僕は少し考えて答えた。
「手を繋いだら、とか。
キスしたら、とか言う人多いけどさ。
気持ちが浮ついたら浮気なんじゃない?
漢字も、浮つく気持ちって書くしね」
「確かに」
むむ、という顔をする彼女を見て、かわいいなと思った。表情豊かなところが好きなんだよな。
「そっちは?どこからが浮気だと思うの?」
僕がそう聞くと彼女はうーん、と悩み始めた。
そんな彼女を見て、思わず笑った。
「質問してくるなら、先に答え決めておきなよ」
僕がそうツッコむと、彼女は悩みながらも言葉を捻り出した。
「私は…心が狭いと思われるかもしれないけど、2人で会ったらかなぁ。
よっぽど仲が良くない限り、2人で会ったりはしなくない?」
「まあ、確かにね。
でも、変な感情抜きでも仲の良い異性ってたまにいたりはするよね」
僕がそういうと、彼女はちょっと驚いた顔をした。
「意外だね。そういう女の子、過去にいたの?」
僕は頷く。
大学時代の仲の良い友達とは、ちょこちょこ二人で会っていた。
「いるよ。大学の部活の同期」
その子とは、趣味も話も結構合う部分が多かった。
卒業から10年が経っても、たまに二人で会ったりしてた。
「まあ、結衣と付き合い始めてからは一回も会ってないけどね」
僕はそう言って、コーヒーのグラスを口に運んだ。
女の子と二人で会うのはイヤだと、彼女は付き合い始めた当初から言っていたから。僕は、一応それを守っていた。
「その子とは、どういうところが合ってたの?」
彼女が聞くので、僕は少し考えた。
どういうところだろうな。
「うーん、映画の趣味とか。
…あ、あとはしっかりした自分の好みとかがあることかなぁ。
そこが一番俺と似てたかも」
お互い、好きなこととか嫌いなことがはっきりしていて。
だから、話していて心地よかった。
多分、性格が似てるんだろうな。
「ふーん。
なんで付き合わなかったの?」
彼女の言葉には、一切嫉妬はない。
僕も結衣も、お互いの過去には全く執着しないタイプだ。
僕は、少し考えた。
「なんか、そんな感じじゃなかったからかな。
友達って感じが先行してて。
付き合う云々みたいな関係性じゃないというか」
「なるほど。そういう人もいるんだね。
私だったら話が合って、一緒にいたら楽しくて、見た目が悪くなかったら好きになっちゃうけど」
「そこまで単純じゃないよ、俺」
僕がそう言うと、彼女はそうだよねと声をあげて笑った。
ほんの少しだけ、胸が痛む。
僕は、結衣に少しだけ嘘をついた。
僕が彼女と付き合わなかった本当の理由。
それは、多分。
付き合ってしまったら、今の居心地良さが壊れてしまいそうな気がしたからだ。
それぐらい、僕は彼女のことが好きだったんだ。
でも、この気持ちは一生表に出すことはないと思う。
そう思って、目の前で笑う結衣を見つめる。
僕が今好きなのは、本当にこの子だ。
それは自信を持って言える。
だから、ほんの少しだけ残っていた昔の自分の気持ちは心の奥の奥の方にしまっておく。
もしかしたら、時々はその気持ちを取り出して少しだけ眺めることはあるかもしれないけど。多分、どんどんその頻度も減っていくだろう。
だから、いつか思い出さなくなるその日まで。
思い出でさえもなくなる日までは、この感情を慈しもうと思う。