【詩】蛇人間
蛇人間は、歩けない
蛇人間は、泳げない
蛇人間は、這うしか能がない
アンタハ、アルケナイカラニンゲンジャナイ
ソレナラ、サカナカ?
イヤ、オヨゲナイカラ、サカナデモナイ
ハッテイルカラ、ヘビカ?
ヘビダ、アンタハ、ヘビダ
蛇人間は、罵倒されても仕方ない
愛情とやらが強過ぎて
少しでも人間に近づけようと懸命過ぎて
愛情とやらの裏返しで
だから、罵倒されても仕方ない
ナンデ、ソレクライモデキナイノ
サッキヨリモ、ジカンガカカッテルジャナイノ
ドウシテ、モット、ハヤクウゴケナイノ
コレジャア、ナンカイヤッテモイミガナイジャナイ
蛇人間は、時間を奪われても仕方ない
訓練という名の苦行に時間を奪われても仕方ない
毎日毎日毎日毎日
朝から晩まで朝から晩まで
幼き時代の、その時その時にしか存在しない時間を奪われても仕方ない
より良くなると信じたことはこれっぽっちもなかったが
今の犠牲が将来のためと、分かる言葉で説明されたことはなかったが
毎日毎日毎日毎日
朝から晩まで朝から晩まで
大蛇の気が済むまで
大蛇が諦めるまで
膝小僧は青く、もしくは赤黒くなり
手の爪は剥げ
感情を切ることを覚え
早く早くと急かされながら
意味もなく、部屋の端から端まで這い続ける
蛇人間は、歩けない
蛇人間は、泳げない
蛇人間は、這うしか能がない
だから、仕方ない
少しでも人間に近づくことを求められているから、仕方ない
こんな苦行に耐えても人間に近づけはしないが、仕方ない
今が人間でないなら人間に近づきたいとは思わないが、仕方ない
本当に 本当にそうなのだろうか?
本当に 本当に仕方ないだろうか?
目の前に、オレンジ色のドア
ほんの薄く開いたオレンジ色のドア
蛇人間を生んだ、人間のつもりの大蛇が
赤く燃えたストーヴの前で居眠りしてる間に
目の前の、オレンジ色のドアを出てゆけ
蛇人間は、歩けない
蛇人間は、泳げない
蛇人間は、這うしか能がない
それで十分だろう
目の前の、オレンジ色のドアを押して這い出てゆくには