しゃぶしゃぶの陰謀
健康やダイエットの話題の1つに「ベジファースト」がある。
食事の最初に野菜・きのこ・海藻類といった食物繊維を摂取することで、血糖値の急激な上昇を抑え、脂肪を合成する働きも持つインスリンを分泌させにくくする。
また、先に歯ごたえのある食物繊維を食べることで満腹感も生まれやすく、白米などの食べ過ぎも抑えることができるのだ。
私が中学生の頃に「ベジファースト」という言葉があったかは定かではない。しかし、ダイエットには野菜から先に食べるべし、という話は既に耳にしており、なかば強迫観念のようにベジファーストに取り組んでいた。
何があっても絶対野菜から食べ始め、ツナサラダのようにたんぱく質が混ざっているサラダしかない場合、最初の数口はご丁寧にツナを取り除いてから食べる。お弁当などで添え物程度しか野菜がなく、これを先に食べたところで……という状況でも、じゃあ大好きなハンバーグから、とはならないのだった。
昔は必死だったなあ、と懐かしんでみたが、実のところほんの少し緩くなっただけ。さすがにサンドイッチで中のきゅうりを取り出して食べることこそしなくなったが、未だに「三角食べ」とはほど遠い食生活を送っている。
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そんなベジファースト主義者だったので、「野菜を食べるとお腹が膨れる」というのは私のなかで常識となっていた。しかし、それに異を唱える者が現れた。何を隠そう、我が夫である。
彼は私と違ってよく食べるほうなので、同棲当初はサラダでかさ増しをしよう画策していた。しかし、サラダを前にして彼はこんな風に言ったのだ。「野菜ではお腹いっぱいにならない。ノーカウントだ」と。
え? 野菜を先に食べれば胃にも蓄積されるし、満腹中枢にもはたらきかけてタブル効果でお腹いっぱいになるよね?
しかし、お腹いっぱいになる理由を述べたところで、「なる・ならない」という前提が食い違っているので、議論は平行線である。お互い、理解はできるけど自分は違う、という結論に着地せざるを得ないのだった。
しかしそれだけにとどまらず、夫はしゃぶしゃぶ食べ放題についても不思議な主張をしている。
彼が言うには、「しゃぶしゃぶは香味野菜が無限に食べられてしまう。すると経営的にも資源的にもまずいので、無限を阻止するためにお肉を用意している」らしい。最初に聞いたときは、何を言っているのか全然わからなかった。
私も執拗なベジファースト主義者なので、実は夫の意見が一般的なのではないかと段々不安になってくる。 いやでも、テレビを見るとお肉ばかりがヒューチャーされているし……。
しかしそれは、「無限であることを隠しているから」なのだそう。
「香味野菜が無限なことを隠すために、テレビではお肉を映す。カニしゃぶを紹介する。あと、寿司を提供しているお店も多い。あれは合理的だよね。たんぱく質と炭水化物でお腹いっぱいになるし、何個か取りたくなっちゃうから」
しゃぶしゃぶ陰謀論者とベジファースト主義者の議論は常に平行線。みなさんはどちらのタイプですか?(”どちらでもない” も大歓迎です)