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在日日本人
2016年8月10日 07:36
身体は全く動かないのに、視聴覚器官だけはまだ生き残っていた。 どうやら全身の神経の配線がズタズタになったらしい。 が、いい事もある。 これで痛覚が生きていたら、俺は痛みの無限地獄の真っ只中にいる筈だ。 でもストレッチャーに乗せられて、見覚えのあるこの病院の緊急搬入口を見上げた瞬間、俺はマズイ!と思った。 ここは、兄、宗一郎の息の掛かった私立大病院だった。 普段でも俺は兄貴に引け目を感
2016年8月11日 07:26
2: 「学生街の喫茶店」 ドアを押して入ると僕の頭上で、ガランゴロンと金属の空洞の中を、丸い玉が転げる音がした。 ワックスと木の臭いのする店内は、やけに甘ったるい男性コーラスの歌声で満ちている。 その発信源は、この店の一番奥にある派手なデコレーション付きの洗濯機の親玉みたいなものだった。 確か「ジュークボックス」って言うんだ。 僕は自分の頭の中に正解を見つけだし、ちょっといい気分で店
2016年8月12日 07:26
3: 「どしゃぶりの雨の中で」 その日、家に帰った僕は、早速、沢父谷から手渡されたDVDをデッキに入れてみた。 円盤の表面にタイトルの類は一切ない。 プレィが始まる短い空白時間に、嫌な予感がした。 もしかしたらこれから僕の目の前で、沢父谷がくわえ込んだ男どもとのセックスシーンが展開されるのかも知れない。 ・・屈折した意味のない冗談。 何処かで、沢父谷とこのDVDに登場する男が、自分た
2016年8月18日 07:22
8: 「愛するって怖い」Nパート スマホで嘉門を、夢殿の北にあるカフェに呼び出しておいた。 前の件があるから、嘉門が僕の前に姿を現すかどうかは五分五分だったけど、彼はきっちり指定した時間通りに僕を待っていた。 カフェのガラスドアに薄く映る自分の全身を最後にチェックして、僕は店内に入った。 まあまあの化けっぷりだった。 嘉門は店の奥のテーブル席にいたので、僕の姿はしばらく他の客に晒さ
2016年8月19日 07:29
9: 「愛するって怖い」 僕が、嘉門からパンティの見返りに貰ったのものは、煙猿が数年前までやっていた堅気の仕事についての情報だった。 いつのまにかグロイストの取り巻きの一人になっていた煙猿は、ある日こんな事を彼らに言ったらしい。「おたくらさ、もうちょっと刺激的な設定を考えないと、これだけ細分化した性のニーズにこたえられないんじゃないの。」 日頃から得体の知れない男で、出来るだけ煙猿を避け
2016年8月20日 07:09
10: 「ブルーシャトウ」 俺は昔からゴーゴンとかの女怪物や女妖怪の類が好きだった。 思えば、俺が「オカルト探偵」なる珍妙な職業に落ち着いたのも、それが遠因だったのかも知れない。 最近、リアルで出会った女怪物は、江夏由香里先生だった。 特に最後に見た江夏先生の姿は、強烈だった。 坊主頭に見せかける為の「禿ズラ」というものがあるが、アレに直径1センチ程の半透明チューブを沢山生やして肩まで
2016年8月22日 07:09
12: 「カサブランカ・ダンディ」 手筈は整っていた。 俺が羽織っている皮ジャケットの内ポケットには、神代組の末端からくすねた麻薬が1キロ入っている。 芝居じゃない、実際に俺が売人のヤサからそれをくすねて来たのだ。 勿論、情報は蛇喰が流してくれたのだが、このカラクリは神代組の上層部の数人しか知らない。 神代の組員が、俺の探偵事務所へ押し込んできたのは、俺が盗みを働いたその日の夕刻だった