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在日日本人
2016年8月10日 07:36
身体は全く動かないのに、視聴覚器官だけはまだ生き残っていた。 どうやら全身の神経の配線がズタズタになったらしい。 が、いい事もある。 これで痛覚が生きていたら、俺は痛みの無限地獄の真っ只中にいる筈だ。 でもストレッチャーに乗せられて、見覚えのあるこの病院の緊急搬入口を見上げた瞬間、俺はマズイ!と思った。 ここは、兄、宗一郎の息の掛かった私立大病院だった。 普段でも俺は兄貴に引け目を感
2016年8月11日 07:26
2: 「学生街の喫茶店」 ドアを押して入ると僕の頭上で、ガランゴロンと金属の空洞の中を、丸い玉が転げる音がした。 ワックスと木の臭いのする店内は、やけに甘ったるい男性コーラスの歌声で満ちている。 その発信源は、この店の一番奥にある派手なデコレーション付きの洗濯機の親玉みたいなものだった。 確か「ジュークボックス」って言うんだ。 僕は自分の頭の中に正解を見つけだし、ちょっといい気分で店
2016年8月14日 07:38
5: 「白いブーツの女の子」 沢父谷姫子の捜索は困難を極めていた。 まるでこの世界から蒸発してしまったかのようだ。 だから俺は回り道でも、あのDVDから沢父谷姫子の足取りを辿ろうとしていたのだ。 そして失踪前の沢父谷を撮影した嘉門の居場所を突き止めた。 その嘉門を歌舞伎錦町の路地裏で見つけ出したのは、いいものの、そこには思わぬ先客がいた。 遠目では嘉門が「悪い女」に引っかかって絞り