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#人生を変えた一冊

今回紹介する一冊の本。

それは山田宗樹著「百年法」だ。

「嫌われ松子の一生」や「ギフテッド」、「人類全滅小説」などで知られる著者が、これ以上の小説を書けないと自ら言わしめた作品で、世界観、訴えかけるメッセージ性の完成度の高さからご本人の考えが間違っていないと言える一作だ。

この小説の舞台は近未来の日本。

人類はついに不老不死の法を手に入れた世界。

その不老不死法は外科的施術をすることにより、その時より肉体としての老いが無くなるというのだ。

ファンタジーのように怪我をしてもみるみる治るとか、心臓を撃ち抜かれても生きているのような不死性はないが、それだけ技術の進歩している社会。病気で亡くなる人などほとんどいない。

つまり、その施術をしたタイミングから「事実上不死」が確定するのだ。

こんな馬鹿げた世界を圧倒的リアルで描く作者には脱帽だ。

そして、その影響は爆発的な人口増加である。

それはそうだ。

人が死なないのだから。

そのことを見かねた日本政府が国民に提示したものは「施術後百年を持って自らの生命権を放棄してもらう」という法律通称百年法の交付である。

ここまでが世界観へ誘うプロローグ。

その後百年法をめぐる人間の思惑、生きている人間と、その百年を迎えた人々の生への執念が綴られる。

この世界は大きく分けて3部構成になっており、1人の男が幼年期、青年期、老年期と3部で時間が流れていく。

不老不死の世界で老年期?そう疑問に思った人もいるかもしれない。

そう。この主人公は施術を受けなかったのだ。

それは多くの人が百年を迎えると逃げ出して生き延びる道を選ぶ中、彼の母親は法律に則り安楽死の施設に向かったことに起因する。

百年法が施行されても、逃げ出す人たち、一向に減らない人口と逃亡者問題。

そして、政界では自らは生き延びようと総理に媚びつつける状況。

そんな熟れきった果実のような世界で、更なる災厄が訪れる。

多器蔵が同時に癌化する病気だ。

不老不死を手に出来るほど進んだ技術を持ってしても、なんの有効打も無く致死率は100%。

再び人類に死の恐怖が舞い戻る。

この小説は、人間の汚さを存分に描いている。

生き維持の汚さと言ってもいいだろう。

だが、そんな誰もが自分が生き延びることを考えている中、人類の存続のために決断し、行動する人間のなんと美しいことか。


奇しくも、今現在の世の中はこの不老不死の世界と似た匂いを感じる。

生き延びるために、なにをするべきか。

人という生き物の強さを改めて考えさせてくれる作品である。

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