クオリティの高い大人の青春群像劇。映画「ハケンアニメ!」
Netflixのおススメに出てきたので何となく観始めた作品だったんですが、中々良かったです。
吉岡里穂の主演作と銘打ってはいますが、主人公だけではなく登場人物一人一人にドラマがある群像劇として楽しめるのが素敵でしたね。
まず、天才アニメ監督・王子千晴を演じた中村倫也。彼が出色の出来でした。
最初は常人離れした天才のように描かれる王子ですが、徐々に彼なりにプレッシャーと向き合っていくことが明らかになっていく。
アニメの製作中に海外に行ったとウソをついて、実は普通に国内のホテルで製作と向き合っていた、というエピソードが人間らしくて良かったです。
なんとなく、この役は中村倫也のガチファンにはハマりが凄そうだ。
彼を支える制作進行、尾野真千子演じる有科香屋子も魅力的。
僕もマスコミ業界で働いていたことがありますが、本当にこういうタイプの人はいました。笑
監督とスポンサーの間に立ってバランスを取らなきゃいけないのに、結局監督を支えるため無理をしてしまう。でも、こういう人は圧倒的に現場で好かれる。
全然似ていないんですけど、昔良くしてもらった制作進行の先輩を思い出しました。
工藤阿須加演じる市の職員である宗森と、小野花梨演じるアニメーターの並澤のエピソードは、良い意味で箸休め的な存在。
というか、アニメ関連でここまで話を広げることに驚きました。
”聖地巡礼”という文化を使ってアニメにあまり興味のない市職員を話に絡めるって、うまいですよね。
敏腕プロデューサー・行成を演じた柄本佑もさすが、上手かったです。
比較的カジュアルな服装の登場人物が多い中で、かっちりしたスーツ姿の彼は存在感抜群。
出てくるだけで、画面がピリッと締まる。
作中の設定でも映画のキャラ的にも、効きの良いスパイスのような立ち位置。
一部のスタッフに嫌われようと、なるべく多くの人に作品を届けるためには手段を選ばないという彼なりの信念が魅力的でした。
キャラクターや舞台設定自体は、基本的には辻村深月の原作通りらしく。ここ数年、彼女の作品も実写化が続いていますね。
流石って感じですが、脚本の政池洋佑氏の手腕もお見事でした。
何せ、これだけ多くのキャラクターを描いているにも関わらず描写不足や過剰な部分がほとんどない。
キャラが多いと一人一人を深堀りする時間が反比例して減ってしまい、共感できなくなることも多いのですが。それがなかったのが素晴らしいです。
キャラの描写に力を入れるため、ストーリーはTHE・王道でまとめたのが良い判断だったと思います。
本当、お話はシンプルです。良くも悪くもテンプレ通り、「ウォーターボーイズ」とかと同じ主人公の熱意に周囲も巻き込まれていく、的な展開。
ちょっと説得力が弱いなと思ったのは、クール開始当初は圧倒的な人気を誇っていた王子監督の「リデルライト」に、斎藤監督の「サウンドバック」が徐々に追いついてく理由がイマイチ不明瞭な点。
それぞれのキャラをしっかり描くことに時間を割く方が優先順位が上と考えたのか、その辺りの描写はちょっと足りなかったかなぁ。
まあ、「キャラをしっかり描く」という判断自体は間違っていないとは思うんですけどね。
最後に、この物語を引っ張っていく斉藤瞳監督こと吉岡里帆について。
曲者揃いのキャラクターの中で、彼女の等身大さ、一生懸命さがすごく映えていたと思います。
僕、正直吉岡里帆の出演作品をあまり観たことがなくて。笑
彼女に対してあまり固定のイメージがなかったのですが、派手ではないけど非常に奥行きの感じられる演技をしていましたね。
個性の強いキャラクターを、最終的にはクセはないけど熱意を持った彼女が牽引していくという展開は胸が熱くなります。
この人、どんな状況になっても最初から最後まで「良い作品を作る」という意思が一貫していて。
ある意味ではこの人が一番天才なのかもなぁと思いました。
やはり、群像劇×アニメ文化という日本人が得意なもの同士の掛け合わせは良いですね。
映画館で観れなかったのが惜しい、良い作品でした。