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カールマルクスが渋谷に転生した件 16 マルクス、お受験に憤慨する(後半)
マルクス、過去問をとく!
マルクスが問題集を広げる。
「これが昨年の全国統一模試というわけか」
『2023年度 第2回 全国統一模試 公民
第3問
資本主義経済の発展要因として、最も適切なものを選びなさい。
①市場における自由競争の浸透
②労働力の商品化による蓄積
③政府による市場への介入
④消費者ニーズへの対応
模範解答:①』
「なに!?」マルクスの髭が逆立つ。「②が明らかな正解であるのに...ああ、なるほど。実に巧妙な問題だ」
赤ペンを取り出し、マルクスが書き込みを始める。
『この模範解答は資本主義的イデオロギーの典型!
①は支配者による「正解」
→自由競争という美名で搾取を正当化
②こそが真の正解
→資本主義発展の歴史的前提条件
→これなくして資本主義なし!
③④は両者にとって誤り
→③は資本の営利活動への制限
→④は表面的な現象記述に過ぎない
補足:このような設問こそ、若者たちの意識を歪める温床となっている!』
「次の問題を見るぞ!」マルクスの目が輝きを増していく。
『第4問
企業の利潤追求活動が社会に与える影響として、最も適切なものを選びなさい。
①経済の活性化と技術革新
②労働者からの価値の収奪
③政府の税収への貢献
④SDGsなどによる環境負荷の削減
模範解答:①』
「これは酷い!」マルクスの声が響く。
『①は資本家的プロパガンダ
→搾取を「活性化」と言い換える詭弁
→技術革新の真の受益者は誰か?
②が明らかな正解
→利潤の本質を正確に指摘
→なぜこれを「不適切」とするのか!
③④は表層的理解
→③は資本家による譲歩の一形態
→④は資本主義の矛盾の一つに過ぎない』
「次!」マルクスが激しくページをめくる。
『第5問
現代の労使関係について、最も適切なものを選びなさい。
①労使の対話による相互利益の追求
②階級対立に基づく搾取の構造化
③政府による労働条件の規制
④労働者の賃金交渉力の低下
模範解答:①』
「相互利益だと?」マルクスの髭が逆立つ。「狼と羊の相互利益か!」
マルクスの添削が止まらない。
「マルクスさん」ケンジがスマホを構えながら。「この様子を撮影して、『現代の教育における問題点』として動画に...」
「その通りだ!」マルクスが立ち上がる。「しかし、まだある。このページを見たまえ...」
「また何か問題でも?」さくらが覗き込む。
『第6問
現代資本主義の本質的特徴として、最も適切なものを選びなさい。
①市場原理による効率的な価格形成
②資本の運動による価値の自己増殖
③消費者主権による需要の調整
④政府の介入による市場の安定化
模範解答:①』
マルクスの表情が急変する。髭が震え始め、しかし今度は怒りではなく、むしろ悲しみのような感情が滲む。
「ついに来たか...」声が低く響く。「これこそ、最も本質的な問題だ」
『この設問にこそ、現代の教育の闇がある。
①は資本主義を自然現象として描く欺瞞
②こそが真の解答
→資本の自己増殖運動こそが本質
→これを理解せずして資本主義は語れない!
③④は表層の現象
→消費者主権など幻想に過ぎない
→政府も結局は資本の運動に従属
補足:
若者たちよ、なぜこの②が「不適切」とされるのか。
それは君たちに真実を悟られたくないからだ!』
マルクス、バズらせたい
「マルクスさん」木下が声をかける。「これは確かに重要な指摘です。Das Kapital TVで...」
「いや」マルクスが静かに答える。「これは動画だけでは足りない」
「え?」
「教育の現場で、直接若者たちと対話せねば」マルクスの目が確信に満ちて輝く。「模試の添削だけでなく、我々にできることが...」
その時、ケンジのスマホが震える。
「あ!マルクスさんのXが!」
『TheRealMarx_1818
現代の教育における搾取構造について、昨年の全国模試を元に分析してみた。若者たちに隠された真実とは?
添付画像:マルクスの朱筆による理論的解説』
「もう10万リポストを超えてます」ケンジが目を見開く。
木下が画面をスクロール:
『マルクス先生の解説、めっちゃ分かりやすい』
『これぞ本質的批判って奴か』
『受験勉強で違和感あったのって、これのことだったのか』
『髭生えてる哲学者の添削、激アツ』
『TheRealMarx_1818に返信:
先生、私たち高校生の気持ちを分かってくれてありがとう。今の教育って、お金がないと選択肢が狭まるばかりで...』
『模試の解説、深い。単なる暗記じゃなくて、こういう本質的な議論がしたかった』
『共創体って、教育問題にも取り組むんですか?ぜひ参加したい』
「見たまえ」マルクスが画面を指さす。「若者たちは、本質的な議論を求めているのだ」
「でも」木下が心配そうに。「現実の受験システムは変わらないし...」
「だからこそ!」マルクスの髭が誇らしげに震える。「我々は二つの戦線で戦わねばならない」
「二つの戦線?」
「一つは、目の前の受験生たちを支援すること。現実の試験で求められる解答と、その裏にある本質。両者を理解させねばならない」
「なるほど」さくらが頷く。「Das Kapital TVで解説を...」
「そしてもう一つ」マルクスの声が力強くなる。「教育における階級性、商品化、そして搾取の構造。これらを可視化し、変革への道筋を示すのだ」
「その...」田中講師が恐る恐る。「私にも協力できることがあれば...」
「おお!」マルクスが立ち上がる。「まさに我々が求めていた同志!現場の声こそが...」
「また声が大きくなってます」ケンジが制する。
その時、新たな通知が。
『TheRealMarx_1818の投稿が教育関係者の間で話題に。現役教師からも反応が...』
夜のスクランブル交差点。大型ビジョンには某予備校の華やかなCMが流れている。
「見たまえ」マルクスが交差点を行き交う制服姿の高校生たちを指さす。「彼らは今この瞬間も、資本による教育支配の中にいる」
「でも、私たちのメッセージは、確実に届き始めてます」さくらが期待を込める。
スマホには次々とコメントが流れ込んでくる。
『学校も塾も、結局はお金なんだよね...』
『こういう本質的な議論って、受験には出ないけど大事』
『共創体、次の集会参加してみようかな』
「ふむ」マルクスが満足げに髭をなでる。「若者たちには、真実を見抜く目がある」
「マルクスさん」木下が提案する。「来週の渋谷での集会、テーマを教育問題に...」
「いいや」マルクスが遮る。「その前に、もう一つやるべきことがある」
「え?」
「現役の教師たち、塾講師たち、そして保護者たち。彼らの声を集めねば。教育における搾取に苦しむ者たちの、具体的な証言を」
「Das Kapital TV 緊急特番ですね」ケンジが頷く。
マルクスは夜空を見上げた。渋谷の街を覆うネオンの輝きの中に、かすかな星が瞬いている。
「かつてのギムナジウムには、少なくとも学問の自由があった」マルクスが静かに言う。「だが今や、教育そのものが商品と化している」
「でも」さくらが付け加える。「だからこそ私たち若い世代が...」
「ああ」マルクスの髭が誇らしげに震える。「君たちこそが、新しい教育の形を作り出すのだ」
渋谷の喧騒の中、マルクスの影が長く伸びていた。教育という次なる戦場で、新たな闘いの火蓋が切って落とされようとしていた。