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詩的な者たち
『私を食べて』
![](https://assets.st-note.com/img/1729146501-PQumiB0y8LqE3Nrl5Up9zgct.png?width=1200)
「ねぇ、どうして。どうして私を食べてくれないの?」
そんな願いを聞くふりだけをして、ただ空返事する。
小さく華奢で暖かい彼女。
そんな彼女から美味しそうな放香がして――
この匂いを嗅ぐ度に、胸が掻き立てられた。
その願いを聞く度に、つい欲が勝りそうになった。
嫌だ、と。それだけは、と。
あの日。彼女と出会ったあの日。
そうだ、あの日にはもうすでに、
全てが、既に定まっていたのだ。
今にしてはあの日の空はきっと、
この帰結を表していたのだろう。
厚昏い曇天。
湿った冷風。
泡沫の水鏡……
視界が昏い。
――ありがとう。
なんて、笑顔と共にそんな幻聴がして。
鼓膜を突き抜け、喉を切り裂きながら、心の臓へと。
胸が焼ける。喉がえずく。
それでも彼女を食べる口は。
それでも、彼女を運ぶ腕は。
決して留まるところを知らなかった。
寒気に震えが止まらない。
――ありがとう。
なんて、体温と共にそんな幻覚がして。
心の臓から、喉を通り過ぎて、目鼻へと。
瞼が熱い。呼吸もし難い。
けれども彼女を食べる口は。
けれども、彼女を運ぶ腕は。
矢張り留まるところを知らない。
服を真っ赤に彼女色に染めあげて、
意識をただ彼女一色に染めあげて。
彼女一色に染まりあがったころにはもう。
その燃え滾る様な色は、滾々たる清水の様に変色していた。
後悔したところで、もう遅い。
いくら顧みようとも、手遅れだ。
彼女は死んだのだから。
彼女を殺したのだから。
誰がなんて問いは必要ない。
如何してなんて逃避も必要無い。
目の前の水溜りがすべてを示していた。
『静かな家の中』
![](https://assets.st-note.com/img/1729146416-mTKfJEHhAPRBObxUwZ18rn7u.png?width=1200)
涙の跡が残った君に問う。
どうしたのかな?
辛い事、悲しい事、きっと一杯あったんだねって。
判る。判るよ。解らない。
きっと笑顔の似合う君だから、嬉しくって泣いてしまったのかなって。
判る。判るよ。そんな希望に、解らないと突き付ける。
君を見ていると僕は。
心が揺れて、恥ずかしくて目を逸らしてしまうんだ。
隠した花束をきっと君は知らないし、知った時の君を見てきっと僕は。やっぱり恥ずかしくて目を、解らない。解らない。解らない。
涙の跡を遺した君に問う。
どうしたのかな?
苦しい事、痛い事、きっと一杯あったんだねって。
判る。判るよ。それだけは。
きっと笑顔の似合う君だから、嬉しくて泣いてしまったのかなって。
そんな幻想、来るわけもないのに。
解らくなってしまう。
君を見ていると僕は。
心が揺れて、解らない。
涙の跡だけを遺した君に問う。
どうしたのかな?
どうしたのかな? どうしたのかな? どうして、どうして。
きっと笑顔の似合う優しい君だから、僕は。
君を見ていると僕は。
心が落ち着いて、夢を見るんだ。
もう大丈夫。
一緒にいよう。
そう告げようと、君はもう動かない
『貴方に私の心臓を』
![](https://assets.st-note.com/img/1729146456-ihUTdDCokHBmPeuVK8xYjORN.png?width=1200)
――あなたの為に、死のう。
そう言って君は、僕の前から消えた。
制止なんて、全くさせてくれないで。
せめて、最期の声を聞かせておくれ。
君に看取られたかったのに。
――あなたの為に、死のう。
もう君は、僕になってしまったと。
愛しい声がして、僕は目を覚ます。
せめて制止の機会を、くれたなら。
君に生きて欲しかったのに。
君と見た、あの潮の匂いが、消毒液に侵されて。
君と見た、あの夕日の色が、白色光に浸されて。
僕は、こんなこと、決して望んでは……
――あなたの為に、死のう。
そう遺して、君がくれたこの命。
あの暮れ空を、もう一度一緒に。
あの浜辺まで、連れて行くから。
――君の為に、僕は死のう。
『生人』
![](https://assets.st-note.com/img/1729146723-IDkORf9YWV5BsKgA7SuEPMZd.png?width=1200)
「危ない!」 そんな声に上方を仰ぎ見る。
眩しき日を、覆う指端に止まった鉄筋が。
――ああ、崩れたのかな。と夢の心地で。
網膜を切り裂くような強烈な光が貫いた。
『 』
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足を捧げたら 何処まで行けるのだろう
『現在』
![](https://assets.st-note.com/img/1736402427-KQqlHVoniC2zcMZs7m8gIPk5.png?width=1200)
死への恐怖 それこそが唯一無二 現実への足掛かり
対峙した時 官能から 情欲から 即ち肉体から解き放たれ 初めて今を
過去も未来も失って 始めて連続する真の時間を 体感出来る
けれど死神よ お前は恐ろしい
避け難い終わりを連想して 迫る痛苦を想起して
それで初めて現実を知る事が出来るというのなら
例え内なる世界からしか見えなかろうと
構わないと思えてしまうのだ