四万十川ウルトラマラソン完走体験記⑥
(⑤より→)
闇の中一斉に足音が鳴る。
ゴールに向かって一斉にランナーが駆け出す。
100㎞の旅が始まった。
スタート直後。
暗がりの中を走る。
朝から声援を送ってくださっている地域の人々。
最初はランナーも元氣で手を振り返したり、余裕がある。
まだ集団になっており、ランナーの熱氣に囲まれ暑い。
私は1㎞あたり7分前半で走る計画を立てていた。
私は練習でも体が温まるまでは、7分後半など基本スロースターターだ。
私が考えていたのは、100㎞もの長丁場。
序盤の60㎞くらいまではウォームアップくらいの氣持ちで楽に走ろうと思っていた。
勝負は80㎞を超えた後半。80㎞まで脚を残せたら。
基本的に、80㎞までは基本脚の消耗をおさえる走りをしようと考えていた。
もっと本格的な練習を積んでいたら別だが、今の自分の現在地点は13時間前半が何とか狙える走力かな。
そうシビアに考えていた。
前半の峠までの20㎞。序盤中の序盤である。
時計には、㎞6分台前半になれば警告を出す設定。
心拍が180を超えたら、警告を出す設定をしておいた。
心拍が増えれば、乳酸がたまり動けなくなる。
序盤飛ばせば疲労が蓄積され、後半動けなくなる。
とにかく楽に楽にと考えていた。
しかし、レース特有の氣持ちの入り方なのか㎞6分台で自然に刻んでしまう。
速すぎるというアラームが響く。
「飛ばし過ぎ 飛ばし過ぎ」
「抑えよう」
周囲のランナーに追い抜かれながらも、ペースをキープすることを優先させる。
だが氣付くとペースが速くなってしまう。
それを抑える。
その繰り返しで、前に進んでいく。
10㎞ポストを超える。そこから徐々に坂道になり、ゆるやかに峠に向け上がっていく。
夜も明けてくる。体も温まりリズムに乗ってきている。
14㎞ポスト付近だろうか。
堂が森の山が見えた。
山が目の前にそびえたつ視界が広がる。
まるで「かかってこい」というように。
悠然と山はそびえていた。
これまで3度跳ね返されてきたその堂が森を見据える。
「今度こそは勝ってやるぞ!」
おのずと氣合いが入る。氣持ちが高鳴る。
コースは山道になり、傾斜は徐々にきつくなっていく。
徐々に、前のランナーのペースが落ち、それを私が追い抜かしていく。
私が速いのではない。私のペースが落ちていないだけなのだ。
日頃の坂の多いランニングコースでの練習のお陰か、ほかの人が苦にしている勾配をさほど感じない。
「いつも走っている坂の方がきついやん。」
そんな感じで楽に走る。
少しペースは落ちるが、山道を駆け上る。
感覚的にはそんなにしんどくないのだが、心拍が180を超えるアラームが度々鳴る。
レースでアドレナリンが出ているからだろうか。
結局、ほぼ歩かずに標高600mの峠を駆け上がる。
最初の20㎞の区間ラップは2時間25分
計画の午前8時より少し早く通過する。
日はだいぶ昇ってきたが、林道なので涼しくて走りやすい。
大きなエイド。決めていた補給を済ませるため、少し足を止める。
「もうすぐ頂上だよ!」沿道から口々に声援が飛ぶ。
しばらく登っていき23㎞地点。頂上に到着。
そこから直ぐに下り始める。
「まだ全体の5分の1」
「ここからの下りの走り方が大事だ」
と自分に言い聞かせ、改めて氣を引き締める。
近所の坂で何度も練習したように、体を前に少し傾け、肘を若干畳み、ピッチを上げる。
意識としては真下に接地。
足は前に踏み出さない。足は上に持って行かない。
「勝手に体は引力で下に落ちていく。体は添えるだけだ。」
力を使わずに、転がるような、勝手に下に引っ張られるイメージを持って坂を下っていく。
基本1㎞6分台をキープし、距離を刻む。
リズムに乗り、30㎞ポストを超える。
「前に脚をやったのは33㎞ポスト付近だったな」
またやらないか。快調な中にも、緊張感がにじむ。
見えてきた33㎞ポスト。前回のブレーキの現場だ。
何も起こらない。
普通に通過できた。
まずは私の中での第一の関門はクリアできた。
第1関門が36.6㎞地点に控える。閉鎖は10:55
ここは9:45頃。特にブレーキも無く通過する。
2010年脚の苦痛に見舞われ、女性に痛み止めの塗り薬を貸してもらった場所だ。
きっちりと給水し、バナナなども補給する。
「多分ここまでがレースの一つの山場で、体の消耗も大きいかな」
そう思い、40㎞地点で摂るつもりだったサプリ等の補給を前倒しで摂る。
40㎞が一つの区切りになる。そこまでは一氣に行ってしまいたい。
昭和大橋を渡ると、左手に四万十川の景色が広がる。
雄大な景色。
晴天で、気温も上がってきている。そろそろペースが落ちるかなと思いつつ、コンスタントに1㎞6分台が刻めている。もう少し速くできそうなのだが、「まだ序盤」ペースアップしそうな氣持ちを抑える。
40㎞ポストも順調に通過する。
これで全体の行程の40%。
先ずフルマラソンの距離(42.195㎞ポスト)のクリア、その次は半分である50㎞ポストをクリアしたい。
そう思い、足を前に進めていく。
エイド休憩とトイレで止まり一部でラップが凹んだが、順調な走り。
予定より速い1㎞6分台が自然に刻める状態。
時に1㎞5分台も出て自分でも驚く。
行程の半分となる、50㎞ポスト通過は11時25分ごろ。
前回2019年通過は12時過ぎだった。前回より40分近く早い。
計画では11時40分ごろまでに通過できれば完走確率は高まるだろうと思っていたのが、それと比べても15分程度早い。
「出来過ぎやな」「今回は行けるぞ」
と思ったが、「まだこれで半分や。あと50㎞走らないとアカンのやで。」と氣を引き締める。
前回はこの辺りを10㎞ポスト毎に、写真を撮っていたが今回は撮らない。
「あくまでも完走だ」「時間内に100㎞走り切るのが自分の目標なのだ」
「そんなことで一喜一憂してはいけない。」
そう思い、前に前に進む。
と同時に、ここからは今まで走ってきた距離より、これから走る距離の方が少なくなっていく。
それは、落ち着きを得られる要因となる。
確実に距離を食っていく感覚が得られるのは前に進む励みになる。
しかし、前回よりも全体的に、冷静に頭を使って走れているな。と思った。
ゴールから逆算して、補給を含めて計画を組み立てる。
常にリスクも頭に入れる。
状況に応じてプランを修正する。
自分のコンディションと相談して、必要以上に無理はしない。
自分に対して「アメ」と「ムチ」の両方の言葉を投げ掛けて、鼓舞して前に進む。
昔より自分のことがわかるようになった。自分自身を上手く使えるようになった。
もしかすると年の功というのだろうか。
がむしゃらに前に進んでいた26歳の時よりも、今の方が走ることを楽しめている。
そう思えた前半の50㎞であった。
(→続く)
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