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カールマルクスが渋谷に転生した件 22 マルクス、体制を整える!

序章はこちら

マルクス、ただのおじいちゃん

さくらの祖母のゲストハウス。一部の部屋を選対本部として改装する音が響いていた。古い畳の上にパイプ椅子が並び、壁にはホワイトボードが掛けられている。

「では、体制作りから」木下がホワイトボードに向かう。「必要な役職は...」

「選挙責任者、会計責任者」ケンジがスマホで確認。「報道対応、広報...」

「選挙責任者は」ひかりがさくらに向かって。「やっぱりさくらさんでしょう」

「え?私が?」

マルクスの髭が誇らしげに揺れる。「君は理論と実践の架け橋となる素質を持っている」

「でも経験が...」

「むしろ新しい選挙を作れる」ケンジが力強く。「Das Kapital TVだって、誰も経験なかったじゃないですか」

「会計は?」木下が心配そうに尋ねる。

「私がやります」ひかりが手を挙げる。「経済学部だし...その...アイドル時代の分配の仕組みとか、おかしいなって思ってたから、ちゃんと勉強したいです」

「おお!それこそ実践を通じた学び!」マルクスの髭が喜びで踊る。「よし、直々に私が経済の真髄を教えてやろう」

「またデレデレして」さくらが呆れる。


マルクス、チームづくりをする

その時、木下のスマホが突然振動する。
「あ」画面を見て目を丸くする。「『連帯せよ!2.0』経由で謎のメッセージが...」

「なんですか?」

「都議選の実務経験者を名乗る人から。もし次の都議選に出るならアドバイスが...とのことです」

「フムフム」マルクスが覗き込む。「インターネットを通じた連帯か!」

「内容は」木下が慎重に。「かなり具体的で、信憑性が高そうです」

最終的に体制は以下のように決まった:

選挙責任者:さくら
会計責任者:ひかり(マルクスの指導付き)
広報:ケンジ(Das Kapital TVのノウハウ)
デジタル戦略:木下(匿名アドバイザーとの連携)
候補者:西野准教授
理論担当:マルクス

「これで基本体制は」さくらがホワイトボードに書き込む。その手が少し震えている。

「大丈夫」西野准教授が静かに。「私たちにしかできない選挙を」

木下のスマホがまた振動する。
「また匿名さんから」画面を見て驚きの声。「これ、公職選挙法の抜け穴...じゃなくて、法的にグレーな部分の解説です」


マルクス、ルールを守る

木下がパソコンの画面に向かい、匿名アドバイザーからのメッセージを確認している。

「ネット選挙運動のルール、整理できました」木下が説明を始める。

「どうなってるんですか?」ケンジが身を乗り出す。

「基本的に」木下が読み上げる。「選挙運動期間中、候補者も有権者もウェブサイトやSNSは使えます。Das Kapital TVも配信自体は可能」

「おお!」マルクスの髭が喜びで踊る。「それは朗報では?」

「ただし」木下が続ける。「重要な制限がいくつか。まず、選挙運動ができるのは選挙期間中だけ。事前運動は禁止です」

「つまり」西野准教授が確認するように。「公示前は一切...」

「それと」木下が画面をスクロール。「18歳未満の人は選挙運動自体ができない。つまり投票を呼びかけるような投稿は...」

「あ」ひかりが気づく。「私のフォロワーで高校生の子たちは、拡散もできないってこと?」

「その通り」木下が頷く。「そして一般の有権者は電子メールでの選挙運動が禁止。候補者や政党だけが使えます」

マルクスの髭がゆらゆらと揺れる。「なんという複雑な...」

「でも」さくらがホワイトボードに書き出す。

選挙期間前:政策討論は可能
選挙期間中:SNS・ウェブでの選挙運動可能
制限事項:
・18歳未満の選挙運動は不可
・メールは候補者・政党のみ
・事前運動は禁止

「つまり」ケンジが整理する。「今はとにかく政策議論。選挙期間に入ってから、一気にネット戦略を展開と」

「その通り」木下の画面に新着メッセージ。「匿名さんも『選挙期間前は純粋な政策研究として』とアドバイスを」

「理論と実践の時期を分けるわけだな」マルクスが髭をなでる。「弁証法的な展開というわけか」

「はい、はい」さくらが笑顔で。「その理論は選挙期間後に」

「じゃあ、具体的に」さくらがホワイトボードに向かう。「今できることは...」

「環境経済学研究会!」ケンジが提案。「西野先生の研究を前面に」

「おお!」マルクスの髭が踊る。「理論的言説なら問題ないはずだ!」


マルクス、感嘆する

その時、木下のスマホが震える。
「あ、匿名さんから」

以下は事前運動とみなされる可能性大:
・「次期都知事候補・西野教授の講演会!」
・「都政を変える環境経済学!」
・「いよいよ都知事選へ!西野理論」

以下なら問題なし:
・「環境経済学最前線」
・「都市と環境の理論研究会」
・「次世代のための経済政策」

「むむ」マルクスが考え込む。

「なるほど」さくらが書き出す。「要は...」

その時、ひかりのスマホが鳴る。
「あ!他のYouTuberからコラボのオファーが」

「どんな?」

「『Z世代と考える環境問題:マルクスと西野准教授を招いて』...って、あれ?」画面を見つめるひかり。「コメント欄が熱いです」

『西野准教授って最近Das Kapital TVよく出てるよね』
『次の都知事候補希望!』

「おっと」木下が慌てる。「これは削除を...」

「待て!」マルクスが制する。「それこそ疑惑を...」

「『皆様の憶測については、ノーコメントとさせていただきます』...で、どう?」西野准教授が珍しく茶目っ気たっぷりに。

「先生!」さくらが驚く。

「なんという絶妙な...」マルクスの髭が感嘆で震える。

その時、また木下のスマホが。
「匿名さんから」

『その対応、Perfect!』

「匿名さん、楽しんでません?」ケンジが笑う。

全員で笑い声が上がる選対本部。
だが、その直後。

「さて」木下が真顔に戻る。「問題は選挙資金の...」

空気が一変する。
窓の外では、某大手政党の選挙カーが通り過ぎていく。運転手に加え、スーツ姿のスタッフが3人。完璧な体制だ。

「あの車一台を借りるだけでも」木下が呟く。「優に50万は...」

全員の表情が曇る。

続く


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